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 喫茶店の事務室で可愛い男の子とバッタリ鉢合わせする私。


「あ、晶さんですよね……?」


むむ、私の名前知ってるのか?

誰だね君は。


「僕ですよ、拓也です」


あぁ、拓也君か……って、なにぃ!

何故君がここに!


「いや、完全にそれ僕のセリフなんですけど……ここ僕のバイト先なんで……」


「そ、そうだったのか。おぉぅ、偶然だなぁーっ」


そのまま拓也君に抱き付く私。

あぁ、かわゆい……まるでお人形さんの様だ……


「え、ぇぇ?! ちょ、お酒くさっ……酔ってるんですか?」


何を言う……ワイン数杯で酔う訳が無いだろう!

失礼だな君は……ちょっと廊下に立ってナサイ。


「完全に酔ってるじゃないですか……あのっ、央昌さん……晶さんも寝かせた方が……」


「そうですね……では奥の休憩室にでも……」


んぅ? 寝る?

ま、まさか! 拓也っ 私を襲う気か!


「違います! ったくもう……こんなベロベロになって……」


「全然……ベロベロじゃないぞ……」


そのままソファーに寝かされる私。

ぅー……なんか急に眠気が……。


「水飲みますか?」


「んー……そんなことより拓也……私可愛いでしょ……?」


ふふふ、私ってば、本当はこんなに可愛いんだぞ!

あ、なんかクラクラしてきた……。


「可愛い……っていうか……」


お? っていうか何だね。言いたい事があるなら言いたまえ。


「晶さんばっかり……ずるい! この前はホットパンツ着こなしてるし、今日はメイド服着こなしてるし!」


えぇ? ソッチ?

あぁ、そうか。拓也君は羨ましのか。


「拓也君もぉ……着ればいいじゃないかぁ……ほら、下着もちゃんと……」


いいながらスカート捲りあげる私。

あれ、なんか……とんでもない事してないか。


「晶さん……シャメ撮りますよ……」


「んぅ……別にいいぞー? 撮れ獲れー」


じゃあ遠慮なく……とスマホで撮影する拓也君。

なんだろう、人生で最大の過ちを犯してしまった感もしないでもないが、眠くてそれどころじゃない。

寝てしまおう、そうしよう……。





 コッチ、コッチ……ドッチ……と時計の音がする。

薄く目を開けると、豆電球の光が見えた。そして私が住んでいるマンションの天井も。


「あれ……」


何時の間にか帰ってきたのか……やべぇ……記憶がない。

メイド服もいつの間にか着替えさせられ、今は自分のパジャマを着ていた。


 私どうやってここまで……誰が着替えさせてくれたんだ? と考えていると隣りの部屋から人の話し声が聞こえてきた。

誰だろう、もしかして兄ちゃんか?


 そっと扉に手を掛けそっと開けてみる。

蛍光灯の光で一瞬目がくらむが、声はハッキリと聞き取る事が出来た。


「だから……その事はまた今度……」


「今度って何時よ……もういい加減にしてよ、あの子と私を会わせたくないの?」


むむ、この声は……央昌さんと……


「そんな訳ないだろ、というか今ここで話す事でも無い。真田さんが起きたらどうする」


「またそうやって……すぐに話を反らして……。こんな長い間会わないでいたら……あの子、私の事忘れちゃう……」


女性の方は春日さんか……やべぇ、なんか修羅場だ。聞かなかった事にした方が……


「……真田さん?」


ってギャー! 見つかった!

ど、どうする!


何事も無かったかのように振る舞うしか! そ、そうだ! 今目が覚めましたーっ的な感じで……

そっと扉を開けて居間に入る私。

何も見て無い聞いてませんと言わなければ……


「え、えっと、今目が覚めたばかりなので……お二人が話してる事なんて聞いてませ……」


って―! 私白状してるやん! ヤヴァイ! 


 二人は顔を見合わせ、小さく溜息を吐く。

そのまま春日さんは私の手を握って、居間のソファーに一緒に座った。


「ごめんね? 人の家で変な話して……」


「い、いえ……私何も聞いてないッスから……」


落ち着かない私の態度に、春日さんは何か心に決めた様に語り始めた。

央昌さんとの関係を。


「私達ね、去年の春に離婚したの。ちょうど息子の誕生日の日に……」


えぇ! な、なんでよりによって……そんな日に……。


「原因は……私が浮気したから……」


え? 浮気? 

央昌さんは渋い顔をしつつ、春日さんの手を取り立たせようとしながら


「そんな話を真田さんにしてどうする、早く帰るぞ……」


「いやよ……貴方に今さら……夫面される筋合いなんて無いわ。蓮だって私が産んだのよ……なのに……なんで私から奪うのよ……」


むむ、春日さんちょっと錯乱気味では……。

まだワインが残っているのかも。


「それは、お前が蓮を家に置いたまま他の男の所で遊んでたからだろ。そんなお前に……蓮を任せれる訳ないだろ」


「貴方だって! 仕事仕事って私と蓮を放ったままだったじゃない! 浮気したのは……私が悪かったわよ……! でも私から蓮を奪わないでよ……!」


むむぅ、私の家なのに凄い居心地悪いでござる。

よし、こうなったら気が済むまで喧嘩してもらおう。というわけで私はちょっとコンビニに……。


「真田さん、今は深夜の二時ですよ。私達はもう帰るので……御迷惑おかけしました」


そのまま央昌さんは春日さんの手を取り、無理やりに連れて行こうとする。

春日さんは泣きながら拒み、手を振り払った。


「いやよ……! 帰りたくない……また私を一人ぼっちにする気?!」


「いい加減にしろ!」


ぁ、央昌さんがキレた。つい大声を出してしまった、と央昌さんは渋い顔をしつつ私に頭を下げて来る。

いや、別に謝る所じゃないと思うけど……。


「春日、何度も言うが……今は蓮とお前を会わせられない。あの子もお前が外で遊んでる時……一人で家に居たんだ。まだ小学生にもなってない子供がだぞ……」


「…………」


むむぅ、さっきから冷や汗が止まらぬ。

寧ろ空気は冷え切ってるのに汗だけ止まらない。

こ、このままでは脱水症状に……


「も、もう嫌よ……耐えれないのよ……もう私……死ぬしか……」


そんなメンヘラみたいな事言って……。春日さんやっぱりまだ酔ってるんじゃ……。


「いい加減にしろ。死にたいなら勝手にしろ……でも今日は家に……」


と、再び春日さんの手を掴もうとする央昌さん。

その手を、私は自然と掴んで止めていた。


「……真田さん……?」


「あの……すみません、今のは言い過ぎだと思います……。今日は春日さん……ここに泊まってもらうので……」


央昌さんは目を伏せ、一言だけ「申し訳ありません」とだけ残して部屋から出て行った。

 さて……どうするか。

きっと春日さんストレスが溜まってるのだ。ここは酒でも飲んでパァーっと……


「うぅ……うぁ……ああぁっ……」


ってー! 泣きだした! 

え、ちょ……ど、どうしよう! 央昌さん! ってもう居ないか。

とりあえずシャワーでも浴びさせた方が……。


「真田ちゃん……ごめん……」


「ぁ、いえ……。えっとその……とりあえずシャワー浴びます?」


「ん……大丈夫……私帰るから……」


いやいやいや! 今深夜の二時ですぞ! こんな時間に女一人で返せぬ!


「大丈夫、私の家……ここから徒歩で二時間くらいだから……」


いや、大丈夫って距離じゃないだろ! あれ? っていうか二人はどうやってここに?


「央昌……花京院さんの車で……拓也君が教えてくれたの」


あぁ、拓也は一度来た事あるからな。

とりあえず貴方は今外に出すワケには行かぬ! 

じっとしているのだ!


「はぃ……。あの……真田ちゃん、やっぱりシャワー借りていい?」


「あぁ、はい。勿論……どうぞ。この部屋出て……突き当りを右です」


そのまま幽霊のように立ち上がる春日さん。

フラフラと居間を出て行き、シャワーを浴びに……。

ぁ、そうだ。着替えとか用意してあげないと……パンツは私のでいいか。


って! そうだ! パンツで思いだした! 私今……まだ飛燕ちゃんのパンツ履いてないか。

ま、まあいいか……綺麗に洗って返そう。


 さて、じゃあ春日さんのパンツとパジャマを用意せねば……と、その時鳴るインターホン。

しかも連打。な、なんじゃ! 誰だこんな時間に!


「ちょ……誰だ、もう……」


覗き穴で確認。そこに居たのは……。


「あきらぁー……あけてぇ……」


うわっ……兄ちゃんじゃないか。なんてタイミングで。

っていうか鍵は開いてるぞ、さっき央昌さんが出て行ったばかりだからな。

ドアを開け、兄を玄関先に入れる私。

相当酒飲んでるな。くせぇ……。


「あぅぅ……あきらぁ……ごめんよぉ……今日泊めてぇ……」


そのまま玄関先で寝だす兄貴こと真田 大地。現在二十七歳。「レクセクォーツ」というIT企業に勤めている。


「兄ちゃん……そんな所で寝ないで……。ほら立って……」


兄に肩を貸しつつ、居間のソファーへ放り込んで毛布を掛ける。

ネクタイくらいは外しておいてやろう。


「あきらぁ……今日……美味しい手羽先……食べたんだけど……」


「はいはい、よかったねー」


むむ……ネクタイかなり固く……あれ? なんか余計に閉まった。


「うっ! あ、あきらに絞殺される! ご、ごめんよ! 今度からちゃんと……手羽先の……骨まで噛み砕いて食べたりしないからぁ……」


何してんだ……骨まで食ったのか。まあカルシウムを沢山取れたようで良かったですたい。

お、ネクタイ解けた。


「はぁ……あきら……水ほしぃ……」


「はいはい……待ってて」


そのまま台所に行き、ジョッキに氷を大量に入れて水を汲む。

ついでに二日酔いの薬もやっとくか。


「あきらぁ……兄ちゃんの着替えって何処だっけー?」


その時、居間に居る兄から声が掛かった。

ああん? 着替え? 


「寝室のタンスの一番下だよー」


台所から声を張り上げ、二日酔いの薬を棚から出し……


って、ちょっと待て。

なんで着替え? まさか……


「に、兄ちゃん……! 今シャワーは……」


と、脱衣所に向かう私。だが時既に遅し……


「…………あれ? あきら……なんか……背縮んだ?」


全裸の春日さんと兄ちゃんが御対面していた。


ってギャー! 


「に、兄ちゃんのスケベ! さっさとドア閉めろ!」


「え?! あれ? あきら……え?」


閉めろ言うとるやろ! 

そのまま兄貴の腰に回し蹴りを食らわせてフっ飛ばす私。

急いでドアを閉め……


「はぁ……はぁ……今友達来てるから……ごめん、言うの忘れたわ」


「ぐ、うぐぅ……その前にもっと優しいやり方を……つーか腕上げたな、晶……」


お、ちょっと酔い冷めてきたかしら。


「兄ちゃん、台所に水と薬あるから……飲んできなさい」


「は、はぃ……ありがとうございます……」


フラフラと台所に向かう兄貴を見送りつつ、春日さんに声を掛ける。


「だ、大丈夫ですか? すみません、ウチの兄貴が……ぁ、着替え持ってきますね」


「う、うん、大丈夫……ありがとう……」


よし、無事なようだ。

寝室に戻り、春日さんの着替えを持って再び脱衣場に。

着替えを手渡しつつ、居間に戻ると兄貴が薬を飲んでいた。


「あー……効いた。晶……さっきの人、美人さんだな。兄ちゃん好みだぞ。おっぱい大きいし」


「あぁ、そうッスネ。兄ちゃん巨乳好きだったね。っていうかもう一回蹴って良い?」


深夜二時過ぎ。

日々お世話になってる筈の兄貴をサンドバックにする妹が居ました。



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