4話 魔術カード
「さて、それじゃあやり方はわかったな?じゃあ俺はもういくから、ルドルフと協力して頑張ってくれ。」
三田は僕達が乗ってきたソリの横にもう1台ソリを出し、それに乗った。
「行くって、え?今から僕一人で仕事するんですか!?」
「そうじゃないとわざわざバイト雇う意味がないだろうが。」
言われてみれば確かにそうだが、慣れないことだけに一人でやることに不安になる。
「お前なら大丈夫だろ。まあ、分からないことがあればルドルフに聞けばいいさ。」
三田はそれだけ言うとソリの前方に新たなトナカイを出現させて、どこかへと飛び去っていった。
「じゃあボクたちも行こうか。とりあえずキミの席に置いてあるデッキケースを確認して貰えるかな?」
デッキケースというこの場にはそぐわなそうな言葉に一瞬耳を疑うものの、椅子を見ると確かにそこには所謂│TCGで使われるカードを入れておく箱が置いてあった。僕は仕方がないので言われた通り置いてあったデッキケースを手に取り、開ける。
そこにはカードが大量に入っていた。
1枚抜いて見てみると、緑色の背景に右上に丸に囲まれた『魔』の文字、上部中央に『再会』の文字、カード中央には男と謎の生物が笑顔で涙を流して抱き合ってるイラストが描かれており、カード下部には『実在する物や人を対象に取り発動する。それをこちらの空間に呼び寄せる。』というテキストが書いてあった。
「遊☆○☆王カード?」
なぜこのタイミングで?と思う。
「あー、っぽいのは製作者の趣味だね。それは魔術カードって奴で、まあ簡単に説明すると、魔術の術式を知らなくても魔術が使えちゃう、言わばインスタント魔術ってわけ。」
ルドルフは、別に遊○王じゃ無くてもいいし、そもそもカードである必要性も無いんだけどね。と言う
僕がカードを調べてみると、なるほど確かに、そこにはデュ○ルマスターズや、ヴァイ○シュヴァルツ、M○Gなど、様々なカード(に似せて作られたカード)があった。
僕はその中のテキトーな一枚を手に取る。
「で、これはどうやって使うものなんだ?」
「基本的には発動する意思と、カードに伝わる十分な魔力と、それから--」
僕は続けようとするルドルフの言葉を待たずに自分の持つカードへと発動しろと念を込める。すると、体から何かがカードへと吸いとられる感覚がして目の前が煙に包まれる。
そして煙が晴れたその先には
「ちょっと!何勝手に魔術使ってるの!と言うかこっち見ないで!」
真っ白な肌をした裸の女の子がしゃがみこんでいた。
「うん、大丈夫、もうこっち向いていいよ。」
数分後に、その言葉で僕は振り替える。
そこには真っ白な髪と肌、赤い瞳とほんのり赤みがかった鼻を持つ、10代前半くらいに見える女の子、ルドルフが赤いサンタクロースの衣装を身に纏い立っていた。
「まったく、いきなり人化の魔術をボクに掛けてくるなんて、いったいどういうつもり?」
「いや、別に意図があった訳じゃ…たまたま掴んだのがそれだっただけで…。」
その言葉は嘘のない事実、本心であった。
「もう、困るよ。今回はたまたまこの程度の被害ですんだけど、攻撃系の魔術だったらボクも怪我してたかもしれないんだよ。」
「それは本当にごめんなさい。」
謝るとルドルフは「本当に気を付けてよね」と顔をしかめながら言うものの、直ぐに顔を戻し「とは言え」と続けた
「今まで魔術に触れたこともない初心者なのに、よく宝石を使わずに魔術を出せたね。」
その言葉に続いて「流石だな」と、いうような小さな言葉が彼女の口から漏れたようにも聞こえた。
「ああ、うん。それよりさ、色々と言いたいことと言うか聞きたいことと言うか、そういうのが僕の中で渋滞してるんだけど一つづつ言っていって良いかな?」
「ああ、うん。良いよ。何が聞きたいのかな?」
「まず、詠唱とか範囲指定とかそう言うのって必要なかったの?」
何となく三田が魔術(彼は奥義と言っていたが)を使うときに言っていた範囲指定や詠唱が必要なものだと、また、魔力とかよくわからないものをカードに伝えるのなんか素人の自分には無理だろうと踏んでのあの行動だったので、そこは気になる所なのだ。
「うん。本来は必要ないんだ。」
「でもさっき三田さんが使ったときには…。」
「うん。あれはちょっと、患ってる人だから…。」
色々と察した。
「えっと、そっか。じゃあ次。宝石も使わずにってさっき言ってたけど、どういうこと?」
「それはね、本来なら魔術を扱ったことのない初心者は体内の魔力を上手く流せないし、仮に流せてもその魔力量は少ないのが普通なんだ。だから大抵は魔力の塊である宝石の魔力をカードに込める事で魔術を使うんだけど。キミには素質があるみたいだね。」
成る程、しかし、初心者ではないであろう三田も先程の魔術に石を使っていたのを思い出す。
「熟練者でも魔術を使うのには石が必要なの?」
「いいや、そんな事はないけど、どうしてだい?」
「いや、さっきの三田さんは宝石使ってたから。」
「そう言うことね。生体加速は消費魔力量の多い魔術だからね。万が一魔力切れを起こすと大変だから、宝石を使ったんだよ。」
「魔力切れを起こすとどうなるの?」
「動けなくなるだけだよ。とは言え今日のサンタクロースにはそれだけで致命傷だからね。」
「なるほど。」
それじゃあと、僕は最後に僕の中で一番気になっていた事を言うことにする。
「女の子だったの?」
ルドルフは、気になるのそこなんだと少し苦笑し、茶化すように言ってくる。
「なに?ボクのこと意識しちゃった?。」
「いや…うん…こう言う時には何て言ったら良いのか分かんないや。」
「そこは嘘でも気になったって答えてよ。ただでさえボクを男の子と間違えてたの、失礼なんだから。」
「ごめん。」
女の子の扱いは難しいなと改めて感じた。
「ボクからも聞きたいことはあるけれど、それよりまず仕事しなくっちゃね。」
ルドルフはそう言うと、よいしょ。と可愛らしい掛け声と共にじぶんの隣にトナカイを召喚し、歩いてこちらへと来ると、僕の隣にちょこんと腰掛けた。
「どうしたの?」
急に近くに来たルドルフに戸惑いながらもそう声をかけた。
「どうしたの?とは?」
「いや、戻らないのかなって。」
「あー、ええっと。戻ろうとはしたんだけど、不意打ちってのもあって結構強めに人化の魔術が掛かっちゃってて、解くのに時間かかるんだよね。」
「それは、本当にごめん。」
「いや 、特に問題はないから別にいいいよ。うん、問題はないから。」
ルドルフは露骨な作り笑いを浮かべ慌てたようにソリを発進させた。
様子がおかしいのは明白ではあったが、恐らく自分がやってしまった事に関連すると予想できる以上、彼女の気遣いを踏みにじり深く追求する勇気は僕には無いのだった。