さざ波
口を閉ざせば沈黙のせせらぎが聞こえる。
ここは何処だろう。
得体の知れない不安が遂にはさざ波となり、私は裸足にもなれないままの幼さを演じて、駆け足で飛沫と舞おう。
老いぼれた口を晒せば、記憶の中の潮騒が荒れ狂い、私は裸にもなれないままで成熟を演じて、洗練されたジェスチャーで水泡と戯れよう。
ここにいていいのだろう。
口は塞いだままでいたいのだろう。
黙って沈んで、なすがまま。
夢は私の犠牲になって、誰かの顕示欲を押し上げたなら、誰かの夢は叶ったことになるのだろう。
黙って沈んで、揺めきの彼方。
強い日射しを浴びたさざ波は、鋭利な剃刀の切れ味で揺蕩う私の残像を切り裂いて、遂には私は私のことも黙秘させた。




