第5貝 「結婚前夜」
「パパ~。わたし、パパと結婚する~!」
なんて、可愛い笑顔を見せてくれていた娘。
いつの間にか成長して、この前誠実そうな男を連れてきたかと思ったら、明日は結婚式。
早いもんだな……。
しみじみと娘の幸せを祈りつつ、どこか悔しい気持ちもある。
それが、娘を嫁に出すというものだ。
「お父さん。長い間お世話になりました。」
「いやいや。そうかしこまらないで飲もうや。」
娘が笑顔で酌をしてくれた。
照れ臭い気もするが、返盃しておこう。
それにしても、今日の刺身は豪華だ。
お母さんも奮発したんだな。
娘も喜んでいる。
「わぁ~!私の大好きなサザエもある~!」
「お前の大好物だからな。」
はしゃいでいる娘の姿は、小さい頃となんら変わらない。
明日、嫁入りだとは思えない無邪気さだ。
「お父さん。覚えてる?」
「ん?なんだ?」
娘は、突然サザエの貝殻を手に取り耳にあてた。
「小さい頃、私が海に行きたいってだだをこねてさ。」
いや……覚えないけど……。
「連れていけないからって、サザエの貝殻を耳にあてなさいってくれたでしょ。」
「知らんぞ!それお母さんとの話だろ?父さんは仕事してたからな。それより汁たれてるからな!汚いからな!」
ツッコミを入れるが、娘は懐かしそうにサザエの貝殻を耳にあてたままだ。
「つぶ貝も大ぶりのものだったら、どうなのかな~って感じでさ。」
娘がつぶ貝の煮付けの中から、大ぶりのものを耳にあてる。
「いやいや!つぶ貝じゃ波の音聞こえないからな!汁たれてるぞ!汚いぞ!」
つづく