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3話 サンタの魔術

「夢とは言え何でもありだな」

 僕は小さくそう呟いた。

 何もない空間からいきなりソリが現れるなんて物理法則の無視も甚だしい。

「ほら、出発するから乗った乗った。」

 三田は既に出現したソリに腰かけていた。

 僕はあわてて彼の隣に座る。

「よしルドルフ、出してくれ。」

「了解。」

 数秒後、ソリはフワッと浮き上がり、ゆっくりと前進しながらその高度を上げてゆく。

 眼下には輝く街が広がって行く。

 道すがら軽く現代のサンタクロースについていの説明を受けた。

 要約すると、現在サンタクロースは組織化されており、三田は日本全体の統括をしていて配送は千葉を担当しているサンタクロースだと言うことだった。

 僕が高所から眺める夜景に見入っていると、隣から深い呼吸音が聞こえてきた。

 その方を見ると三田が目をつぶり深呼吸を行っていた。

 ゆっくり呼吸をした後、三田は目をカッと見開きいつの間にか手に持っていた赤い宝石を掲げる。

「我、サンタクロースの名において刻の束縛から逃れん。サンタクロースの奥義その1!生体加速クロックアップ、範囲2!」

 三田は叫ぶと同時に持っていた宝石をソリの床に叩きつけ、割った。

 僕は、三田が突然叫んだ事に驚いて仰け反る。

「おっと!危ない。ここは空の上だからな、落ちたら命の保証はできないぞ。」

 僕は三田の言葉に改めて地上を見る。

 スカイツリーから眺めた景色がこんな感じだっただろうか。

 なぜだか不思議と懐かしさを感じた。

 そして僕は一つのことに気がつく。

「あれ?車が全部止まってるな。」

「止まってるんじゃなく、物凄くゆっくり動いてるんだ。俺達から見るとな。」

「ええっと、つまりどういう?」

「さっき俺が使った奥義で、俺らの過ごす時間だけ一時的に加速しているんだ。要点だけ言うと、俺たちは高速移動をしているってこと。」

 言われてみれば確かに全く何もかもが動いていないわけでは無いようで、さっきまで青だった信号機が黄色を示していた。

「へぇ。便利ですね。」

「まあな、こいつが無けりゃサンタクロースなんて勤まらないんだけどな。」

 考えてもみればそれもそうだ。いくらサンタクロースが三田一人では無かったとしても、世界中の子供たちに一晩でプレゼントを配るなんてこの程度のチートはつかわなければ不可能だろう。

「なんかサンタクロースの技術って凄いんですね。」

「まあ技術って言えばまあ技術と言えなくもないか。なんか奥義を技術とか言われるのも違和感あるな。」

「三田が言えることじゃないよね。君だけだろ?魔術のことを頑なに奥義って呼んでるの。」

「…。もう、ルドルフったらー。俺には辛辣なんだからー。」

 露骨に話題を逸らすために、わざとおどけたように言う三田に引きながらも、奥義だの魔術だのと呼ばれているそれについて詳しく聞こう思っていると、ソリがとある一軒家の煙突前で停車した。

「はい、二人とも、仕事だよ。」

「了解。という訳で現場についたわけだ。とりあえずは1回お手本を見せるのでちゃんと覚えるように。」

 三田は煙突に手を掛けると、足から家の中へと入っていった。

 僕は慌ててそれを追おうとし、煙突に手を掛ける。

「底見えないし、すごく怖いんですけど…。」

 思わずルドルフを振り返る。ルドルフは前肢の前に空中に浮く半透明なウィンドウを展開し、それを前肢で操作していた。

「オーバーテクノロジーだ…。」

 思わず呟く。魔術のようなものを駆使した上に近未来的な科学技術まで使うとは。夢とはいえさすがと言わざるを得ない。と言うかルドルフが前肢でちょこちょこと画面を弄る姿がとてもかわいい。

 どうやら集中しているようだったので、声をかけるのも憚られ、僕は視線を煙突へと戻す。

 と言うかマジでこれ降りるのか?確か煙突は人が侵入できるほど広くないんじゃなかったっけか。

 しかしいつまでもここで迷っているわけにもいかない。僕は、きっと魔術のなんやかんやで行けるんだろうという若干逃避ぎみに無理矢理自分を納得させ、意を決して煙突へと飛び込んだ。

 煙突の中は真っ暗だった。

 始めこそ一直線に落下する感覚がして恐ろしい思いをしたが、直後に体がまるで浮くかのような感覚に代わり、最後はふわりと着地した。

「遅えぞ。何やってたんだ。」

 まあいいやと言い、三田は家の中へと視線を向ける。

「さて、解説するぞ。まあ説明するの忘れてたから今するが、本来なら家に入る前に家の中に起きている人間がいるか確認するんだ。今回は居なかったんでさっさと入ってきたが 、本当は確認しなきゃダメだからな。」

「えっと、どうやって確認するんですか?」

「俺はそのための奥義を使ってる。お前は…えっと…」

 三田はポケットを漁る。

「予備が無ぇな。まあじゃあ後でルドに聞いてくれ。」

「はあ。」

 三田が分かるのなら僕はわかる必要ないのではないかと思う。

「んで、次に子供のいる場所に向かう。」

 二人で子供のいる部屋まで歩いていき、中に入る。

 中では男の子が布団を放り出してぐっすりと寝ていた。

「そしたらその…あっ。」

「え?何ですか?」

 三田が俺の顔を指差して固まったので何事かと不安になる。

「いや、お前に専用デバイス渡すの忘れてたなって。」

「専用デバイス?」

「そう。サンタとして活動するためにマストなアイテムよ。」

 三田は手に持った白い袋の中から眼鏡を取り出し手渡してくる。

「奥義になれていないお前もこれを使うことで子供の欲しがっているプレゼントを知ることができるって訳だ。」

 僕はそれをかけてみた。なるほど、確かに目の前の男の子の寝顔の横にウィンドウが表示され、そこに画像つきで"スウィッチ(ゲーム)"と表示されていた。

「ああ、成る程。」

 その欲しいものの書いてあるウィンドウの下にもうひとつウィンドウが開いていた。

「この80/100という表示は、もしかして。」

「おう。どれだけいい子にしていたかの点数だな。」

 基準や平均値は知らないが8割は何となく高いスコアのように感じる。

「この子結構高いですね。何点以下で貰えないんですか?」

「一応規定では30点になってるな。」

「え?激甘すぎないですか?」

「まあ致命的な悪いことをしない限りは許されるのが子供だからな。良いことも悪いことも一杯やってそのうち本当にやってはいけないことを覚え、育っていく。子供ってそういうものだろ?だから30点を下回らないまでの悪さなら許してやるのさ。」

「そう言うものですかねぇ。」

 おっと、こんな話をしてる場合じゃないんだったと言い、三田は袋からプレゼント取り出した。

「で、あとはプレゼントを靴下の中なり机の上なり枕元なり、適切だと思われる場所に置けばOKだ。」

「なんかだいたい想像通りなんですね。」

「特別なことなんてやる必要がないからな。」

 それじゃあ戻るぞという三田の号令とともに、僕は煙突へと押し込まれる。

 煙突の下に入った途端、例の浮遊感が僕を包み、上へ上へと上がっていった。

 煙突の縁に手をつくと、そこで体の上昇はストップしたので、体を持ち上げ外へと出た。

 数瞬置いて、三田が煙突から出てきた。

 落ち着いたタイミングを見計らい僕は気になっていたことを質問する。

「あの、この煙突に入ったときに浮くのってどうなってるんですか?」

「ああ、それな、お前の来てる服の効果さ。」

 先程からの物理法則を無視した現象の数々に、もうそういうものなんだろうと納得するしかないのだろうと感じ、この話は深く突っ込まないことに決めた。

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