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100歳の魔女、不老不死のロリになる。  作者: 上辻樹
第二章 マーナガルムと雷の魔女
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精霊にそんな知能があるはずが

マリタは、三十半ばを過ぎたうだつの上がらない傭兵であった。

昔は王国の兵士として活躍したものの、酒がらみの乱闘を起こして解雇され、今となっては明日の飯にも困る放浪の身だ。


とにかく、マリタは金に困っていた。

生活のために仕方なく手をつけた借金だって、もはや返せる金額ではない。

死神の足音が、常に背後から聞こえているような生活を送っていた。


いつものように、王都の街角で昼間から安酒を浴びるように飲んで、仕事の依頼を話半分に聞いていた。

全身を枯草のような茶色のマントで覆い、素性を一切明かさなかった男は、ただ一言、子供ふたりを始末すれば、一生分の金を約束すると言った。


マリタはその仕事の詳細は聞かずに快諾した。

手付金として、一般的な収入の一年分ほどをもらい、仕事を遂行する気になったのだ。


子供を殺すことに抵抗がないことはない。

しかし、その子供が自分の金を生むわけではないのだ。


マリタはすぐに準備を整えた。

子供と言えど、それだけの報酬が出るということは、裏があることくらいバカだってわかる。

何か手を出せない理由か、それともとうてい子供とは思えない『ナニカ』なのか。


その答えは、マリタにとってどちらでも良かった。

プロの狩人はウサギを狩るのにも全力を尽くすものだ。


信頼できる傭兵の仲間をふたり呼び、報酬の山分けを持ちかけると、ふたりもまた簡単に承諾した。

彼らも同じく、金に困っていたのだ。


事情のわからない暗殺を請け負うのは、これが初めてではない。

だが、今まで失敗したことはない。

女であろうが、子供であろうが、請け負った任務は必ず遂行してきた。


仲間のふたり、ゴーシュとセロも、マリタと志は同じだ。

プロというものは、そういうものだと、自負していた。

たかが、子供と侮るなかれ。

三人ともが、その意識は共有していたはずだった。


森の中にある、古い洋館。

無警戒にも二階に灯りのついている部屋がある。

ここにいると報せているようなものだ。


マリタはふたりに合図をして、自分が突っ込むから援護を頼む、と指示した。

腰には短剣と杖を装備し、準備は万全のはずだった。


マリタが玄関に手をかけようとした時だ。

突如、遠くから周囲を見張っていたはずのゴーシュが、洋館の壁へと叩きつけられた。


「なっ……!!」


思わず声を漏らす。

視線を戻すと、水でできた美しい女性が、そこには佇んでいた。

精霊だと認識する間もなく、マリタの視界が歪む。

顔を水球で覆われたのだと察知して、杖をその水球に射し込んで、魔力を流して破裂させた。


セロは、と視線を動かす。

彼はすでに庭へ倒れ伏していた。


(声を出す暇すら与えないか……!!)


最後に残ったのが自分ひとりだと知り、マリタは短剣を抜く。

この短剣は、昔から使っている業物であり、刺突の威力を増すための魔法が付与されている。

手練れの精霊術師相手に立ち回った経験もある心強い相棒だ。


しかし、今はそんな経験などあまり役には立たない。

精霊はその姿が複雑であればあるほど、力を持っている。

その中でも特に人型のものは強力で、魔法の撃ち合いをしても勝ち目はない。

勝つためには懐に飛び込んで、その姿を保てないほどに切り刻むしかないのだ。


(ここで圧勝して、任務を遂行する……? 不可能だな)


マリタは軽くステップを踏み、呼吸を整える。

判断力や思考の速さで、精霊は人間には敵わない。

しかしその術者も、よほど自信があるのか、姿を見せていない。


侮られている、今が好機。

勝つための好機ではなく、ここから安全に撤退するための好機だ。


人型の精霊を使えるほどの子供、そのような獲物はもはや常識の範疇にない。

この情報を持ちかえるだけでも、次へ繋げられる。

ここは生き延びることこそ最善と考え、マリタは武器を構えながらも、一歩だけ後方へ下がった。


「ぐっ!?」


それを読んでいたかのように、地面から水の輪が浮かび上がり、見事にマリタの左足首を捕えて逆さづりにする。


(逃げることを読まれていた!? 精霊にそんな知能があるはずが……)


足に絡みついた水の縄を切り飛ばすため、体を丸める。

その真下から、網状になった粘り気のある水が、マリタの全身を包み込んだ。


(この体勢をとることすら、読んでいたのか!)


身体は団子のように完全に丸められ、腕一本すら動かせなくなって、マリタは速やかにこの作戦が失敗に終わったことを確信した。


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