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100歳の魔女、不老不死のロリになる。  作者: 上辻樹
第三章 エルフと風の魔力大結晶
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私はあなたを倒します

あの小さな女の子は、自分よりもしっかりしていた。

時間をかけてものを考え、実際にやってみたことのある人間の、重みのある言葉だと思った。


ナズナは、今まで自分で考えて何かを決断したことがあるだろうかと自分に問う。

小さいころは全て両親に任せていた。

少し大きくなったころは、ボンバイに任せていた。

そのあとは、自分を助けてくれた村の人たちに任せ、エルフを産むようになってからは、五星団に任せた。


何ひとつ、自分で決めて始めたことはない。

全て流れに身を任せていただけだ。


自分の力で生きる、と口で言うだけならそう難しいことではない。

しかし、実際にやるにはとても困難で、体力と精神力のいることだ。


今日、彼女たちがまだこの村を去る前に、ナズナはやるつもりだった。

この村を、完全に破壊し、エルフの供給はやめる。


その後のことは、まだ考えていない。

しかし、今やらなくては、またずるずると元の生活に戻るであろうことはわかっていた。

頭の霧が晴れている今だからこそ、できるのだ。


エルフたちにはナズナと彼らだけの間で交わせる言葉を用いて説明をした。


もう兄弟たちは育てない。

エルフの苗床としての役割は終える。


人間に買われたら抵抗をせず素直に受け入れなさい。

抵抗を喜ぶ人間に買われているから。


そして、もう母の元へ帰ってきてはいけないと諭した。

脱走したエルフは、一様に苗床の元へ帰ろうとする。

脱走した後、魔力の供給が受けられなければ、彼らはじきに消滅する。


しかし、精霊とはそういうものではないだろうか。

過酷な環境で無理矢理生き永らえさせることに対する違和感。

粗末な命として扱われ、消耗品と同じく、使えなくなればどちらにせよ消滅させられる。


ならばせめて、自分の意思で外へ出て、潔く消滅しようではないか。


ナズナの命令は、エルフたちにとって絶対的なものだ。

それでも、受け入れがたいという声が聞こえた。

生き方を選べる生き物はいない。

エルフにとっては今の状況が正しいのだと、彼らは反論する。


ナズナは彼らの声に耳を貸さず、命令を遵守させる。

一生を家畜で終えるのも、生き方のひとつではある。

しかしナズナはそれを拒否することに決めたのだ。


エルフはナズナが死ねばまた別の苗床から産まれるだろうが、ナズナ自身はそうはいかない。


エルフの持つ記憶が見られたら、昔にも同じ決断をした人間はいくらでもいただろう。

その中には、自害を選ぶ者だって、少なくないはずだ。


ナズナは生きることを選んだ。

たしかに生き方を好きに選ぶことはできないが、特殊な条件下でなら選択肢はある。


それが今、外部の人間がこの村を偶然訪れ、ナズナの秘密を知り、やってもよいと背中を押してくれた。


エルフ舎から出ると、太陽が眩しく、ナズナは顔を伏せた。

これからいつも通り、エルフたちは出荷されていく。

だが、その道中が、今までと同じく無事なものだとは、限らない。


想像して無意識に笑みを浮かべてしまう。

顔を伏せていて良かった。


ナズナは彼らの前ではいつもと同じく殊勝に振る舞い、イライアのいる屋敷へは帰らず、そっと村の外の森へ抜け出た。

皆の注目が幌馬車に集まっているため、入り口の脇から抜けるくらい造作もないことだった。


この村の周囲には精霊の嫌がる木材を用いた柵が敷き詰められている。

だから“彼ら”に会うには少し離れたところまで行かなければならない。


しかしながら、十数メートルも歩けば、痕跡は見つかる。

特性上、村を中心に活動しているからだ。

木の幹についた十字の印を見つめていると、背後から物音がした。


緑色の巨体を持つ恐ろしい精霊が、優しい目つきをして立っていた。


――もしかすると、と思ったのだ。

オークはエルフが生み出すものだとは知っている。

しかし、その発生は雑草が生えてくるように予測不可能で、ナズナも直接彼らの発生を目にしたことはない。

だが、少しでも繋がりがあるのなら、感情を通わせることができるのではないかと思ったのだ。


精霊には精霊にしかわからない会話の方法がある。

雰囲気を漂わせ、最大まで気を張り巡らせ、感情の流れを読み取る。

ナズナが自力で辿りついた精霊との会話方法だった。


ナズナはただひたすらに頼んだ。

あの村を壊してほしい、と。


彼は答えた。

自分たちは守る者であり壊す者ではない、と。


ならば、守ってくれ。

――エルフはすでに守られている。

エルフではない。

――何を。


――私を。


ちょうど、同時に答えたような気がした。

心が通じ合ったに違いない、とナズナは微笑んだ。


――実際は違う。

エルフもオークも、分裂したナズナの一部でしかない。

会話ができるのはそのためだ。

彼らが別の種族であると思っているナズナにそれを自覚することはできなかった。


ナズナは頼み事が終わると、足取りも軽く村の方へ戻った。


なんだ、やってみれば簡単なことだったじゃないか。

これで準備は整った。

守るためなら、彼らは動いてくれることがわかった。


まずは、エルフを乗せた馬車を襲わせる。

守るためだから、仕方がないのだ。


馬車が襲われたら、村の人間たちは、今度は村に何か起こるに違いないと考えるだろう。

ありえないことが立て続けに起こる予感は絶対的で、それを抑えられる冷静なリーダーは、あの村にはいない。

さぞ怯えることだろう。


各々が武装し、抵抗を試みようとする。

そうなれば、もうこの争いは止まらない。

闘争心に火のついた人間とオークは互いに殺し合い、やがて、あそこは更地となるだろう。


そうなれば、ナズナを知る者は誰もいなくなり、晴れて自由の身となるのだ。


急に思い立ったわけではない。

ずっとこうしたかったのを、胸が焦がれるほどに夢見て、押し殺していただけなのだ。

できるはずがないと決めつけて、ただひたすらに助けを待っていた。


自分の力で何とかしなければならないと、他人に言われなければ気がつくことすらできなかったのだ。






――イライアは気が気ではなかった。

畜舎に飼われていたものがエルフで、その出荷を終えた話を耳にしたものの、その後数分で、馬車がオークに襲われたと皆が騒ぎ始めたからだ。


情報を集めて先手をとろうとしたのに、この有様だ。

次にナズナが何をやろうとしているのか、見当もつかない。


オークを操ったところで、この村には精霊避けの柵がある。

緊急事態への対応で今は閉じられている正面の門も同じ材質だろう。

村に侵入させるには、柵を破らなくてはならないため、オークには絶対に不可能だ。


皆が慌ただしく剣や槍を手にして、村の中央に集まっている。

喧々囂々、各々が好き勝手に喋り、いつまでたってもまとまる気配はない。

ここにいないナズナが、リーダーの役目を担っていたのだとよくわかる。

もしくは、この状況を予測してリーダーを担っていたのだろうか。


彼らはイライアたちのことをすっかり忘れているようで、姿を隠してさえいれば、探されることもないだろう。

見つからないように動くのも簡単ではないが、魔法で土壁を作りつつゆっくり動けば問題ない。


「ナズナさまはどこに行った!?」

「わからない!」

「誰か見ていないのか!」


そんな声が聞こえてくる。

やはり戻ってきてはいないようだ。


(いったい、どうするつもりなのよ……)


イライアがやっと村の端まで辿りついて、塀の内側に身をひそめて何が起ころうとしているのか探っていると、突然森から怒号のような叫び声が鳴り響いた。


いや、正確には怒りの感情ではない。

これから、闘いへ向かう戦士たちの、鼓舞の雄叫びだ。


「――来る」


イライアが呟くのとほとんど同時に、正反対にある囲いが揺れ出す。

何かが裏から揺さぶっているような、規則的な揺れが、囲いを徐々に激しく揺らしていく。


(そんな、あそこには柵があったはず――)


そう考えて、すぐに気がつく。

精霊避けの柵をさわれないのは、オークだけだ。


「ナズナさんなら、動かせる」


イライアは村の中央へと駆け出していた。

先程までとは事情が変わった。


「皆さん! すぐにエルフ舎に入ってください!」


突然現れたイライアに男たちは戸惑い、不安からくる怒りの感情をこちらへ向ける。


「なんだ? お前は昨日のガキじゃねえか!」

「話をしている暇はありません! すぐにでもオークの大群が押し寄せてきますよ!」

「なんでお前の命令を――」


イライアは文句を言った男に向かって電撃を放ち、失神させる。


「ぐずぐすしないで! 死にたいの!?」


彼らは一斉に、皆エルフ舎へ走り出した。

やはり人を説得するには力が一番だ。


そして、それと同時に、村の塀が破られ、緑色の巨体をしたオークたちが、のしのしと入り込んできた。


村人たちをエルフ舎に押し込み、イライアは扉を閉じる前に彼らに言う。


「中心に固まってください! この建物を覆うけれど、どれくらいもつかはわかりません!」

「お、お前はいったい……」

「後で!」


扉を乱暴に閉めて、イライアは指輪を使ってエルフ舎をドーム状の土の塊で覆い、さらにその外側を砂鉄を固めて作った鉄の薄い膜で覆う。

まるで亀の甲羅のようになったが、どこにも隙間はない。


(無いよりはマシ、よね)


オークたちの方へ向き直る。

彼らは手斧で、その辺にある木箱や樽、家屋などを破壊することに勤しんでいるようだ。


「精霊って言っても、知能は動物以下。統率さえとらせなければ……」


イライアは黒い弓を地面から作り出し、雷の矢を番える。


(ナズナさん。こんなやり方はダメ。一度でも人を殺したら、もうずっと、逃げられない)


雷の照準は彼らの中で一番遠い者に合わせる。


火雷ほのいかづち!」


光速の雷がオークに当たり、破裂音と共に消滅する。

それを口火に、オークたちの注意が、一斉にイライアへと向いた。


ぎろり、と鋭いまなざしを向けられ、イライアは少したじろいだ。

それを感知されたのか、オークたちは、斧を振りかぶる。


「え、まさか」


ブン、と風を切る音がして、無数の手斧が、回転しながらイライアへ襲い掛かる。


「ちょっと待って! それ反則だって!」


イライアは咄嗟に地面に手を当て、砂鉄の壁を作り、視界を遮って、横に跳んだ。

手斧は容易く壁を貫通し、先程までイライアのいたところに刺さる。

危なかったが、投げてしまったら、彼らにはもう武器がないはず、と視線をオークへ向けると、彼らは投げたはずの手斧をすでに持っていて、二回目の投擲の準備を始めていた。


精霊だから、持ち物ですら物質とは異なる。

これは鉄の手斧に近い性質を持つ、魔力でできた物質なのだ。


――狙いの正確性は高いが、弧を描いて飛んでくるため、避けられないことはない。

イライアは雷を練り、巨大な雷の球を作り出す。

性質が鉄であるなら、磁力を無視することはできないはずだ。


強大な磁力を込めた雷球を、鉄斧の雨に向けて放つ。

すると、面白いように吸いついて、斧は空中で勢いを失い、イライアの魔法が切れるのと同じタイミングで、地面へと落ちた。


「よし、通用する」


オークが精霊であるがゆえの弱点は、学習能力のなさだ。

彼らはまた、手斧を投げる動作を始める。


今度は、イライアから仕掛けた。

磁力を持つ雷の魔法を網状に伸ばし、彼ら全てに覆い被らせた。


彼らの腕力よりも強い磁力で、彼らの行動を縛る。

斧を振りかぶったまま、動けなくなる者が半数以上だった。


イライアは彼らと会話するための手段を知らない。

シーリントルのように言葉を発するのは、手段を行いやすくするための形式的なものだ。

実際、イライアには向こうの言葉は聞こえなかったのだから。


だから、今警告をして退いてもらうことは難しい。

倒すしかない。

この場で、全て。


そう決意すると、今度は、オークの群れの中からナズナが現れた。


「ナズナさん……」

「ごめんなさいね。これしかないの。邪魔をしないで」

「ダメです。ここは通せません」

「それはおかしいでしょう。行動しろと言ったのはあなたでしょう?」

「……でも、人を殺すのは、ダメです」

「人間は軽率にエルフを殺すのに?」


精霊と人間は違う。

そう言おうとしたが、脳裏にシーリントルの姿が浮かぶ。

精霊と人間の間には確固たる種の壁があると断言するだけの勇気がなかった。


「……それは、殺す人が悪いんです。ここの人たちは、そんなことはしなかった」

「したわ。あなたは知りようがないことだけど、ここの人たちの報酬って、エルフなのよ」

「え……」


ナズナの瞳が暗く深いものへと変わっていく。


「エルフを買うお金がないけど、エルフが欲しい人が、ここで働いているの。だから、彼らはエルフの品質に気を遣うし、私にも表面上は逆らわない」

「……でも、だからといって、エルフを乱暴に扱うと決まっているわけじゃ」

「私には、分かるの。それぞれのエルフが、どういう最後を遂げたか。もちろん、全員が悲惨な目にあっているわけじゃない。でも、ここに来るような人たちが求めるのは、そういう欲求のはけ口なの。例外なく。自由に弄んで良い人間より非力で人間に近い存在を得るために、ここに来ているの」

「そんな……」

「そこをどいてくださる?」


二度は言わない、と表情に出ていた。

ここで彼女に賛同しなければ、村もろとも潰すつもりだ。


「……嫌です。絶対に、あなたに人は殺させない」

「わかったわ」


オークたちが武器を捨て、のそのそと集まり始める。

互いに溶けあい、たくさんのオークたちが、ひとつの肉の塊となっていく。


(――精霊としての質が、変わっていってる)


今まで腕力のみしか振るえなかったオークたちが、ナズナという頭脳を得て、新たな存在へ変化しようとしている。

緑色の肉塊はやがて、一体の、ひとつ目の巨人へと姿を変える。

体格はオークのままに、大きさは七、八メートルといったところだろうか。


見上げるほどに高く感じる。

圧倒的な威圧感だ。

彼の手に握られていたのは鉄の手斧が溶けてくっつきあったような、おどろおどろしい鉄のこん棒だった。


「サイクロプス。私が求めた、力の形」


ナズナはサイクロプスの口を通して言葉を発した。

この中に、共に取り込まれているのだ。

助け出すには、倒すしかない。


「全てを壊す。あなたがあそこに彼らを集めてくれたおかげで、とても壊しやすくなったわ。礼を言うわね」

「勝った気にならないで。私はまだ、ここに――――」


次の瞬間、イライアには反応できない速度で、こん棒が地をえぐり、小さな体を吹き飛ばした。


「これなら、あなたには止められないでしょう?」


ナズナはまるで張り詰めた糸をこするような耳を塞ぎたくなる笑い声を発した。

それは人間の声帯からでは絶対に出ない音だ。


(精霊って、ここまでなの……?)


イライアは地面を転がり、飛びかけた意識を雷の刺激で無理矢理繋ぎ止め、膝をついて立ち上がる。

何が起こったのかすらわからず、気がついたら目の前に衝撃の壁があり、吹き飛ばされていた。


(意識はある。出血はしてなさそう。骨は、折れてない?)


息を吸うと脇の下の辺りが痛む。

肋骨が折れているのかもしれない。

若干の息苦しさを覚えながらも、イライアは立ち上がった。


「……今度は、こっちの、番」


イライアは地面から黒い弓を呼び出す。


火雷ほのいかづち


巨大な雷の矢が、サイクロプスの目を直撃し、同時に、刺さった雷は、炎へと姿を変えて燃え盛った。

雷はそのものの形を保っていられる時間が短い。

衝撃と共に、そのエネルギーは炎へと変わる。


――サイクロプスは地の震えるような雄叫びをあげた。


人は、致命傷を受けた時にこそ、本性が出るという。

サイクロプスが怒りに燃えている様子がわかった。

イライアは確信する。


これはずっと我慢してきた、ナズナの本心なのだと。

怒り、暴力、その行使。


「ナズナさん、私は、あなたの気持ちを受け止めるには、あまりに小さすぎます」


イライアは呟く。

この暴力性を焚きつけたのは自分だ。

彼女はこの行動に命をかけていることが痛いほどにわかる。


「だけど、負けない。ここで私が負けたら、あなたは力に支配される。支配されたままになる。死ぬより不幸なことになる」


暴力による解決は、新たな暴力を生むだけだ。

力の行使を闇雲に行ってはならない。

それが力を持つ者の責務だ、と雷の魔女シュナに教えられた。


「私はあなたを倒します。誰の恨みも買わせません」

「小娘が何を!」


サイクロプスのこん棒が迫る。


「新式雷魔法、若雷わきいかづち


イライアの姿が、消えた。






殺すつもりだった。

村にいる五星団の者を殺すつもりなのだから、子供のひとりくらいついでに殺してもいいではないか。

オークの持つ凶暴性に取り込まれたナズナはそう考えていた。


目に見える全てを壊して、新しく作り直す。

一度全てをゼロにしなくては、自分の人生を始められないと思っていたからだ。


少女は、この力の塊であるサイクロプスを倒すと言った。

それがまた、ナズナの神経を逆なでする。

出来もしないことを安易に口にするとは。


先程よりも深く、早く、こん棒を振るった。

しかし、その瞬間、彼女は吹き飛んだのではなく、忽然と消えたのだ。


視力が完全に回復し、土煙の中に彼女の姿を探した。

何も見えない、というより、そこにはいない。


隠れたのか、と周囲を見回すと、一筋の光に気がついた。

それは、ある時は高所に、ある時は足元に、忙しなく、一本の線を描きながら移動している。


死角から突然、さっきの魔法が左肩に突き刺さった。

その魔法が何なのかはわからないが、着弾と同時に燃える魔法のようで、さらには手で払っても燃え尽きるまで消えない。


視線を肩から村の方へと戻す。

考える暇もなかった。

認識した時にはすでに、無数の光の筋から取り囲まれていた。


反射的に、その光を手で払おうとしていた。

しかし、すると今度は手が大火に覆われる。

あまりの威力に精霊の体を構成する魔力が、その結束力を弱め、霧散していくのがわかる。


雨あられと飛来する魔法に、自分でも驚くほど無力だった。

これだけ大きな体と強い力を持ったのに、自分の半分ほどの年齢であろう少女に手も足も出ない。


もう一度考える。

彼女は嫌だったらやめていいと言った。


――こういう手段をとれと言ったのではないと理解している。

だが、やりたかったのだ。

感情のままに暴れてみたかったのだ。


自分でも想像していなかった力が溢れ、この世で最も強い存在になったような気がしていたのに、簡単に打ちのめされて、すぐに現実に引き戻される。

感情のままに暴れるのでは、良い結果を生むことはできない。

彼女は体を張って、それを教えてくれている。


全身が猛火に包まれ、サイクロプスは抵抗を止めた。

膝をつき、天を仰ぐ。

炭化した体が、空に吸い込まれるようにして、消えていく。


十数年かけて生み出し、作り上げた精霊の力が、たったの数分で、無に帰していく。

ナズナは涙を流していた。


壊すことだけが、ゼロに戻すことではない。

失うこともまた、ゼロである。


大きな精霊体を維持していたことによる魔力切れにより、ナズナは空を見つめながら意識を失った。


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