6話 作文
学習机にプレゼントを置こうとすると、机の上に広げられた紙が目に入った。
広げられた紙の上に物を置くのも憚られるので、僕はプレゼントを1度床に置き、その紙を確認する。
「…宿題かな?」
その紙は作文であり 、それは「ぼくは、しょう来、新かん線の運転手さんに、なりたいです。」と書き出されていた。
微笑ましいな、頑張ってほしいな。なんて、そんな事を思いながら僕はその紙をそのままにし、結局プレゼントはランドセルの脇に置いた。
そして行き同様、新たな『テレポート』のカードを使用しルドルフの待つソリへと戻ってきた。
「うん。バッチリお仕事できたみたいだね。」
そう言うルドルフのかわいい笑顔に癒されながらも、僕は一つの心配事を相談する。
「一応ね、ところで、この『テレポート』のカードってかなり使うことになると思うんだけど、デッキに残り2枚しか無いんだけれど。」
行きに一枚使い、帰りに1枚使ってしまい、且つ使えばいつの間にか手元から消えてしまうので、このままでいくと、あと1軒しか家に出入りできないことになるのだ。
そんな心配もルドルフは、ごめんね、それも説明してなかったね。と言うとどうすればいいかを解説してくれた。
「まずね、デッキにある緑色のカードを探して。」
言われるがまま緑色のテキトーなカードを探し、右手に持った。
「そしたら、魔術を使う要領でクロックにあるシフト能力を発動するんだ。」
ヴァイ○やってない人は何一つ分からないだろと思いつつクロックゾーンにあるカードを想像し、持ってくるイメージを思い描く。すると。
「まあ、シフト能力って言われた辺りでだいたい分かってたけどね。」
僕の手に握られていた緑色のカードは無くなり代わりに『テレポート』のカードが握られていた。
「でも、これさ、カードが消費されることにかわりないじゃん?子供が居る家いっぱいあるじゃん?足りなくない?」
デッキの残り枚数を見せながら問う。
「そのデッキの中に『あいさつ』ってカードがあると思うんだけど。」
探してみると確かにあった。
『あいさつ』『レベル1/コスト0』『自分の控え室のカードを全て山札に戻す』そしてどこかで見たようなアイドルが挨拶している絵が描かれていた。
「…考えるの面倒になったのか、既存のカードに大分似てきたな。」
ただ、ここでまたふと、疑問が頭を過った。
「クロックは回収されないから、当然クロックはたまって、レベルになるよな。本来のヴァイ◯の敗北条件であるレベル4に到達したらどうなるんだ?」
「そうなったら体内の魔力が抜かれるんだよ。動けなくなるくらいまで。」
「思ったより深刻だね。このまま配り続けてれば絶対にレベルが4になるのは明白なんだけど。」
まあでもルドルフが落ち着いてるってことはまたデッキに解決策があるんだろうと、とりあえずデッキを漁ってみる。
「うわ、『きゅうけい』入ってるよ。『夏のおもひで』もか。」
どちらのカードも元カードとそっくりになっており、『きゅうけい』で回復をし、『夏のおもひで』で『きゅけい』を回収するという内容のようだった。
「まあ、うん。何をすればいいかは分かったんだけどさ。正直意味ないよねこれ。面倒なだけで。」
使ったあと無くなるのならまだわかる。そこが技術の限界なのだろう。しかし、サルベージが可能ということは本来なら消える必要すら無いということにほかならない。
「このシステム作ったやつ何がしたかったんだよ。」
嘆息しつつそう呟く。が、ルドルフからの同情を孕んだ視線しか返ってくるものは無いのであった。
その後の数軒も僕は1軒目同様に窓から魔術で侵入した。
周囲の様子を確認し、住人との遭遇の危険が無いことを確認し、デバイスで子供部屋の位置を見る。
「2階建ての1軒家なら、2階に子供部屋があるのがベターだと思ってたんだけど、そうでもないんだな。」
とある家に入ったときにそう呟く。
この考えのもとに、2階からの侵入を繰り返し楽をしようと試みたものの、半数ほどは結局子供部屋に行くために1階へ降りなければならなかった。
「まあ家のレイアウトなんて、結局は家主次第だからな。でも、その気持ちもわかるぜ。ちょうどそのくらいの年頃じゃ、親元から初めて離れて、今までの暮らしで常識だと思ってたことが、実は当たり前じゃない事だったなんていうものに気がつき始める時期だろうからな。」
突然耳元で聞こえてくる声に驚嘆する。
一瞬そこにいるのかと振り向き、誰もいないのを確認すると、ようやく通信かと理解が追い付く。
「三田さん!?え?何で、って言うか聞こえてたんですか?」
「いや、な?新人が上手くやれてるかなと思って、ちょっと心配だったから、通信入れてみたらいきなりそんな呟きが聞こえてきたもんだから、つい、ね。」
なんだか物凄く恥ずかしくなってきた。
恥ずかしさをごまかすように、少し文句を言い話を逸らす。
「それよりも、説明全部丸投げってどうなんですか?色々戸惑いましたよ。煙突のない家への入り方とか、袋の使い方とか。」
「その、それに関しては、すまなかった。何と言うか、慣れてくると初めの頃には何が分からなかったのかすらも忘れてきてな?いや、まあ言い訳になっちゃうんだけどね。」
三田は歯切れが急に悪くなる。
ごめんな。と謝る彼にいえ、結局は解決できたことですしいいですよ。と返す。
「もしかして用件ってそれですか?」
「うん、ルドルフ居るから大丈夫だとは思ったけど、もしかしたら困ってるかもしれないと思い至ってね。」
からかわれて嫌な人と言うイメージが先行していたけれど、実は少し抜けてるいい人なのかもしれないと見たの評価を僕の中で少しだけ改めることにした。
「じゃあ、俺は仕事に戻るよ。分からないこととか困ったことがあったらそっちからも連絡してくれな。」
彼はそれだけ言い残すと、通話を終わらせた。
「僕も戻るか。」
そう呟き、改めてこの家の子供部屋へと向かう。
子供部屋へと進入し、女の子が寝ていることを確認してデバイスを使う。
『63/100』『○カちゃん人形』
女の子は人形遊びとか好きだもんななんて思いながら、プレゼントを袋から取り出す。包装された◯カちゃん人形だ。
プレゼントを枕元に置こうとして、枕元にそのようなスペースが無いことに気がつく。
ならば何処に置くべきかと部屋を見渡す。
「部屋を掃除してないから60点台なのかなぁ。」
苦笑と共に思わずそんな言葉が漏れた。
直ぐに気がつくような汚さではないものの、言われれば物が散乱している部屋であると思う程度に部屋が物で溢れていた。
「こりゃまた学習机ですかね。」
目につく中で、学習机にいい感じのスペースが空いていたので、そこにプレゼントを置こうと近づく。すると。
「また作文だ。」
例によって将来の夢についての作文が机の上に広げられていた。
同じ学区であろう地域にプレゼントを配り歩いているので、同じ宿題を何度も見かけるのも当然かと思い、何となく冒頭を読んでみる。
『私のしょう来のゆめは、かんごしさんです。』
みんなそれぞれに色々な夢を持っているんだなと感じつつ、折り目に沿い半分にプリントを折り畳み、開けたスペースにプレゼントを置き、外へと戻った。