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3話 読み上げ「ブルーテール」

 イツキはずぶ濡れになりながらも洞穴を見つけ出して、そこで身体を休めていた。

 やつがれも追従してイツキのデータを収集している。


 「なあ」


 薄暗い洞穴の中で身を寄せ合う中、イツキが口を開いた。


 「人間はもうシロちゃんしか生き残ってないんだろ?

  ならなんで記録……? とかいうのをシロちゃんはやってるんだ?」


 イツキはやつがれのことをニンゲン族であると勘違いしているようであった。

 訂正はしない。

 イツキの知能レベルでは説明しても理解できるかどうか定かではないから。


 「それがやつがれの存在理由だから」


 変わることのない答えを返した。


 「え……でも、記録してもそれを読む人もいないんだろ?」


 イツキになんと問われようと答えは変わることはない。

 同じように答えても堂々巡りになるだけだろう。

 イツキのデータを収集するべく、こちらから質問を投げかけることにした。


 「イツキはなぜイセカイからここへ来た?」


 「えっ、あー……それはオレにも分かんねえんだけど……」


 イツキは気まずそうに頬を掻く。

 この質問については答えを得られなさそうだと判断しかけた時、イツキが言った。


 「まあ強いて言えば……元の場所がオレには生き辛い場所だったからかな」


 イツキが何故か苦しそうな表情でそう言った。

 この答えにはやつがれは大いに納得して頷いた。


 「生存により適した場所を求めて移動するのは生物として当然のこと」

 「と、当然か……ははっ、なんかこそばゆいな」


 やつがれはさらに続ける。


 「もちろん元の場所に留まり続ける個体もいるだろう。

  色んな選択をする個体がいることはその種によって必要なこと。

  そうすれば何処かの場所でその種が滅んでも何処かで命を繋いでいける」


 「シロちゃん……もしかしてオレのことを励ましてくれてるのか?」


 イツキが何故そう感じたかは分からないが、やつがれは話を続ける。


 「そう、例えば……イツキは魔法を使えるか?」


 「え、魔法? やっぱ魔法とかあんのこの世界?

  うおおっ、とりゃー! 炎よ出でよ!」


 イツキはしばらくの間騒いでいたが、その手の先から何がしかの魔術が発現することはなかった。


 「イツキは魔力神経が発達していないのかもしれない」

 「魔力神経?」


 イツキの言葉に頷く。


 「魔力を身体に行き渡らせ魔術を発現させるための回路だ。

  ニンゲン族は主に指先や掌にこの神経が集中する。

  ニンゲン族を始めとしていくつかの生物はこの魔力神経を有するが……」


 一旦言葉を切ってイツキが話を理解してるかどうか観察する。

 イツキは興味深そうに黒い瞳を輝かせている。


 「魔力神経を有するどの種族も、個体によって魔力神経の発達具合に大きな個体差がある。

 おそらくはどの個体も同じように強力な魔力神経を持っていると、その種族は何らかの要因によって淘汰されてしまうのだろう。やつがれはそう仮説を立てた」


 そう、仮説。

 完全な幻獣魔獣大全はただ見たままを記録しただけでは本当に記録したとは言えない。

 その生物が何故そんなことをするのか、何故そんな身体構造をしているのか思考し、検証し、実証した結果までをも記録しなければ。

 その為にやつがれは自我を与えられた。


 「だから、何かが少ない、足りないはその種族によって必要なこと。

  決して劣っているわけではない」


 そう説明したその時、獣の遠吠えが耳に届いた。

 洞穴の外、遠くから響くそれはイツキにも聞き取れたらしい。

 角笛の音にも似た低い獣の鳴き声が。


 「うわわっ、何いまの!?」


 問われたので記録を読み上げる。


 「あれはブルーテールの鳴き声。

  ブルーテール。体長およそ3メートル。肉食動物。二足歩行の爬虫類。

  尾がサファイアのような鮮やかな青色であることからブルーテールと呼ばれる」


 「肉食動物!? ヤバいじゃん!!」


 「ブルーテールは炎が苦手。ニンゲン族は主に炎の魔術でこれを避ける」


 「魔法なんて使えないよ!」


 「大丈夫、あれはかなり遠く。雨だから匂いを嗅ぎつけられる心配もない」


 遠吠えの響き具合から判断してやつがれは言った。


 「そのブルーテールっていうの鼻も効くの?

  ねえ……せめて洞穴のもっと奥へ行こうよ」


 イツキは不安げにやつがれの服を引っ張って言った。

 洞穴の奥は暗く明かりが届かない。

 しかし奥に行く方がイツキのストレスを低減できると考える。


 「やつがれの手に掴まって」


 瞳を暗視レンズに切り替えながら言った。

 イツキが暗闇の中で転んで怪我したりしないように。

 怪我をさせない方がより長くイセカイ人に関するデータが収集できると思考する。


 「うん、ありがとう」


 イツキがやつがれの手を取った。

 手に感じるイツキの体温はやつがれの表面温度よりも少し高かった。


 こうして記録一日目の終わりは、明かり一つない真っ暗闇の中で二人身を寄せ合って眠りについた。

 

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