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100歳の魔女、不老不死のロリになる。  作者: 樹(いつき)
第二章 マーナガルムと雷の魔女
39/86

そういうものだろう

目の前で突然起こった派手な爆発に、イライアは足が震えた。

自分がさっきまで置かれていた状況も、理解していなかっただけだったのだと今度こそ理解した。


自分の両手を見ようとするも、焦点が合わない。

頭が芯から冷えていくような確かな恐怖。

呼吸が浅く、回数が増える。


もう一度、大きく地面が震えた。

今度は、立っていることもできず、ぺたんと地面に尻餅をつく。


すぐ近くでシーリントルが謎の敵と戦っているのに、それを見ることすらできない。

貧血が起きた時のような気持ち悪さに、イライアは顔を下げた。

全身が気怠く、眠ってしまいたい欲求に襲われる。


(違う! シーリントルが戦っているのに私が倒れてどうするの!?)


時間の感覚もおかしい。

時の流れが伸びたり縮んだりしているのが分かる。


さっきまでの拷問に耐えられたのは、あれが現実でないと分かっていたからだ。

今目の前で起こっていることは現実で、人体など軽々と粉砕するであろう爆発に対して全くの無力である自分がいる。

『魔力切れ』が、これほど心細いものだとは思わなかった。


「うわっ!」

「シー!」


シーリントルが吹き飛ばされて、イライアの前に転がり、すぐに立ち上がる。

服が焼け焦げただけで、怪我はしていないようだ。


「大丈夫! イライアちゃんはもっと遠くへ!」

「あ、足が……」


足に力が入らず、立てない。

シーリントルがどういう反応をしているのかが怖くて、顔を上げられない。

足手まといになったことを失望しているに違いないのだから。


「――わかった」

「え?」


シーリントルはイライアの前に立った。

なぜ逃げないのか、考えるだけの余裕がない。


「あの人の爆発、威力はあんまりない。私がここでイライアちゃんの盾になる」

「な、何を言っているの!? 逃げないと!」

「私が逃げて、イライアちゃんが狙われたら、おしまいだよ」

「そ、そんな、私なんか」

「大丈夫、イライアちゃんは死なないし私も死なない。もっとイライアちゃんのことを知りたいし、私だってまだいっぱいお話したいこと、あるから」


シーリントルは体を固めて防御の姿勢をとる。

仮面の男が短剣を振りかざし、シーリントルへ切りつける。

ギイン、と剣の鋼が震えるような音と爆風が炸裂する。


シーリントルが少しよろめく。

いくら身体が丈夫だからといっても、彼女はまだ子供なのだ。

大人が本気で切りかかれば、その小さな体は簡単に吹き飛ぶほど脆いものだ。


身体を張って盾になるシーリントルの姿を見て、昔の記憶がよみがえる。


――あなたは何もしなくていい。

母親にそう言われた。

一生を母親の隣で過ごせば、自力で雷魔法を習得する必要はない。

問題があればすぐに対応できるから何もせずに部屋にいろ、というのが母親の命令だった。


そこに心配や庇護の気持ちも少しはあったかもしれない。

しかし、その本心はまだ知らない。


イライアが何を思っていて、どうしたいと考えているかなど、彼女には関係ないのだろうと思う。


(でも、今は違う)


少し前まで、母の言葉にすら抗う術を持たなかった。

それが今ではあのシュナから魔力大結晶の指輪を受け継ぐまでになった。


まだまだ限界は先にある。

今ここで立ち上がるだけの力を、今この場でつければいい。


そう思った時、心の中で何かが弾けた。

指輪にはめられていた橙色の魔力石が、まるで巨木のように『成長』した。


その場にいた全員が静止した。

何が起こったのか理解していたのは、イライアただひとりだろう。


「これが、魔力大結晶の本当の姿……」


おおよそ三メートルほどの岩石となったにも関わらず、重さはまるで感じない。

どれだけ大きくてもこれは魔力の塊なのだとわかる。

そして、指先から、温かい魔力がイライアに流れ込んでくる。


イライアが魔力大結晶に小さくなるよう念じると、また今までのように指輪の装飾へ収まった。


「私、分かった。分かっちゃった。自分のやり方。繊細な魔力の操作ができないなら、思いっきり出してしまえばいいのよ」


地面が盛り上がり、黒い長弓が姿を現す。

黒色酸化皮膜で覆われた鉄の弓だ。

まるで鹿の角のように細くしなやかで、装飾は一切ない。


イライアが弦をつま弾くと、太い雷の矢が出現した。

そもそも、空中に矢を浮かばせて矢を放つという行為に疑問があった。

矢は弓で放つものだろう。


「九式雷魔法は大ばあさまのもの。私はまだ先へ進める」


適性がなかったからこそ気がつけた。

先人の知識を得たうえで、新しいものを生み出す必然性。

指輪の魔力石からは無尽蔵に力が流れ込んでくる。


「新式雷魔法、火雷ほのいかづち


放たれた矢は、シーリントルの脇を抜け、仮面の男へ突き刺さる。

一瞬の出来事に、シーリントルですら反応できていなかった。


仮面の男は矢の勢いに押されてごろごろと地面の上を転がっていく。

その胸には確かに雷の矢が突き刺さっているにも関わらず、まだ立ち上がる。

それがどうしようもなく彼を救えないことを示していた。


――彼はすでに、死んでいるのだ。


身体を動かしているのは、ただの魔力。

そこに意思はなく、ただ与えられた本能に従ってシーリントルを襲っている。

彼を救ってあげるには、精霊の干渉から解き放つしかない。


「シーリントル、私が援護するわ。思いっきりやっちゃって」

「でも、まだあの人……」


イライアは首を振る。


「あなたも勘がいいなら分かっているでしょう。彼はもうすでに息絶えている。いくら偉大な魔女でも死人を甦らせることはできないはずよ」


シーリントルは認めたくないことを認めるためか、唇を噛みしめていた。

彼女も彼が死んでいることはわかっているはずだ。

しかし助けられる可能性を諦めたくないのだ。


「……私が奴の動きをある程度制限する。でも魔力で動いているから、一瞬しか止められないと思う」

「私は、どうすれば?」

「精霊纏いを行っているあの道具を完全に破壊して」


イライアは覚悟を決めて、矢を番える。

道具さえ壊せば、精霊纏いは自然と解除され、爆発を起こすことはできない。


「ダメだよ! あの仮面は壊しても爆発するんだよ!」

「さっきから見ていたけど、爆発には一瞬の溜めがある。魔力の集中を雷魔法で乱してやれば、爆発させずにトドメをさせるはずよ」


立ち上がろうとする彼にもう一度雷の矢を打ちこむ。

彼の様子を見れば、魔力による支配よりも雷による麻痺の効果が上であることがわかる。

それは魔力の流れが断ち切られていることの証明でもあり、反撃しようと思ってもできないのだ。


物理的な仮面の破壊はシーリントルに任せ、こっちは彼の動きを止めることに専念する。


「――イライアちゃん」

「何よ。他に作戦でも思いついたの?」

「ううん、違う。私ひとりじゃ上手くいかなかったけど、イライアちゃんと一緒ならできる気がする」

「…………」


今までも何度かそういうお世辞を言われたことはあるが、今回だけは背筋がむずがゆくなるのを感じた。

彼女が心の底からそう思っていて、頼りにしているのだと分かったからだ。


「イライアちゃん?」

「や、やってみないとわからないでしょ! さあ、やるわよ。私が一発目を撃ったら、あなたが攻撃。その間に、私がもう一発撃ちこむわ」

「わかった」


雷の矢を番える。

緊張による震えはもうなかった。


「新式雷魔法、火雷ほのいかづち!」


発射された雷は、男の身体を貫き、弾けた。


「――え」

「イライアちゃん! 止まっちゃダメ!」


シーリントルは叫びながら構わず彼の懐へ飛び込む。

さっきまでは有効だった雷の矢が効かなかった。

焦って次の矢を放つも、また弾けて消える。


「なんで、なんで、どうして……」


呟きながらも連続で放つ。

その全てが、彼に当たった瞬間に、弾けて消えるのだ。


「――それではいかんな」

「はいっ!?」


突然背後から声をかけられて、イライアは縮みあがった。

白銀の髪をした赤い眼の少女――ロアが雷の矢に手をかけると、それもまた弾けて消えた。


「お前、精霊と死体の違いはわかっているか?」

「え、その、意味が……」

「アレは今、死体に精霊が入っている状態だ。精霊は本来、学習はできてもその記憶を引き出すことが苦手な生き物でな。そこで人間が、時の流れに抗うことのできない肉の身体が必要になるのだ。それをお前たちは契約と呼ぶ。一時的に人間を記憶媒体として、自分がどういう存在かを認識する。そして可能なことを行う」

「じゃあ、私の魔法が消されたのは……」

「お前の魔法を消すことが可能だと学習したのだ。方法は調べなければわからんが、大方魔力を感知した瞬間、破裂させておるのだ。爆発を起こす精霊だからな」

「そんなことができるなんて……」

「現実としてできておるのだ。まずはそれを認めろ」


話をしている間も、シーリントルは彼の剣を躱しながら、時たま爆発に当たっている。


「もしかして、シーが爆発に耐えられているのって」

「お前の想像の通り、同じことを行っているのだ。おそらくあいつは何度か同じ魔法に当たればそれに対する耐性を得られる。まあ、ヤツの場合は元々の強度もあるし、少し条件や方法が特殊だが、結果としては同じことが起こっている」

「どうすれば、その壁を通せる?」

「簡単だろう。より強い力で一発かませ。昨日も言ったはずだが、お前の力は木端精霊に弾けるような弱い力ではない。まだ全力の出し方を知らないだけだ」

「全力の出し方……」


指輪の魔法石を見つめる。

魔法石は魔力の結晶体で、魔力大結晶はその中でも特別な、この世界にたった四つしか存在しないもの。

それをたかが弓と矢を作るだけのことで使えた気になっていたのか。


「お前たちの血に流れる魔力は確かに特殊だ。血の本質が普通とは異なるから一種の魔法しか使えん。だが、魔法石さえ通せば様々な魔法を使えるのだろう? その指輪の魔法石で土魔法を使い、お前自身の魔力で雷の魔法を同時に使うことは可能なはずだ」

「でも私、魔力切れしてて……」

「魔力切れ? 何をぬかすか。貴様の魔力回路が開き切っているから魔法を上手く扱えないだけだ。今のお前は滝のようなものだ。微細なコントロールなどしようとするな。ただ流れに身を任せればいい」


魔力が切れているわけではなかったのか、と拳を強く握る。

まだ、知らないといけないことがたくさんある。


「ひとつ、聞きたいのだけど」

「何だ?」

「彼を助けることはできる?」

「簡潔に言おう。死人を甦らせることはできん。人間としての魔力はすでに失われているからな。だが、お前たちが上手く爆発させることなく仮面を取り除けたなら、儂も最善を尽くそう」

「……それで十分。私はただ、思いっきりやればいいのね」

「早くした方がいいぞ。シーリントルの肉体的な強度とて、無限ではないのだからな」


爆発による外傷は防げていても、じわじわと内部が痛んできているのか、シーリントルは苦しそうな顔を浮かべていた。

ロアが近くに来ていることにすら気がつかないほどに、必死に集中して攻撃を防いでいるのだ。


「シー! もう一度行くわよ! 作戦の通りに!」

「うん!」


シーリントルはこちらに視線を向けることなく返事をする。

信用している、とその背中が語っている。


「新式雷魔法、火雷大神ほのいかづちのおおかみ


それは矢と呼ぶにはあまりに巨大であった。

破城槌のような大きさの雷で、イライアの姿すらも白く眩く輝く。


全力を出す、と口で言うのは簡単だ。

しかし全力を持続して出し続けることは、容易ではない。


強すぎる雷の魔圧に、イライアは腕が燃えるように痛み、表情を歪めた。

しかし、その手は離さず、しっかりと視線は男の方を向く。


(このままじゃ撃てない……!)


土の魔法を呼び起こし、弓と矢を支えさせる大きな土台を作る。

しっかりと自身と弓を固定し、火雷大神に負けないよう、踏ん張る。

その姿はまるで兵器であった。


息を止め、狙いを定めて、放つ。

今までの雷の矢とは比較にならない速さで、男へと突き刺さる。

触れた瞬間、轟音と振動が鳴り響いた。


放ったイライアですら驚いて身体がすくんだのに、シーリントルはもう動き始めていた。

身を丸めた男の足を手ですくい上げ、仰向けに転ばせる。


イライアは彼女が仮面を殴ろうとしていることを察して、二の矢を放つ。

仮面にシーリントルの拳が振り下ろされるのと、ほとんど同時に火雷が着弾し、何もかもが白い光で視えなくなる。


これが爆発によるものなのか、雷の炸裂によるものなのか、イライアですら判別ができなかった。

そんな中、イライアの構えた弓を、ロアがそっと降ろさせた。


「完璧とまでは言えんが、よくやった。シーリントル! お前も精霊纏いを解け。もう全て終わりだ」

「ロア、ちゃん?」

「……お前、また魔力を食ったな? 今日はもう仮面を外すな。自我が戻っても顔は戻らんだろう」


ロアは倒れた男の傍に膝をつき、額に手を当てる。


「うむ、他のふたりは油断させるためだけに作られた紛い物だったようだ。こいつだけ精霊による脳の支配領域が違う。元の人間の剣技を活かそうとしたのだろう。姑息な手段だが、引っかかるやつがいなかったのは幸いだな」

「それで、この人はどうなるのよ」

「人の記憶は脳に宿る。完全とまではいかずとも、ある程度は治せるだろう」


ロアは割れた仮面を拾い上げると、裏を覗いた。

そこに人さし指で何かを描くと、半分の仮面を男の顔の左半分に戻す。


「……う、あ」


男がうめき声をあげて、口をパクパクさせている。

意識はあるが、声は出ないといった様子だ。


「おい、よく聞け。お前は脳の機能の一部が消失してしまっている。特に記憶力が欠落しているだろうな。健忘症というやつに近い。精霊に脳の記憶部分を使われていたせいだ。これから先、新しいことを記憶することができないだろう。そのうえ、体の方も無理をさせられすぎて脊髄をやられている。二度と立って歩くことはできまい」


それを聞いて、イライアは愕然とする。

いくら生きているとはいえ、そんな状態を治ったと言っていいものなのか。


「そんな、ロア、何とかならないの?」

「言ったはずだ。最善は尽くす、と。一度死の淵から甦るということは、それなりにリスクを伴う。亡者の手から逃れるために、払わなければならない代償もある」

「あなた大魔女なんでしょう!? もっと、彼が普通の生活を送れるようにだって!」


イライアが感情のままにロアの肩を揺さぶると、ロアは淡々とそれを払った。


「お前は何か勘違いをしている。儂は神でも悪魔でもない。所詮は理に従うことしかできぬモノだ」


その目には怒りも悲しみもない。

本当に、ただ事実を告げている様子だった。


「――お前は、生きるために多くのものを失ったこいつは、やはり死んだままの方が良かったと言えるか? 五体満足でなければ生きているとは言えないと思うのは自由だ。だが、こいつを否定してやるな。命とはどれもが同じ形をもつわけではない」

「そんなこと、わかってる、けど……」

「考えたいだけ考えればいい。答えが出ぬものであれど、考えてはならないということはない」


ロアはそう言ってシーリントルへ彼を運ぶように指示を出す。

背負っても身長が足りず、膝から下を引きずっているが、ロアからすればそれは些細なことのようだ。


「お前たちは先に病院へ向かえ。シーリントルがシュナの匂いを追えば辿りつくだろう。儂はもう少し、このバカから話を聞かねばならん」


水の鎖で縛られたマーガレットが、芋虫のように地面でのたうち回っている。

いつから捕まっていたのだろうか、彼女のことなどすっかり忘れていた。


「私もここにいてもいい?」


イライアは思わずそう聞いた。

ロアがやることを、できるだけ多く見ていたいのだ。


「構わんが、別に面白いことはないぞ」

「面白いかどうかは私が決めるからいいの」

「そうか。悪いがシーリントル、ひとりで行ってくれるか? できれば騒ぎになる前に病院へ着いてもらいたいのでな」

「わかった。シュナさんたちと合流しておくね」


シーリントルはずりずりと二本線を描きながら去っていく。


「さて、まずは自己紹介でもしてもらおうか。記憶を読んだ方が早いのだが、さすがの儂も魔力が切れかけていてな」

「誰が教えるものですか!」


マーガレットは縛られていてもお構いなしに虚勢を張っている。

いよいよ追い詰められて、逆に落ち着いたようだ。


「……この人はマーガレットよ。この学校の掃除婦で、創立当初からずっと働いている」

「それにしては若いな。二十代か三十代の雰囲気がある。どういう理屈だ?」

「代々受け継いでいるって聞いたわ。だからこの人も本物のマーガレットじゃない」


イライアの言葉に、マーガレットが含み笑いをする。


「ふっ、本物ね……。本物なんてどこにもいないわよ。マーガレットという名はそもそも特定の個人をさす名前じゃないもの」

「ならば、学校創立時からここに潜んでいたと? 馬鹿な」

「そういうことよ! あなたたちが相手にしている五星団は、それくらいのことができる組織なの。あの方々のなさることは、誰にも邪魔することはできないのよ!」

「ふうん。お前が五星団の下っ端であることはわかったからもういいぞ。どこへでも行け」


ロアはウンディーネに言ってあっさりと拘束を解く。

イライアも、解放されたマーガレットもポカンとしていた。


「な、は? 私をこれから拷問するつもりなんでしょう? ありったけの情報を搾り取るために」

「いや、いらん。敵の数を知りたかっただけだ。今晩だけでも儂らはふたつの組織に狙われていることがわかった。魔力大結晶を持っていればそのうち根まで枯らすことにはなるだろうが、数くらいは知っておかんとな」

「ちょ、ちょっと待ってロア。そんなことでいいの?」


何を言われているのかわからない、というような顔でロアは首を傾げる。


「そんなに簡単に敵だなんて……」

「敵は敵だろう。ん? お前、敵に会うのは初めてか?」

「いや、どう言ったらいいのか……。そういうものじゃないでしょう?」

「そういうものだろう」


まるで会話にならない。

イライアには想像もつかない背景があるのだろうが、認識が違いすぎてこれ以上聞いても何も答えは返ってこないだろうことも分かる。


「ひとまずは儂らも病院へ行くか。今回のことをまとめて、次のことも考えねばならんしな」

「そうだ大ばあさま! 早く行かないと!」

「待て走るな。儂はひと晩中走り回ったのだ。足が重くてかなわん」


ロアはまるで老人のように背伸びをして、とぼとぼと歩き始める。

イライアもそれに合わせて、納得いかないながらもゆっくりと歩いた。


朝日が昇り、町に人の気配も増え始めていた。

どこからも悲鳴などは聞こえない。

いつも通りの朝を迎えられたのだとわかっただけで、イライアはほっとした。


「で、本当は何だ?」


雑踏にかき消されない程度の声で、ロアが言う。


「何か儂に話したいことがあるから残ったのだろう」

「あ、あの、えっと、その、私って、どうなのかなって、思って」

「具体的に」

「……才能、ある?」


今聞くことではないのかもしれない。

しかし、イライアが一番知りたいこと、今までの人生が無駄であったかどうかの答えが、それだ。

とても人前では恥ずかしくて口にもできないことだから、今この時にしか聞けないのだ。


ロアはため息をついて言う。


「ない」

「は、はっきり言うわね」

「才能というものが多面的に秀でているということならな。お前の強みはお前が一番よくわかっているんじゃないのか? お前がなりたいのは、一端の魔法使いか、シュナか。どっちだ?」

「そんなの、もちろん――」

「だから才能がないと言っている」


ロアは呆れたようにまた大きなため息をついた。


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