第三話:危うく犯罪者になりそうな僕
『ピーンポーン』と気の抜けた機械音が鳴った。
誰だよこんな夜遅くにと、少し苛つきながら玄関へと向かった。玄関の扉越しに顔は確認できなかったが、豊満な胸だけが見えた。
そして、彼女(?)はこう言った。
「呼ばれてないけどジャジャジャジャーン!」
「お引き取り下さい」
我ながら惚れ惚れするタイムで返事したなと、阿呆な事を考えていた。
勿論、椛だった。
何故か知らないが毎日、毎日、僕の家にやって来る。椛の家が隣だからっていうからかもしれない。何時もは迷惑極まりないが、今日は使えそうだ。
「まぁ、その……何だ。寒いだろうから入りな?」
女の子はデリケートだと○ーグル大先生に載っていたから、ガラス製品を取り扱うが如く慎重にせねば。
「へっ?……あ、うん………ありがとっ!」
優しくすると何時も煩え椛も静かになるんだな。感心感心。
うん。チョロ過ぎだろ、ハハハ………
だけど大丈夫か、コイツ?
椛の将来は心配でしかないな。
「いやいや〜!翔馬一人で大丈夫かなぁ〜と心配に思ってさ〜!」
いやいや、心配に思ってんのはこっちだよ。
「それはいいとしてだ。あ、あのさ……」
「うん?何だい?」
「妹の春奈がさ………」
「あぁ、可愛いよね〜」
う〜ん、何と言うか迷うな。
まぁ、女の子同士で解決してもらうか……
だが、春奈の身に危険があったら、躊躇なく椛に右ストレートで殴る覚悟は既にできている。
何故かって?
だって……コイツはロリコンなんだもの。
「まぁ……いいや、こっち来て。」
「もしかして……私を食べちゃうの?」
んな訳あるかいっ!っていうツッコミはせずに、リビングに入った。
僕が何も言わなかったのが恥ずかしいのか知らんけど、椛は自爆して頬を紅くさせていた。
何だアイツ、アホくさ。
「春奈、椛お姉ちゃんが来たよ〜」
「ヒッ………」
まぁ、軽く鳴った悲鳴も愛嬌ってもんだ。
「なんで逃げるんだよぉ〜!じゅるり………」
もう、右ストレートしちゃってもいいよな。
顔が台無しになってもいいよな。うん、殴ろ。
「何……だと………」
驚く事に、椛は僕の右ストレートを避けた。
まるで、殴られるのが分かっていたように。
しかも避ける時に、僕の顔を見てニヤリと嗤いやがった。心底苛つく奴だ。
「ふふふっ………そんなんじゃ私を捉えるのは無r――イタッ!」
僕かてそんなに詰めが甘い訳じゃあ無い。何をしたかと言うと、リビングに入る時に棚から出した改造パチンコ(強化バージョン)で、椛の眉間を撃ち抜いたのだ。玉の素材はゴムで、大きさはパチンコ玉ぐらいだ。
「僕の詰めが甘い訳が無いだろう。ハハッ!」
「うぅ〜……イタイよぉ〜……」
その場にしゃがみ込み、眉間を抑えながら俺を睨んでいる。まぁ、当然の結果である。だが、反省はしない。だって、僕悪くないもん。
「睨んでも怖くないぞ。寧ろ可愛いくらいだぞっ!」
なんでだろう……無性に恥ずかしくなってきたぞ。何、頬を赤くしてんだ、僕は。アホくさ。
「だ、大丈夫?」
「イタイよぉ、春奈ちゃ〜ん………」
ハァンッ。そんなあからさまな芝居で春奈が騙される訳が無いだろ。
「じゃあ、痛いの、痛いの、飛んでいけぇ〜!」
と言いながら、春奈は椛の頭をNADENADEしていた。
「ハァハァ……良い匂い…ハァハァ癒やされるぅ」
ハァハァしながら春奈に抱きつき鼻をスンスンしていた。
「……………」
僕は無心で椛に、追加で三発撃ち込んでやった。動かなくなったのは、気のせいだろうと信じたいな。
「あぁ〜、そういや相談があるんだった。」
忌まわしい椛を家に招き入れた目的を完璧に忘れていた。
「椛〜、春奈の相談を聞いてやってくれ」
「いいよぉ〜………ハァハァ……ハァハァハァ」
何故か分からないが椛は蕩けた目をしている。
「じゃあ、僕は自分の部屋に行ってるから、終わったら呼んでくれ。」
そう言い残し自分の部屋で、勉強に励むことにした。
時が過ぎるのは速いもので、既に40分も経った。
「あぁ〜、肩凝るうぅ〜………」
ずっと参考書とにらめっこしていたせいか肩が凝る。
もうそんな歳か、なんてどうでもいい事を考えていた。喉に渇きを感じ1階に降りて麦茶を飲んでいるた。リビングのほうが妙に静かだなと思い向かうと、椛が春奈に覆い被さる様になって、二人共下着姿で寝ていた。
「どうしてこうなった…」
まぁ、大凡の原因は分かっている。
「はぁ……椛って奴は…………」
春奈が眠くなり、寝る。→これはチャンスだと思って椛が春奈を脱がして自分も脱ぐ→見事、こうなった。
とまぁ、こんな感じで今に至ると思う。
「まぁ、椛には世話になったし今日は見逃してやるか。全然良くないけど。多分、倫理に反してると思うけど………」
そんな事を呟きながら二人に毛布を掛けて、自分も自室に戻り布団に入り、深淵の如く深い深い眠りについた。
「ふぁ〜あ、ふぅ………あっ、やべっ…」
目が覚め、頭が覚醒したのを感じながら時計に目をやると、登校時間である7時30分を優に越していた。
急いで階段を駆け降りてリビングに入ると、鼻腔を刺激する薫りが辺りに充満していた。
誰が料理をしているのか気になりキッチンを覗くと、白いフリルのついたエプロンを身に纏った椛が居た。
椛は、楽しいのか鼻歌を歌いながら料理をしていた。
「あっ、おっはよ〜!」
「うん、おはよ」
「翔馬、ご飯にする?それとも、ワ・タ・シ?」
ここでツッコミをすると何となく癪に障るから、あえて乗ってやった。だけど、朝からよくこんなことを言えるな……
「じゃあ、椛。お前にするよ」
「えっ……じょ、冗談だよ!?」
「僕をこんな気にしたお前が悪いんだぞ?」
耳元でそう言ってやると、顔を紅く染め俯いた。そして、上手く聞き取れないがゴニョゴニョと呟いている。
この茶番が何となく面倒臭くなってきたから、妹に手を出した仕返しに椛の頭を軽く小突いてやった。
「そ、そうだよね……じゃあ、座ってて!朝ごはんの準備しちゃうからさ!」
未だ尚顔を紅くさせてる椛は動揺しているのか、コーヒー用のマグカップにお味噌汁を入れている。
そんな茶番を終わらせ、春奈を起こして皆で朝食を呑気に食べ終えた。
「あっ、やべっ。学校に遅れる!」
「何言ってるの、翔馬?今日は祝日だよ?」
何言ってんだ、コイツ?と、思いながらカレンダーを見ると確かに今日は祝日だった。
「むぅ、そうだったか。う〜ん……春奈、遊園地にでも行くか?」
「えっ?いいの!?」
目を爛々とさせながら、万歳をしている。
椛が物言いたげにこっちを見ているのを無視しようとしていたが、眼力が強過ぎて無理だった。
「じゃあ、椛も来るか?あと、梅さんも」
「ありがと、翔馬っ!」
「おっ、おう。今日は特別に連れて行ってやるよ」
「うん!じゃあ、家に帰って準備してくるねっ!」
「おう。じゃあ10時に僕の家に来てくれ」
「わかったぁ!」
そう言うと、獲物を追い駆ける肉食獣の如く走り去って行った。
「じゃあ、私も準備してくるね、お兄ちゃん!」
「うん、分かった」
僕の妹も椛と同じでした。
何かに負けた気がするな、なんでだろ…………
着替えを済ませ、麦茶を飲みながらテレビを点けてソファに座った。
「遊園地なんて久し振りだなぁ…………」
実を言うと、最後に行ったのはかれこれ8年程前なのだ。
両親が海外出張に行く前に行ったきりで、それ以降は行っていない(出張先は自由の国アメリカである)。
両親が海外出張に行く時に玄関でアロハシャツ着て、
『『アメリカ、ヒャッホーイ!海外出張、バンザァ〜イ!お土産期待しとけよッ!チャオッ!』』って言っていたのは良い思い出だ。
ツッコミどころが多過ぎてあえて無視したのは、ナイスプレーだと子供心ながら思ったな。
「はぁ、両親達の親の顔を見てみたいものだな……」
そう呟き、苦笑いを浮かべた。
因みに、爺ちゃんと婆ちゃんは達は両親と正反対な性格だ。
昔の思い出に浸りながらテレビをぼぅーっと見ていると、今日行こうと考えていた遊園地の特集をやっていた。
「ふぅ〜ん、こんなのがあるのか。前に行った時は無かったと思うけどな。うん、中々楽しそうだな。」