5話 魔術道具
調子のってTCGネタ入れすぎましたが、カードゲーム分からなくてもストーリーとは何の関係もないので、分からなければスルーでお願いします。
「それじゃあ、このブロックから配り始めるよ。」
そういって、ルドルフはとある住宅街の上空にソリを停めた。
僕は一軒目の家に入ろうと、屋根へと降り立とうとするが…。
「煙突…無いな。」
よくよく考えれば現代日本においては、煙突なんてある家の方が稀である。
「煙突ないけど、どこから入るの?」
隣に居るルドルフへと尋ねる。
「カードの中にテレポートのカードあるでしょ?」
探してみると、確かにテレポートと書かれたヴァ〇スシュヴァルツ風の緑色のカードがあり、テキストには『レベル1/コスト1』『│EV』『・シフトレベル0・あなたは視界に映る範囲内の場所を指定する。あなたのいる場所をその場所へと移す。このカードをクロックに置く』と書いてあり、深夜のアニメで見たことのあるキャラクターが転移するイラストが描いてあった。
いや、ヴァ○スシュヴァルツのシフトって効果ってキャラカードにつくものでイベントカードにつくものじゃなかったような気がする。
その辺も含めてカードは制作者の趣味であり、書いてあるテキストや形式に意味はあまり無いのだろうと改めて思う。
「…レベルとかコストとかってフレーバー?」
「フレーバー?え?」
思わず口をついてそんなセリフが出てしまったが、カードゲーマー以外にこの言い方で伝わるはずがないと思いなおし、どう説明するかを考える。
「ええっと、そうだよね。なんて言うか…雰囲気を出すためのテキストって言うか、要するに魔術師用途は関係のない文言だよねってことなんだけど。」
レベルとかコストとかゲーム中でもないのに用意できようももないし、と続ける。
「そうだね、どうやら消費魔力量に対応したコスト?とかが表示されているみたいだよ、カードゲームとかやったことないからボクはよくわからないけど。」
ルドルフはさらに、倒れられたら困るし、一応宝石は使ってね。と続けて宝石の入った袋を手渡してくれた。
「それと、これ、忘れてるでしょ。」
ルドルフはソリの後ろのスペースから大きな白い袋を一つ取ると、それもまた僕へと手渡す。
「プレゼント袋か、すっかり忘れてたよ、ありがとう。」
と言いそれを受け取ると早速その中のうちの1つの宝石を手に取り、テレポートのカードの上に置く。
2階の窓から見える床を指定するようにイメージをして、宝石からカードへと力を流していくイメージを膨らませ、発動しろと念を込める。
途端、視界が一瞬真っ暗になり、次の瞬間に目に映った光景は、部屋に並んで置かれたベッドと学習机であり、使用したカードは僕の手から消えていた。
「凄いな魔術って。」
そう呟き、ふと窓から外を見上げる。
そこではソリの上から半分身を乗り出したルドルフが笑顔で親指を立てていた。
僕はなんとも微笑ましい気分になり、思わず頬を緩めると、サムズアップを返しておいた。
「さて、仕事しないとな。」
部屋を見渡す。幸運なことに、この家は入ってきたこの部屋が子供部屋のようだった。
ベッドに寝ている子の顔を覗き込む。男の子で年は8才前後だろうか。デバイスで点数を確認する。
『75/100』
合格ラインには余裕で到達していることに不思議と安堵しつつ、彼の欲しいものを見てみる。
『プラ〇ール』
電車が好きなのかな、なんて思いながら、持っている白い袋の中を覗き込む。
「なんだこれ。」
その中身は僕の想像したプレゼントの入った袋なんかではなく、禍々しくも漆黒な深淵が内部に広がっていた。
これはどうすればいいのだろうかと思い、窓際へ移動しルドルフを見上げる。
「大丈夫?何か問題かい?」
目が合った瞬間に耳元から彼女の声が聞こえてくる。
一瞬ビビったものの、すぐに眼鏡型のデバイスのモダンから骨伝導で伝わってきているのだと気が付き、返答した。
「いや、問題と言うか、プレゼントの袋ってあれどうなってるの?」
彼女は遠目から見ても分かるほどあからさまにやっちまったと言うような表情を浮かべた。
「説明してなかったっけ?ごめんね。言わなきゃわからないよねあんなの。本当にごめんね。」
「いや、なんかそれ程問題でもないから平気だよ。そんなに恐縮されてもこっちが申し訳なくなるからさ。」
「うん。ええっと。使い方だよね。これは魔法道具の一種なんだけど、基本的に全部魔法道具は使い方は一緒なの。というか魔術も全部使い方一緒なんだけどね。」
「って言うことは、使いたいって思えばいいってこと?」
「そう。だから、今回の場合は、必要なプレゼントを思い浮かべて袋の中に手を入れれば、次に袋から手を引き抜いた時には、プレゼントがその手に握られているってわけなんだ。」
改めて魔術って便利だなと感じる。
「オッケー。ありがとう。助かったよ。」
「うん。ごめんね。また何かあったら呼んでね、通話したいって思えばそのデバイスからまた通話できるから。」
じゃあね。と言い合い通話が切れたのを確認して、ベッドの脇へと戻る。
一つ深呼吸をし、思い切って袋の中に左腕を入れる。万が一のことを考えると利き腕は入れられなかった。
プラ〇ールを想像すると、左手に何かが当たる感覚がする。そのままその何かを掴み、袋から引き出した。しかし…
「プラ〇ールだけど、包装どころか箱すら無いな。」
ばらばらなレールが数本あるだけのそれを見て、これじゃプレゼントにならないと、一度それを置く。思いが中途半端だったのだろうか。
もう一度袋に左腕を入れ、目をつぶり、今度はプラ〇ールのベーシックレールセットのパッケージを思い浮かべる。
そうして引き出した左腕には既製品の、プラ〇ールベーシックレールセットがあった。
よしと、小さくガッツポーズをし、成功の余韻に浸りながら何となくパッケージを眺めると、それはレールのみで、走らせる車両のないセットだと分かったので、おまけで新幹線(詳しくないから思い浮かんだもの)をイメージし出してみた。
しかし、プレゼント用の包装がないと、見栄えが悪い。と言うかもしかしたら包装されたイメージを思い浮かべるのがよかったのかなと今更後悔しながら、もしかしたら『包装』のカードがないかとデッキをあさる。
そしてその中のデュ〇ルマスターズを模した黄色いカードの中にそれはあった。
『包装』『呪文』『コスト1』『■物品をプレゼント用に包装する』というテキストと『プレゼントは心を込めて!』とのフレーバーテキスト、羽の生えた様々な色の小さな妖精たちがプレゼントを今にも包装しようとするイラストがそのカードには描かれていた。
「再現率凄いよなぁ。」
一人でそれに感心しながら、カードに魔力を込める。今回はコスト1の文字を見て、まあ行けるだろうと思い、宝石は使わなかった。
案の定事もなく魔術は使われ、目の前のプレゼントは包装された。
「じゃあ、これを枕元…に置くには少し狭いな。」
靴下も見当たらなかったため、少し迷った末、プレゼントは学習机の上に置いておくことに決めた。