表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

2話 定義「イセカイ人」

 「生け……なんだって?」


 イツキは言葉を上手く聞き取れなかったようだ。

 やつがれはもう一度言う。


 「生ける幻獣魔獣大全。

  存在理由は幻獣・魔獣その他生けとし生けるもの全ての記録」


 「……?」


 イツキは理解できなかったようだ。

 知能レベルは存外低いのかもしれない。


 「えーと……長い名前なんだな!

  なんか呼びづらいし、あだ名で呼んでもいいか?」


 「好きなように」


 「えーとじゃあ……うーん……髪の毛が白いからシロちゃん、でどうだ?」


 シロちゃん。

 イツキの言葉にやつがれは自分の外装を見下ろした。

 白い髪。白い肌。ニンゲン族の少女を模した華奢な身体ボディ

 ついでに言えば瞳は赤いはずだ。

 やつがれは思考した。


 「うん。シロちゃんで、いい」


 イツキの知能レベルを考えればそれが適切であると思えた。


 「なあ、シロちゃんはなんでこんなところにいたんだ?」


 こんなところ。

 問われて、辺りを見回す。

 深い森の中。葉がそよぐ微かな音と翼ある者たちの鳴き声が聞こえる。


 「生けとし生けるものの記録のため」


 「な、なるほど。シロちゃんは学者さんか何かなのかな?

  この近くに住んでるところがあるのか?」


 「やつがれには拠点はない」


 「え……じゃあ、人間の住んでるところは? 村とか、町とか」


 イツキの問いに答える。


 「存在しない。<事項E12793>……ニンゲン族はノゲルド歴3424年にいわゆる『絶滅』をした」


 イツキは目を見開いた。


 「絶……滅? 嘘だろ?」

 「やつがれが虚偽の申告をするメリットはない」


 やつがれがそう言うと、イツキは力を失ったかのように地面に膝をついた。


 「そんな……! せっかく異世界に召喚されたって言うのに、既に人間が絶滅した世界だなんて!」

 「イセカイ?」


 それはノゲルド語にはない語彙だった。


 「そう、異世界! オレは異世界から来たんだよ!」


 イセカイ。イセカイという場所がイツキの出身であるらしい。

 ならばイツキは「イセカイ人」であると名付けるのが妥当であろう。

 新種。イセカイ人。

 そう記録してやつがれは頷いた。


 その時、ポツリと水滴が地面に落ちた。

 イツキが泣いた訳ではない。

 それは天から降ってきたものだった。


 「あ、雨だ」


 イツキは天を見上げた。

 雨足はすぐに強まって、地面はまだら模様から一面ずぶ濡れになった。


 「雨宿りになる場所を探さないと! シロちゃん!」


 イツキはやつがれに向かって手を差し出した。

 その意味が分からず、やつがれは首を傾げた。


 「一緒に行こう!」


 そう言ってイツキはやつがれの手を取って走り出した。

 イツキとやつがれは一緒に走る。


 やつがれの存在理由は記録。

 新種である「イセカイ人」、イツキのデータを集中的に収集することは重要であると思考する。


 このまま、イツキについていこう。

 やつがれはそう思った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ