悪意は成長を待たねぇから!
孤児院で暮らした思い出はあんまりないが、思い入れはそこそこ
そりゃ、安心して寝れる場所ってだけで愛着も沸くってもんですよ
そんな、孤児院が今は火に巻かれて燃えていた
「ああ、ああああ……!」
すぐそばでシスターは泣き崩れていた
彼女は若くて美人で人柄が良く、人を疑わない善人である
そんな彼女が、貧乏でも幸せな家庭を奪われなければならないのか
転生者を敵視しない稀有な存在
それだけで攻撃の対象となってしまうのか
ああ、なんて無常な異世界なんだ
憐れなシスター
覚えてないけど、ここまで育ててもらった恩義があるからこれ以上不幸が訪れないことを願う
もう遅い気がするけど
「ザイード、どうやら転生者がいることがばれているようだ。」
夜遅くに関わらず、孤児院が燃えていることを報せ寝てるチビ共を連れて誰一人欠けることなく脱出できたのは同じ転生者であるデイジーのおかげである
デイジーがどういう人間で、どういう恩恵を神から授かっているかは知らないし興味はない
皆、無事で良かったね
はい、おしまい
というわけにはいかない
面倒はこれからだ
「ばれてねぇと孤児院焼かねぇよ……。もうばれてると思っていいよな……。」
「ばれてなければもっと悲惨なことになるね。」
他の子供は、シスター同様泣いたり、現実を受け入れれず呆然と突っ立てるのに対しケロリとした顔のガキが二人
怪しくないはずないよなぁ……
それにも気付けない間抜けが犯人だった場合は
「皆殺し?」
「その通りだ。」
シスターに追い打ちかける行為は慎んでほしい
彼女は孤児だけではなく村人にも優しく献身的だったというのに
恩を仇で返すのか
「さぁて、どうする少年?悪意はボク達を待ってはくれないぞ?」
「なんで楽しそうなの?」
少女はけらけら嗤う
まるで子供の姿をした
悪魔だ
孤児院燃やしたのこいつじゃねぇかと思ってしまうほどだ
「楽しくないわけがない!ボクはこういう場面が好きで長生きしているんだよ!」
長生きねぇ
死ぬ程どうでもいいけど性格悪いなデイジー
「俺の能力があれば余裕だが、俺は余裕じゃないからなぁ」
村人の誰が犯人か
人数はどれほどか
次に取るアクションは何か
そもそも何を目的としているか
それを知る手段を俺は持っていない
だが、シスターにかける迷惑を極限にまで減らす手段なら持っている
「ザイードの能力?それはどんなだい?聞きたい聞きたい」
「『方向の操作』」
それが神に押し付けられた能力
魔法とかの類はない
剣術とか体術も持ってない
あるのは、この幼い体とインチキ能力
「ほうほう、どういうことが出来るんだい?」
「例えば、」
能力の行使に呪文は必要ない
ただ念じればノータイムで使える
魔法とか滅多に見ないから知らんが転生者そりゃ嫌われるわな
「『村人の敵意を全て俺に一点集中。ただし、孤児院を燃やされたことで発生したものを除く』とか」
瞬間
多くの視線が俺に集中したのを感じた
孤児院が燃えたことで集まってきた村人が一斉に俺を見たのだ
めっちゃ怖い
真顔で視線向けられるめっちゃ怖い
もしかしなくても、俺を見てる人全員敵ですかねぇ
「凄いじゃないか!」
「ああ、凄いチートだ」
「それで次はどうするんだい?」
「逃げる」
「逃げる」
戦うことに期待していたのか
さてはデイジー、血みどろなダークファンタジー好きだな
俺も好きだ
当事者になりたいとはあんまり思わないけど
煽る方は楽しいだろう
今のデイジーみたいに
お生憎様
シリアスな展開とか俺TUEEEE!とか俺には無理
なろう主人公じゃないんだから
「自慢ではないが俺は、前世から戦闘技術など一切覚えがない。疲れるの嫌いだし」
据わった目の村人が斧とか棍棒を持ち出しているのが目に付く
このままだとミンチになっちゃう
シスターは転生者でも俺を庇ってくれるのだろうか
庇うだろうな……
底無しのお人好しだし……
損な人だ
「シスター」
こんないい人とはさっさと縁を切るに限る
「なんですか?」
さっきまで泣いていた癖に村人の豹変を感じ取ると俺を背に隠そうとしている
怖い癖に
馬鹿な人だ
俺を差し出せば平和に解決だろう
俺を庇えば他の子供も危険に晒すことが理解できないのか
理解しているのに認めたくないのか
「今までお世話になりました。お達者で。」
俺は走り出す
遅ぇ……
子供の体不便すぎぃ
でも、体力底なしって感じがする
「悪魔が逃げた。」
「追え。」
「殺される前に殺してしまえ。」
村人、物騒すぎない
ホラーゲームか
シスター取り押さえられてるけど危害加えられないよな
悪魔に洗脳された憐れなシスターって設定で許してくれないかな
まぁ、いいか
ゾンビより恐ろしい狩猟者共に捕まる前に孤児院の近くに止めてある荷台に乗り込む
馬は必要ない
必要なのは『前に進む』車輪
俺を乗せた車輪は独りでに走り出す
馬に牽かれるよりも早いぜ
目指すは森
一旦隠れて、その後のことは後で考える
「うーん。ちょっと、興醒めかなぁ。」




