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モドキの弟子  作者: こばかい
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『一報』

『――それはとある国の革命譚。度重なる増税に経済の停滞し、失職する民は増えていくばかり。

 措置として取られた政策は、民の流出の禁止と増税。

 私腹の肥えた高級官僚指導による亡命者への厳罰化によりドンハ国の位置する峰々にはいくつもの死体が転がり、警備兵隊内にも脱走及び反乱の声が上がり始めるも、密告者に対する報酬が掛けれられた事で真偽を問わず何人もの首吊りが行われ、役人も市民も王宮内の官僚に至るまで疑心の炎はいつ間にか国家の命を飲み込んでいた。

 ――腐りきった国家という屋台が腐り落ちる頃には、その内部はすでに手遅れなものだ。

 残された国民には家族がいて、想い人がいて、仲間がいて、自分のいずれかがいる以上、明日生きることで必死で国家の不満も抗議の運動も行う力などなく、それでも日々疲弊していく一方。

 鉱石資源によって潤い成長し、石畳の美しかった首都ですら痩せ細った犬が何かの肉を咥え、行き倒れの人間を蹴り飛ばし荒くれ者が強盗に民家を一つ、一つ、取り壊していき、王宮兵も賄賂を受け取る事でそれを見逃す――それが普通であり日常だったそうだ。

 いち早く国の状況に警鐘を鳴らしたの王子《ルスカ氏》は即刻、他国の姫君の婿として追放された――だが、王子は再び国民の前へ戻って来たのだ。

 疲弊した民や王宮に属さない兵達を纏め上げ、疑心の目を取り除いた事で王宮に対し虚偽の報告などを用いて王子が用意した物資を補給した人々は力を取り戻し始め、統率のとれた軍に近い存在になり革命の狼煙をあげる機を待った。

 王宮と市民のはっきりした戦闘が始まったのは二週ほど前――王宮の兵士複数による市民女性への強姦がきっかけに市民の怒りがついに爆発する。

 しかし、軍として組織され訓練を積んだ王宮兵と急造の市民軍では装備的にも戦術的にも絶対的な差があるものだ。

 だが、事前に王子も魔法大国メザイアを中心に組織された大陸国家連合に救済要請を出していたのだ。

 国連側も兼ねてよりドンハ王宮に対し援助を申し出ていたが内政干渉を盾に断られていた事もあり、市民への攻撃が明確に行われたことにより救助の名目でドンハ国領での特権活動は開戦と同時に開始された。

 その協力と、すでに王宮内部も瓦解しかかっていたのも助かり、3日目の夜襲でルスカ王子はバシアス王の眼前へと迫った。

 ――逃げ惑う官僚、騎士道を貫いた兵、攻め入った市民軍、その国の歴史を物語るように絢爛に彩られた装飾を派手にさせず落ち着いた印象を持たせている随一の匠の手によって建てられた王宮は一変して地獄絵図へと化した。

 乾いた茶の血痕の上に鮮血が幾度も上塗られ、神を祀る銅像に刺さった遺体やドアノブに掛かったまま硬直した手首から先など――国連軍に同行した記者はその壮絶な記憶を私に告げると精神科医による最低一年の休養が必要と診断された。

 王の元へ迫ったルスカ王子率いる80人の民兵だったがその前に立ちはだかったのは猛将カイゼ。

 記憶に未だ新しい十年前の北東戦争においてドンハ国派遣部隊を率いてかの激戦の地ラム村において類稀なる戦績をあげた事で各国の関係者ならば知らぬ人はいない人物だ。

 カイゼはルスカ王子と80人を相手取って一人足りとも背後の王のもとへは逃さず今も尚、鬼神如き力を奮う。

 しかし逃走準備中に攻められた事で隠し扉へ手にかけていたバシアス王へ一発の銃弾が既にその右足を赤く染め上げ、動けずにいた。

 そして猛将カイゼに最後の時が来る、二双の槍を操るルスカ王子の一本がその胴体を貫き、生き残った4人もその手にした剣を突き刺し、只人の鬼はついに沈黙する。

 しかし、ルスカ王子もまた、カイゼ最後の一振りがその胴を肩から斜めに切り裂いていた。

 必死に這いずり逃げる王の背を目前に倒れいく王子、生き残った仲間もまた極限の集中から解き放たれ倒れた。

 一瞬濃い沈黙が生まれたその部屋で「ああああああああああ!」と王子の咆哮が響くともう一つの槍を投げたそうだ。

 弱々しく、離したと言っても過言ではないその槍は王には届くことは決してなく――と思われた。

 だがその槍は弾丸の様な速度で王の心臓を貫くとその体に無数の棘を生やし、その肉体は血肉の破片となって散らばり、彼の国の戦争は終結し革命は成った。

 王子が猛将カイゼを貫いた槍はドンハ国内でも有名な物だそうだが、もう一本の槍は捕縛された王宮関係者も市民も誰一人として知るものはおらず、何らかの魔術が施されたメザイアの有識者が『凶槍』と名付け、その出どころは未だ不明で情報と呼べるものも生き残った民兵の下げていた『想刻石』の朧げな様子だけで魔力痕などもないそうだ。

 ――さて。革命は確かに果たされ、絶対悪は死亡した。王子の最後の戦いを共にし生き残った3人を中心に新政府の旗揚げがなされた。

 だがきっと彼らの掲げた朝日に吠える三頭の獅子の国旗の様に太陽が輝く日はまだ遠いだろう。

 民族や集団単位での居住地を争う戦争はもはや歴史書の一ページ、国家単位での貿易や戦争が行われる現代の表側では国家の崩壊はどういった未来を描くのだろうか。

 既に旧ドンハ国領の割譲、分配などが大国家間で話し合われているそうだ。

 国民が倒れ国家は崩壊した、しかし国家もまた国民を守る壁だっただろう。国旗も国家も変わろうと生きていけるだろうがその変化は人間にとって大きな抵抗があるものであり、容易に受け入れられるものではない筈だ。

 彼の国の資源もまた隣国からしても甘美であり、新政府もまた一枚岩ではない。

 動乱の中生き残った国民の大多数は一早い安寧の眠りと、清々しい朝日を迎えられる日常を望んでいるが、はたして。

 彼の国の情勢にはこれからも本誌では追っていくが一先ず、多大なる戦死者、国家の犠牲となった死者の方々にご冥福をお祈りするとともに、生存者の平和な日々を願う。

 取材協力に感謝を。


 筆者 アルバス・ファル・ニクハミル』


――凛星海新聞、一面より抜粋。


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