あの世への入口
手足つめたい。
林がドアをゆっくり開けるとそこは焼き肉屋の駐車場ではなく長い石橋だった。普通乗用車が一台通れるくらいの橋だがその橋を支える柱が下に付いておらず夜の雰囲気と相まって薄気味悪い印象が伝わってきていた。橋の下は暗闇になっており底が見ることは出来なかった。その長い橋が地平線まで続いておりどこまで続いている。明らかに自分達が焼き肉屋に来るために通ってきた道とは違っている事に真木達は驚愕していた。
「なんだよこれ・・・お、俺の車何処行ったんだよ・・・」
真木が自分の車が無くなっている事に絶望していると林は暫く何かを考えるような仕草を見せた後「ふーん、どれどれ」と言いながら店のドアから外に出ようとし始めた。
「ちょ、ちょちょちょちょっと待てぇおい!!」
真木の焦って少し高くなった声に林は鬱陶しそうな顔で振り返った。
「なんだよぉ」
「なんだよじゃねぇ、何してんだお前!」
「何って、帰るんだよ家に。出口はここしかないだろ?」
「いやそれどう見ても入口だから!あの世への入口になってるから!」
「そんなの分かんないだろ?この橋越えたら意外と家までの近道になってるかも知れないだろ?」
「こんな見るからに別世界な近道知らねえよ!」
二人で言い合っている所を後ろで見ていた森野が口を挟んできた。
「従業員が利用する裏口はどうだろう」
「それだ。おい、行くぞオラ」
「え~、わーったよぉ」
真木に言われて林はしぶしぶ付いていきその後ろを森野が付いて行った。従業員用の裏口は厨房を挟んだ奥の通路を行くと簡単に見つかった。しかしそこはただ壁にドアが取り付けてあるだけで開けてみるとドア周りの壁と同じビニル製のクロスが張ってあるだけだった。
「・・・マジですか」
「おいどうすんだ?ここで助けでも待ってみるか?」
「ちょっと待て、考えさせ・・」
その時店の電気が突然切れ、真木達の視界が真っ暗になった。
「うおッ!!暗ッ!!」
「フッ、なるほど・・・。早く出ろってことか・・・」
「・・・何で分かるんだ?」
「いや何となくだ」
林は暗がりの通路の中を低姿勢の状態で辺りを手探りしながら先ほどの店の出入り口に戻っていく。他の二人も為す術なく林に付いていく。
三人は店の出入り口付近にゆっくり近づくと今度は真木が店のドアを開けてみる。外は先ほどと同じ不気味な石橋が地平線に続いていた。今度は店の周りも確認してみる。店の周りが全て暗闇に沈んでおり離れ小島のようになっていた。時間帯は夜だが店の中より明るかった。
「・・・とにかく橋渡ってみるかぁ?」
三人は石造りの橋の上を恐る恐る足を踏みしめながら慎重に歩いていく。しかしその状況は三人が橋の中間辺りまで到達した所で突如一変する。先ほど歩いてきた側の橋の方から何かが崩れる音がしてきたのだ。最初は気のせいだと三人は思っていたが崩れる音は徐々に大きくなっている。戦慄が走る。橋が崩れている。とても速く、三人を追いかけるように大きな音が迫ってきている。
「走れぇ!!」
こっちも同時進行で頑張ります。