魔王の城のお隣に元勇者の別荘建ってます
ぐへぇ。こっちもまだまだ頑張ってやっていきます。
ヒラオカはどうやら助けにいくようだ。反論の声は無い。真木達は黙ってヒラオカに付いていく。
出来るだけ足音立てずに歩く真木達とビーチサンダルの気の抜けたような音をたてながら歩くヒラオカ。それに割って入ってくるように奥から聞こえてきたのは何かを練っているかのような、・・・荒々しく咀嚼しているような、そんな音が混じって聞こえてきた。
嫌な予感がする。真木達は段々その場所に行くのが恐くなり歩幅が小さくなっていく。手の平と首筋に大粒の冷汗が浮かんでくる。少し歩くと曲がり角が見えてきており音はその奥から聞こえてくるようだ。
曲がり角に近づこうとする真木達をヒラオカは手で制する。そしてヒラオカはゆっくりと曲がり角を曲がり真木達から姿が見えなくなる。
真木達が分かるのは音と臭い。何か鋭い刃物が硬い物を切っている音や銃声。その音の中に何か肉の様なものが潰されていく音が混じって聞こえた瞬間、辺りは静寂になった。血と肉が焼けこげたような臭いと硝煙の臭いがあたりに立ち込めている。
「もういいぞ」
ヒラオカの声が聞こえてきたので三人は恐る恐る曲がり角の奥を覗いてみる。まず目に入ったのは首から下が大型犬、首から上が細長い鎌が取り付けられたワイヤーが人間の髪のように大量に取り付けられた化け物が二体道の端に転がっていた。死んでいるのかピクリとも動かないでいる。ワイヤーの中には銃口のようなものも見えている。そして道の中央にヒラオカは立っていた。地面のある一点を見つめたまま動こうとしないでいる。
「・・・ちっ」
ヒラオカから小さな舌打ちが聞こえてきたと思ったら「行くぞ」と言って再び歩き出した。真木達は慌ててヒラオカの背中を追う。一体何にイラついたのか気になり先ほどヒラオカの立っていた場所に近づいた。そこにあったのは恐らく人間の物であろう肉片だった。明らかに何かに食べられたような痕跡になっている。先ほど聞こえてきた悲鳴の主だろうか。あの声質から察するに女性かと思われるが損傷があまりにも酷すぎて性別も何人いたのかも判断出来なかった。このひどすぎる惨状を真木は吐きそうになって口元を押さえ、林と森野は目を背けた。
「くそ・・・・・・なんてこった」
本当に人が殺されている。こんなにも無残に。真木達は吐きそうになる胸を押さえながら急いでヒラオカの背中を追いかける。
「悪いな、見苦しいもの見せちまって」
ヒラオカは特に周りの様子を気にすることなく迷路の真ん中を歩いていく。
「いえ・・・それよりさっきの化け物みたいな奴は」
「・・・この辺を仕切っているベイルって奴が飼っている犬共だ。あまりにも弱いから名前もない連中だ。この世界に住んでいる奴らから見れば可愛いもんだが他所から迷い込んでくる連中は大抵ああなる」
「・・・」
真木達はこの時先ほどの無残な肉片たちを思い出し自分達もヒラオカに助けて貰わなかったらと思ったら背筋が凍った。
少し歩くと先頭のヒラオカが立ち止り後ろの真木達に止まるように手で合図した。何かあったのかと思っていたら理由は直ぐに分かった。ヒラオカの数メートル先にさっきヒラオカが倒したのと同じ犬が10匹程の群れを成して近づいてきている。首から上がワイヤーと小銃で構成されていて声帯がないためなのか呻き声一つ上げる事無くじりじりとこちらに近づいてきている。目がない筈なのにこちらを取り囲み始めた。
「ひっ!・・・こ、こいつら・・・っ」
「大声出すな。良く見てみろ」
「・・・え?」
犬達はヒラオカ達を囲んではいるが直接襲ってくるような感じではなかった。離れた距離からこちらの様子を窺っているように見える。
「弱いが頭はそれなりにいい連中だ」
犬たちはしばらくするとヒラオカの言う通り取り囲むのをやめてその場に伏せ始めた。襲ってくる様子はない。というよりまるで服従しているような様子だった。
「俺の家まで案内しろ」
「えっ!?家!?」
どゆこと!?
すると犬たちはその場から立ち上がると特に嫌がる素振りを見せず隊列を組んで先頭を歩き始めた。
「よし行くぞ」
「えぇ・・・」
真木達は驚愕した。この化け物達はここに住んでいる主に飼われていると言っていたからだ。てっきりヒラオカの強さに敵わないと知ってその場をそそくさと去っていくものだと思っていたのにまさか道案内させるとは思わなかった。
「・・・あの、一応こいつら魔王の手先なんですよね。大丈夫なんですか信用しちゃって」
「言っただろ、頭はそれなりにいいって。違う道に連れて行ったらどうなるかこいつらは分かっているから問題ない」
「あと家までって。ここの近くにあるんですか?」
「ああ、近所だ。つっても別荘なんだがな」
「え・・・?」
真木達の足が止まった。近所って・・・こんなヤバい所の近所って。真木達の様子を察したのかヒラオカは笑みを浮かべて声を掛ける。
「心配しなくてもこいつらとは出口で別れるし家までくれば襲われることはないから心配すんなよ」
暫く歩くと出口に近づいてきたのか森の澄んだ匂いがしてきた。途端に安堵の息が漏れてくる。
「ここまででいいぞ、案内ご苦労。ベイルに宜しく言っておいてくれ」
ヒラオカに言われると犬たちは隊列を崩して颯爽と城の奥へと駆けていった。
「・・・ここの魔王と仲がいいんですか?」
「うん?・・・ああ、まあ、良くはないな。なんて説明すればいいんだろうな。俺にも分からん」
ヒラオカは頭をガシガシと掻いて面倒くさそうな顔になる。
「とりあえず後の話は家に着いてからな」
出口から出るとそこは広大な大地が広がっていた。草や木々が生い茂っており、近くに山や丘、川の音も聞こえてくる。真木達が走ったあの脆くて長い石橋は何処にも見えなかった。振り返るとそこは本当に魔王の城の様な巨大な建物がそびえて建っていた。注目する所は城を囲む迷路の入口がとんでもなく多く存在している事だった。自分達がいる出口も数多ある出口の内の一つだったのだ。
そして肝心のヒラオカの別荘は本当にこの城の近所で殆ど並び立つような位置に建っていた。そのすぐ隣に小さな倉庫のような建物も建っている。見た目が平屋のその家の外壁は白と紺の板金で施工されている。基礎部分もしっかりコンクリートが打たれており真木達がいた世界の家にとても類似していた。
「この建物・・・」
「既視感あるのか?この建物は何年か前に第三界の建築方法を真似て建ててみた奴だ。なかなかしっかりした建物になったから俺は気に入っている」
ヒラオカは自分のズボンに手を突っ込むと数十はある金色の鍵の一つを使って家の鍵を開けるとそのままそそくさと家の中に入っていった。それに続くように真木達も家の中に入っていった。