この世界の話
久しぶり
「ちょっと待ってろ。何か食い物探してくる」
そう言ってヒラオカは自分の家の居間にある台所を漁り始める。それに便乗するように林も台所を漁り始める。
居間は天井、壁、床共木の板で張られた何とも木造感溢れた造りだ。真木は昔キャンプで使ったコテージの部屋を思い出していた。とにかく一息付けると思った瞬間真木と森野は床に座り込む。その時ふと自身の携帯の液晶画面を覗きんだがやはり圏外のままになっている。
「携帯電話だろ?それ」
振り返るとヒラオカが醤油味せんべいを食べながら歩いてきた。手には人数分の粗茶とせんべいをお盆に乗せている。それを部屋のテーブルの上に置いた後近くの椅子に座った。
「知っているんですか?」
「ああ、だが知っているだけだ。使い方は知らん。ここは良く別の世界から人が来るからな。そいつらも大事そうに『それ』を持ってた。それは何だと聞くとどいつも不思議そうな顔で『携帯知らないんですか?』ってよ」
粗茶をすすり始めるヒラオカ。それを合図に林や森野も粗茶をすすり始める。
「・・・その人達は今どうしているんですか?」
「死んだ」
一言だけ。たったそれだけでこの世界の異常さが分かってしまった。
「ど、どうして」
「理由は様々だ。ここは理不尽をありったけ詰め込んだようなところなんだ。足を踏み入れた瞬間殺される奴らがほとんど。そのせいでここを『墓場』だとか『ゴミ箱』とか呼ぶ奴もいる。お前らはとんでもなく運がいい方だ」
その時真木はあの迷路の中で無残な形で死んでいた人達の事を思い出した。
「ば、バカな・・・っ」
ここで森野がくやしそうに肩を震わせ始める。
「そ、それほどの強運持ちならば何故俺は『黒ミラ』でガチャを回しても産廃しか出てこないんですか!?」
『黒ミラ』は森野が熱中しているソーシャルゲームだ。元は有名なエロゲーだったのだがアニメ、小説などのメディアミックスが大成功した結果、去年よりソシャゲ界に進出してきた。森野はそのゲームの信者であり、多額の課金を費やしている。
「それは運営が裏で操作しているからだよ。いい加減気づけ」
「はあっ!?そんな糞な事天下の『黒ミラ』の運営様がやるわけないだろうがっ!」
林と森野が脇で騒いでいるのをよそにヒラオカは話を続ける。
「さっき迷路の中でも言ったがこの世界も昔は国も機能してたし人もそれなりにいた。だがここは『七天』の存在が強すぎてな。もう随分前に人類側が敗北して世界人口は今はもう10人もいないんじゃないかな。」
特に危機感のなさそうに、能天気な顔でせんべいを食べながら話すヒラオカ。しけっていたのか不満げに咀嚼している。
「七天、て言うのは何ですか?」
「・・・この世界にいる七体の大魔王の総称だ。それなりには強い。さっきお前達が迷い込んでいた城もそのうちの一体、ベイルの城だ」
「・・・」
とんでもない所に来てしまった。真木は頭を抱える。
世界人口10人。いや、今しがた3人来たから13人。そして恐らく世界中が化け物の巣窟。
・・・生き残れる自信がない。
「絶望しているようだがお前らが元の世界に帰る方法はその七天が関係してくる」
『えっ!?』
真木、林、森野の驚きの声が同時に上がった。
「ま、まさか・・・。七体の首を集めて神的な奴を呼んで願いを叶えて貰う的な・・・」
「なんだその禍々しいド〇ゴンボール」
「おお、いい線いってる」
『えぇ・・・』
冗談で言ったつもりだったのに・・・。三人から困惑した声が上がった。
「”七天の内の一体倒す”。これだけだ」
「・・・」
「七体の首を集めるより簡単だと思うぞ?」
「それは、まあ」
それはそうだが、迷路の中で出会ったバズというベイルの部下ですらとんでもない化け物だった。下手すれば三人とも一瞬で殺されていたのだから。自分達だけではとてもかなうはずないと真木は思った。
「・・・ヒラオカさんは、手伝ってくれるんですか?」
「そこまでは面倒は見ん。お前らがやりたい事だろ。お前達で頑張れ」
「ぐ・・・っ」
ここで林、ヒラオカに接近。頭を下げて懇願する。
「お、お願いしますっ!協力して下さいっ!」
「やだ」
「お願いしますっ!」
「やだだって」
「・・・こんなに頼んでもだめですか?」
「まだそんなに頼んでないだろ」