第6貝 「未来からきた医者」
時は幕末江戸時代。
なんでも、未来からきたらしい医者の事が話題になっているらしい。
その先生がつくる道具は、そんじょそこらの医者には真似ができないものばかり。
……で……その日は、さざえのつぼ焼きを食べておりました。
先生の助手をしているのは、町娘のマツさん。
農村出身で兄弟が多いため、儲かっていそうな先生の診療所に住み着き、そのまま生活しておりました。
先生が未来から来たのは、知ったばかりで、好奇心旺盛なマツさんとしては、是非いろんなお話をきいてみたい。
「先生!未来の世界にも、サザエのつぼ焼きはございますか?」
勢いよくマツさんが質問する。
「はい。サザエのつぼ焼きはありますよ。この時代のものと、あまり変わりません。」
美味しそうに、先生がサザエの中身を食べ終わり、食事台の上に置く。
その貝殻を、マツさんが手にとり……。
「先生!もしかして、未来ではサザエの貝殻をこうして耳にあてて。」
マツさんが、サザエの貝殻を耳にあてる。
「波の音でございます。」
先生、マツさんを見て一言。
「汁たれてますよ。汚いですよ。」
「まあ!私ってばはしたない。では、大ぶりのつぶ貝で……。」
と、マツさんは自分の台の上のつぶ貝の貝殻を、見てあてた。
「つぶ貝では、波の音聞こえませんよ。汁たれてますよ。きたないですよ。」
今日もお江戸は、日本晴れでございました。
つづく