プロローグ
酒場で男たちが酒の肴に話に花を咲かせていた。
「もしお前が悪魔と契約しなければいけないほど、何かに患ってしまったのなら――」
「なんだもうネタ切れか?その話は、俺もお前も乳飲み子の頃から聞いてるだろ?」
「いやそれがな、その魔女が最近、化け物を飼い始めたんだとよ!」
「化け物?」
「そうだ!聞いた話ではガキくらいの身長に、足元まですっぽりと黒いローブを被っているんだそうだ」
「そりゃ、ただのガキだろ。アホくせえ、魔女だって人でなしのクズ共だとしても人なんだ。長命な魔女様でも気紛れに麦喰い虫を呼び寄せる時もあれば、子を宿すこともあろうよ」
「それが、そのガキのローブの下は―――」
「すまない、私にもその話を聞かせてもらえないだろうか?」
砂埃にまみれたの大きなリュック、日避けの上着を羽織った青年を男達は旅人だと認識し大手を広げ応える。
「ああ!喜んで!お前さんも魔女の噂を頼りに来た口だろ?この村はあんたみたいな人がお金を落としてくれるのも大事な収入なんだ、とりあえず一杯飲め飲め!何、これは俺の奢りだ心配すんな」
男が従業員に注文を告げ、元気のいい声と共にすぐジョッキごと冷えたエールが旅人の前に置かれた。
「これは、これは・・・ありがたく頂くとします」
「お前さんどこから来たんだ?その様子だと相当な距離だったろ?」
「私はルスカという、西の【ドンハ】という国から来たのだが――」
『もし君が悪魔と契約しなければいけないほど、重篤な何かに患ってしまったのなら――
その時は、その魔女に頼るといい。
そうでないのならやめておけ。』
――大陸のほぼ中央、ガイナ領イガンカ村に口伝される暗黙のルールであり、寝物語。
『蛙の橋をまっすぐに、馬車道の途中崩れた祠で曲がれ。
悪霊の木を恐れるな、しがらみの蔦を断ち切るな。
安寧の泥はなく、絡みつくのは畏怖そして鉄錆色の希望だろう。
それでも進め、進む理由がるのなら。
倒木二つ、支え合う門が見えたのなら、右の木を二回叩き名を吼えよ。
さすれば光が可能性を指すだろう。』
これはその村の近くに住む魔女の家へと導くもの。
そういえば最近、一節増やされて語られることも多い。
――その魔女と共にしている化け物には関わるな――と。