決着
楽しい
「非凡なる平凡」
平凡なる優馬に与えられたその異能は、その名の通り平凡な出来事、つまりは当たり前の事象を、有り得ない事象へと繰り上げる能力である。
簡単に言えば優馬は『不可能を可能にする男』ならぬ『可能を不可能にする男』という訳だ。
それは奇しくも一晩の内に、全くこの奇想天外な世界に足を踏み入れた彼の人生の体現の様であった――。
個体、液体、気体を変幻自在に操る湯川の戦法もまた、その特性の様に自在であった。
点で貫く氷柱と、面で襲いかかる液体窒素の波状攻撃を有利な射程から撃ちつつ、接近されれば濃霧に紛れ、身を隠して距離を取る。
一見シンプルな戦法ではあるが、それ故に堅実で付け入る隙が無い。
では隙のない湯川に優馬は圧されるばかりであったか。
否!優馬は既に湯川の攻撃を見切りつつあった。
では、優馬は何故避けるばかりであったか?
異能とは、元来人知を超えた力である。
使用するにはRPGで言うところのMPが必要だ。
そして強力な力を使えば使うほどMPの消費は大きい。
ここで優馬の狙いは2つ。
1つ目は湯川のMPをとことんまで消費させる事。
2つ目は湯川が持っているであろう奥の手を発動させる事である。
優馬はこれまでの戦いの中で、互いの持つカードを全て使い切った方が敗北を喫する事を本能で理解していた。
しかし、湯川のいつ終わるとも知れない攻撃を避け続けるのは、消して簡単なことでは無い。
まして避けながらここまで考えることが出来たのは、これまで全てにおいて平均だと思い、思われ続けて来た彼が唯一、戦闘というただ一点にのみ秀でていたからであろう。
彼はこの戦いで闘技者としてその才を開花しつつあった――。
「君との戦いも楽しかったけれど、いつまでもやってたって仕方ない。
生憎君はもう僕の攻撃に慣れ始めてしまったようだしね。」
湯川のその言葉で優馬は理解した。
決めに来る!間違いなく!
それこそが優馬の待ち望んだ一手。
次の瞬間、優馬の足元が紅く滾る!
(ヤバイ!)
半分本能で咄嗟に跳躍でその場から離脱した。
そして跳んだ後の足元を見て慄然とする!
地面が真っ赤に煮えたぎっている!
「地面を液体にしたんだ。
僕の能力で状態を変える事の出来ない物質は無い。
どんどん行こう。」
次から次へと足元が溶ける。
相手の能力は強力だ。
ありとあらゆる物体の状態が操れるのであれば、ありとあらゆる物質の温度を融点まで引き上げる事が可能だろう。
紛う事なきチート能力だが…。
しかし、切り札は見た。
優馬はこの瞬間を待ち望んでいたのだ。
相手が最強のカードを切って勝利を確信したその瞬間、その一瞬の隙を見逃さ無かった。
そして次の瞬間、優馬は平然と煮えた地面の中を湯川に向かって走って行く。
「嘘だろ⁈摂取何度だと思ってるんだ!その中で無事なんて――」
「有り得ない?いいや、今は僕が超高温の中動けない事こそが…有り得ないんだ。」
そして一気に間を詰められた湯川は
「そして、僕が君を一撃で失神させられ無い事もまた、あり得ないんだ。」
その一言を聞いたのを最後に、敗北した。
やっぱり楽しい