名も無い物語6
生きていて、何を求めたのか
なぜ決断ができたのか
人の心にあるのは、求める心。
大事なものを求めるのか
知識を求めるのか
関係を求めるのか
まだ見えない孤独が、目の前にあることに気付かない
それでもなぜ人は望むのか?
静かな教室だった
何百人も入れる大学の大教室
大きな黒板が二つ、教壇の上に置かれている
曇り空から太陽の日が届くわけもなく、教室は陰が差したかのように暗い
「幸福なんてない、絶対にない」
自分の声が空気に吸い込まれてしまうかのように、この世界に響いた
授業が早く終わって、五分もたたないうちに、学生は消えていた
たぶん外の世界で、騒いでいるのだろう。
喧騒の音は聞こえていた
「……」この教室には僕だけ
あまりにも静かなので外の世界と切り離されている錯覚に陥った
天気も悪いせいか寒気を感じる
「まるで籠に閉じこめられた十姉妹みたいか…」と態と卑下てみる
でも、誰もいない。
十姉妹に例えたとしても、やはりそれとは違う
ああ、ココはそんなにも感情がないのか
と、ふと思って
でもココにある唯一の感情はなにを示すのか
「怖いと寂しいの違いが分からな…」
一人は怖い
無害なはずの静けさが、心を襲う
一人は寂しい
ああ、外界はあんなにも騒いでいるのに
なぜ、ココはこんなにも、こんなにも
あそこを求めているのだろう
生きているからか、苦しんでいるからか
それともすでに死んでしまっているからなのか
「分かってるよ、分かってる」
だって人間なんだから
あのとき、決めたんだから
向き合うしかないんだから
でも、どうやったらいいのかが分からない
無音の空間が見下しているように見つめていた
ああ、笑っている
外の世界が
こちらを見てる
だから、気付かれないように夢へ
ああ、聞こえる
無縁の外の世界
この人間は、立ち上がって生きる道を選んだ
なぜ、選べたのか?
それはたった一つの思い出
それだけが、この人間の人生を変えた。
まるで縋るようにそれを求め、あたかもそれが自らの選択となるように信じたもの
名も無い思い出は続く