改革の第1歩〜その2〜
前話に入らなかった部分です。
「カルアお姉ちゃん、さようなら。」
「ジャン君、ジョン君、またね。」
今日の訓練が終わりました。保育所の詳しい話し合いは明日からです。アントンさんが、保育所を利用しそうな親子と保育士をしてくれそうな人のリストを作ってくれる事になりました。
施設を作っても利用者がいないなんて事態は避けたいです。スタンさんに子ども達を預けられる施設が出来たら利用しますか?と聞いてみました。利用したいけど料金を聞いてから判断するとの事。そうですよね。高過ぎて今以上に生活が苦しくなったら本末転倒です。
農園に帰って来て、訓練組はお風呂ヘ私とカルアちゃんは夕食の準備です。今夜はお好み焼きです。ホットプレートを2台出してみんなで焼きながら食べます。
食堂に全員集合しました。ボア玉と牛玉の好きな方を選んで焼きます。最初に私が見本で焼きました。みんな初めてなので興味津々で見入っていました。ひっくり返した時には拍手までされてちょっと照れます。ソースとマヨネーズをかけてかつお節を乗せて完成です。みんなが焼いている間にスープを注いでいきます。
「「「「「「「「「いただきます!」」」」」」」」」
私の真似をしてみんな、食前に「いただきます。」と言う様になりました。
さて、久しぶりのお好み焼きです。みんなはフォーク、私は箸で食べます。祖父母と家で焼いていた時は冷蔵庫の残り物を色々と入れていました。私のお気に入りはちくわやかまぼこ等の練り物です。余りにも入れ過ぎてお好み焼きに見えなくなったのはいい思い出です。
「サーヤお姉ちゃんは美味しいお料理をたくさん知っててすごいです。」
カルアちゃんがキラキラと目を輝かせています。元の世界の知識なので何だかズルをしてる様でちょっと罪悪感が…。
私とカルアちゃんは1枚でお腹いっぱいになりました。訓練で余程空腹になったのかスザナちゃんとナージちゃんは2枚。男の子は全員3枚ずつ食べました。
全員食べ終わったので、明日からの予定を話します。
「私は明日からしばらくの間、冒険者ギルドに協力する事になりました。農園を留守にする事が多くなりますが収穫作業の方、よろしくお願いします。」
「大丈夫よ。収穫は私達で出来るもの。」
ナージちゃんの言葉にみんながウンウンと頷いています。大丈夫そうですね。念の為、明日出掛ける時に結界をより強力にしておきます。
〜アントン〜
初めて見た時はエルフの女の子かと思いました。
この街に拠点を置く紅蓮の風に連れられてやって来たのはまだ10歳の少女です。特技が貴重な回復魔法という事で興味が沸きました。
次に会えたのは1週間後です。今度は子ども達と一緒でした。3人に袋を手渡し見送っていました。一緒に依頼を受けるのではない様ですね。訓練所の予約と依頼を出しただけでした。
そして、翌日。子ども達9人でやって来たサーヤさんはこのグループのリーダーの様です。みんな、孤児になった子ども達です。
流行病の影響でダンジョンに潜る冒険者が減った事で、子ども達の仕事も減ってしまいました。やせ細っていく姿は痛々しく、かといってこれといった打開策もない状態でギルド職員としての無力さを痛感していたところです。
それなのに、たった1週間で彼女達の間で何が起こったのでしょう。明らかに年下の少女をリーダーとして認めているのがわかります。そして、全員顔色が良くなり瞳にも生気が戻っています。益々彼女に興味が沸きました。
そして彼女の提案を聞き、これからこの街が変わっていく予感がしたのです。それも良い方向へと。明日からがとても楽しくなりそうです。
〜冒険者スタン〜
「父さん、今日は楽しかった。また、カルアお姉ちゃんと遊べるかな?」
母親を亡くしてからずっと沈んでいたジャンが久しぶりに笑顔を見せてくれた。
前はこの街に拠点を置きパーティーを組んでいたが、流行病でメンバーは早々にこの街に見切りを付けて出発していた。
俺も家族を連れて移動したかったが、妻と子ども達は冒険者ではないので街から出て行くのは難しい。どうするか考えているうちに、妻が流行病に罹ってしまった。元々丈夫な方ではなかったので寝込んでしまうと、最期まであっという間だった。
それからは、ダンジョンに潜る事なく街中の依頼や、領都周辺の依頼を受けてきた。
それらは元々成人前の子どもでも受けられるものが多く、報酬が少ない。ギルドの口座の金は妻の薬代でほとんど消えていたので、毎日の食費を確保するだけで精一杯の状態が続いている。
だが、まだ幼い子ども達を家に置いて出掛けるのは心配で短時間で出来る依頼を選んでいた。
今回受けた依頼は未成年者への剣術指導。報酬は普通だが軽食付に惹かれた。持ち帰れる物なら子ども達の土産に出来るかもしれない。
当日、依頼主が子ども達の中でも年下の女の子だとわかり驚いた。紅蓮の風のメンバーはその子とは顔見知りらしい。
訓練は順調に進んだ。初心者相手なので基本動作を重点的に教えた。どの子も真剣で好感の持てる子ども達だった。
休憩の時間になった。依頼主が子どもだと分かった時点で期待はしていなかった。
だが、見た事もないものが並べられ甘い香りが漂って来た。全員に配られひと口食べてみると、まずその柔らかさに驚いた。バターと砂糖の甘さが口の中に広がるが、しつこくなくもっと食べたい欲求が湧いてくる。
昔1度だけ食べた甘味は硬いパンを砂糖でコーティングした様な物で只々しつこい甘さに美味いと思えなかった。それに比べてこれは優しい味がする。息子達にも食べさせてやりたいと思った。
依頼主のサーヤという少女の好意により息子達と一緒におやつを食べる事になった。母親の手料理が食べれなくなってから食が細くなった二男のジョンが、美味しいと言って口一杯に頬張っていた。長男のジャンも美味しそうに食べている。久しぶりのほのぼのとした時間に張り詰めていたものが緩やかに溶けていくようだ。
今日の出会いでこれから何かが変わっていく予感がする。だが、何があろうとも妻が残してくれた大事な子ども達を守っていく事はこれからも変わらない。再度決意すると美味しいおやつを頬張った。
今日の印刷
とんかつソース(500ml)
わら半紙A4サイズ1,000枚
クレヨン16色
毛糸並太(オレンジ、イエロー、ブラウン)
棒針(木製8号)
短いですが、ここで区切ります。
ありがとうございました。