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9話 意識

「さっき気になることがあったんだけど、今いい?」

 ソリに戻り、一息ついた頃に僕はそう切り出した。

「何かな?」

「まず、あの男の人に光った何かをぶつけてたやつ。あれ何だったの?デリートって言ってたから察しはつくけど。」

「あれね。あれは彼の直近の記憶を消したんだ。」

「ああ、やっぱり。」

 初めに会ったとき三田が記憶処置がどうのとか言っていたのを思い出す。

「うーん、やっぱり出来るのか記憶処理。それにしても、記憶消去って、体内の魔力を使いきるレベルの魔力量が求められるのか。」

「まあね、さすがに他人の内面に干渉しようとなるとそう簡単にはいかないんだよ。普通は体内の全魔力で5分が限界。だから、実践向きではないんだよね。」

 こういった、一時的処置には辛うじて使えるレベルかな。と、ルドルフは続けた。

「それじゃあ、さっき三田が持ってた記憶処理するためのスプレー缶みたいなのを使わなかったのって、事情があったりするのかな?」

「ああ、あれは一応サンタクロースにしか使用の権限がないんだ、手軽すぎるから。誰でも使っていいことにして、悪用されたら困るでしょ?」

 なるほどなと、相槌を打つ。

 確かに最初の三田の口ぶりからも、記憶処理はクラスで分けていくつかの効果範囲があると察することができる。

 そうであれば、上級のものだと効果範囲は5分なんてものじゃないのだろう。

 そうすると、特定の人物にしか使用許可を出さないと言うのは、効果の強力さを加味すると妥当なのかもしれない。

「あとさ、魔術の発動に詠唱は要らないんだよね、と言うか何か言う必要もないって事だったけど、ルドルフ、何か色々言ってるよね。」

「確かに言う必要性は無いんだけど…。ええっと、どう説明しよう。」

 彼女は少し待ってと言い、顎に手を当てる。

 真剣な表情に、自分でも驚くほどに胸がときめいた。

 さっきの事で余計に意識してるなと感じ、一人勝手に照れているところで、彼女が顔をあげた。

「まずね、さっきも言ったかもしれないけど、魔術はイメージすることで使えるんだ。これが、なんでかって言うと、魔術とは想像力の塊だからなんだよ。だからこそ、想像力の強さはそのまま魔術の強さになるわけ。」

「つまり、その魔術を強くイメージできればできるほど効果は高くなるって言うわけか。」

 ルドルフは満足そうに頷く。

「そういうこと。で、何を今からするのか、口に出した方がイメージが固めやすいから、ボクは声を出してるんだ。」

 ちょっと恥ずかしいんだけどねと、はにかみがちに彼女は言った。

 そんな彼女の仕草を不思議と愛おしいと感じ、気がついたときには、まるでそれが当たり前であるかのように僕の手は彼女の頭に置かれていた。

 そのまま撫でると、彼女は抵抗せずに受け入れ、それどころか体重をこちらに預けてくる。

 この光景に何故だか懐かしさを感じ、このまま時が止まればいいとすら思った。

「なあ、ルドルフ。」

「なんだい?」

 俺は一瞬言い淀む、本当にこれを聞こうか悩む。しかし、一度口を開いた以上最後まで言う方がいいと思い直し、また口を開く。

「あのさ。俺、この光景に既視感があるんだ。」

「そうなんだ。」

 ルドルフの頬が緩んだように見えた。

「変なこと言うようなんだけどさ。僕たちって以──」

「おっす!お前ら、ちゃんと仕事してるかー?なんて、聞くまでも無いよな。平気平気、俺はお前らのことは信用してるからな。ってか寧ろ心配してるのは逆。ちゃんと休みとってるか?」

「ビックリした!三田さん。いきなり結構なボリュームで喋るから驚きましたよ。」

 僕は逃げた。聞こうか迷っていたことを、心のもやとして残しながらも、三田との通話を理由にして逃げた。変なことを聞いて笑われるのが嫌だったのかもしれないし、仮に僕の思ったことが本当だったとしたら存在することとなる、『失われた記憶』の存在を突き付けられるのが怖かったのかもしれない。

「そりゃすまねぇな。ところでルドルフは一緒じゃねぇの?」

「一緒にいるよ。本当に三田は空気が読めてないね。」

 拗ねたようにルドルフが言う。

「あれ?もしかして取り込み中だった?」

「いえ、そうでも無いんですけどね。」

 隣でルドルフが、ふーん、ボクとの会話の重要度ってそうでもない程度なんだ。と頬を膨らませていた。

 僕の既視感による仮説を増長させてるのは、先程からやけに近くなった彼女の態度もあったりする。

「まあ、元気そうで何よりだ。実はな、全体の通信網の定期チェックしてたら、二河君からルドルフへの通信に救難信号を見つけたから、一応連絡とったのね。本当にヤバいなら全体にルドルフから救難信号行くだろうから、誤報だったか、君たちだけで対処できたんだろうとは思ってたけど、この認識でいいか?」

「えっと、一応対処は出来ました。でも、負傷がっ──モゴッ…。」

 でも、と言った瞬間、ルドルフが慌てて口を塞ごうとしてきたがすでに遅く、三田には伝わったようだった。

 三田の声色が変わる。

「どんな具合だ?」

 ルドルフは諦めたようにため息をつく。

「左前腕部の骨折だよ。とはいっても、今は人形ひとがた取ってるし、痛覚軽減と治癒力増強もしてる。だから問題は無いよ。」

「問題ないわけないだろ。骨折って…まあ、状況はわからんが念のためだ。本部に行って検査を受けろ。」

「だよねぇ…。だからバレたく無かったんだよなあ。三田ってば本当に融通が効かないんだから。」

「規則なんだから仕方ないだろ?組織の運営管理上必要なことなんだから、我慢してくれや。それと、二河君。詳しい状況を聞きたいから迎えにいく。そこで待っていてくれ。」

「はい、それは了解しました。」

「うむ。じゃあ体感で10分後には着くからな。一応確認しておくが、ルドルフは一人で本部まで行ける状態だよな?」

「だから、大丈夫だって言ってるでしょ。」

 ルドルフが不貞腐れながら言う

「それならいいや。じゃあ10分後に。」

 その言葉を最後に、通話は切れた。

「なんか、ごめんね。」

 あからさまに不機嫌なルドルフにとりあえず謝罪をする。

 負傷の報告をしたことは、仕事としては恐らく正しいんだろうが、彼女の気持ちには全く寄り添っていない行為ではあった。

「いや、別にいいよ。キミは悪いことしてないわけだし。でも本当にキミは変わらないね。」

彼女は苦笑しながら言った。

 彼女の言葉の最後の方に、違和感を覚えつつも、追求できる場面や立場では無いかと思い、沈黙する。

「じゃあボクはもう行くよ。早めに戻ってきたいしね。」

 ルドルフは僕に背を向け、数歩歩いた所で立ち止まる。

「そうだ、忘れてた。はいこれ。」

 彼女は宝石の入った袋を僕に投げ渡す。

「返すの忘れてた。必要そうな分は取ってあるから気にしないでいいよ。あと、三田に「転送は全身を対象に取って使ったから、聖人に問題は無いよ、あと、このマニュアル人間め!」って伝えておいて。」

 言い切ると彼女は大きく手を降ってから、空を駆けていった。

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