(70)
突如、私の家へ来訪した家出娘、興梠 月夜ちゃん。
何故か熊の着ぐるみを来ている。っていうかそんな恰好できたのか、君。
「そうクマ。なんといってもクマだからクマ」
いや、人間でしょう、君は。
っていうかどうやって来たん?
「バスと電車で……クマ」
マジか。おまわりさんに職質されなかった?
「大丈夫クマ。お正月はどんな格好してても許される日クマ」
ハロウィンと間違えてないか、この子。
まあいい、とりあえず親御さんに連絡しないと……心配してるだろうし、この子はまだ高校生だ。未成年を親の承諾なしで泊めた日には……未成年略取で捕まってしまう!
そのまま携帯を取り110番しようとする私。
しかしクマっ子、月夜ちゃんに携帯を奪われてしまう!
「何する気クマ?!」
「いや、警察に……」
「大丈夫クマ! 私、ちゃんと手続きは済ませてきたクマ!」
なんの手続きだ! いいから携帯返しなさい!
「いやクマ! 私は大丈夫クマ!」
クマから携帯を奪い返そうとドタバタする私!
しかし、その時……琴音さんが自分の携帯で何処かに電話を!
「あー、もしもし、お久しぶりですー、柊 琴音ですー。あー、はい。興梠さん家の娘さん……はい、はい、今私の友人……っていうか真田さんの娘さんの家に……はい、はい、そうですそうです」
ぁっ、なんか興梠家に電話かけてるみたい。
っていうかあんなド田舎の村にも電話あるんだ……当たり前か。
「ちょ! お姉さん何勝手にやってるクマ! っていうか貴方誰クマ!」
琴音さんは一通りの電話を終えたのか、携帯をポッケにしまいつつ……抗議するクマ娘、月夜ちゃんに手招き。素直に月夜ちゃんは琴音さんの隣へと、チョコン……と座る。
「私は……義龍村、二大名家の一つ! 柊家の長女なり! 興梠家の娘よ、これからお母さん、こっちにくるらしいから」
「……?! 柊家の長女……! っていうかお母さんくるクマ?! や、やばいクマ!」
二大名家って……あぁ、村長から聞いたアレの事か。真田家と柊家が確かうんたらかんたら……
【注意:詳しくは第(49)話を参照してね!】
というか月夜ちゃん……なんで家出なんてしたん?
こんなド正月に……。
「むむ、よく聞いてくれたクマ……お母さん、酷いクマ……」
ふむ、事情を聞こうじゃないか。何があったんだい?!
「実は……お母さん、もう高校生なんだからお年玉なんていらないよねー……とか言い出して……うぅ! 高校生だからこそ、お年玉は貴重な収入源クマ!」
……あぁ、成程……
私と琴音さんは目を合わせ、コクンと頷く。
そのまま二人で両サイドから、クマの着ぐるみを着た月夜ちゃんを抱きしめた!
「わぁぁぁ! なにするクマ! うごけないクマ!」
「月夜ちゃん可愛い! 何その理由! そんなしょうもない理由で家出する高校生……初めて見たわ!」
「しょうもなくないクマ! 私は大真面目クマ!」
あ、そういえば……なんで私のマンション知ってるの?
「あぁ、それは私の情報網を駆使したクマ。っていうか紅葉兄に聞いたクマ」
紅葉……あのチャラ男か!
奴め、私のプライバシーをペラッペラと喋りおって! まあ、月夜ちゃんなら別に構わんが。
ところでいつまでその着ぐるみ来てるつもりだ、君は。
「うぅ、そういえばこの部屋暑いクマ……脱ぎたいクマ!」
脱げ脱げ。
※
クマっ娘こと月夜ちゃんは、着ぐるみの下は見事に下着のみだった。
ホントに捕まったらどうする気だったんだ。おまわりさん困ってしまうわ。
「ふぅ、すっきりクマ」
月夜ちゃんに適当な服を貸し、シャワーも浴びさせた私。
超可愛い女子高生、興梠 月夜が私の部屋に遊びにきていると今更実感する私!
ふぉぉぉ、モノホンの女子高生! 抱き着きたい!
「お姉さん、ちょっと怖いクマ」
グサっと私の胸に突き刺さる何か。
うぅ、別にいいじゃない! 女同士の友情を深めようぜ!
「それより……お願いがあるクマ! 私を……数日、この家に泊めて欲しいクマ!」
何を言い出すんだ、この子。
君はまだ高校生でしょうが。今は冬休みだろうが、学校始まったらどうするんだ。
「だから冬休みの間だけでいいクマ! もう私、あんなド田舎での暮らしに耐えられないクマ!」
そんな事を言われてもなぁ。
さっき琴音さんが月夜ちゃん家のお母さんに連絡しちゃったし……迎えくるぞ?
「そ、それは……そっちの柊家のお姉さんからお断りの電話入れて欲しいクマ! と、とにかく……今日は家に帰りたくないクマぁ……」
琴音さんは私が煎れたコーヒーを飲みつつ、月夜ちゃんの要請に腕で大きく×印を作り返答。
それを見た月夜ちゃんは膝から崩れ落ちてしまう!
「燃え尽きたクマ……もう……ダメクマ……」
「いや、まあ……理由次第なんだけども……別に冬休みの間だけなら……」
「ホントクマ?!」
私の言葉にテンション高めになる女子高生。
で? 理由を言え、理由を。
「と、都会で買い物とか……色々したいクマ……」
可愛い! なんだこの可愛い理由!
しかし残念……岐阜市を都会とか言った日には……本当の都会にすむ人々に鼻で笑われてしまう。っていうか、それなら高山市でも十分だろ。あっちの方が風情あるぞ。
「飽きたクマ」
「あぁ、そう……」
まあ、私は別に冬休みの間だけなら全然構わんが……琴音さんは依然、ダメっと腕で×印を作ってくる。
「なんでクマ! 琴音お姉さん、私だって少しくらい……遊びたいクマ! もっと女子高生みたいな事したいクマ!」
琴音さんは溜息を吐きつつ、再び月夜ちゃんに手招きして自分の隣へと呼び寄せた。
自分の隣に座る月夜ちゃんへと、琴音さんは……いきなりチョップ!
「いたいクマ!」
「おだまり! 私だって高校の時は勉強漬けだったんだから! 学生の本分は勉強なり! 諭吉さんも仰られておる!」
諭吉さんって……一万円の人か。確か学問に入ったら大いに学問しろって言ってたな。
「ぅー……でも私、勉強苦手クマ……それなら私に勉強教えてほしいクマ! 勉強合宿クマ!」
そうきたか。
まあ、琴音さんは元々医者を目指していたくらいだし……勉強出来るだろう。私も一応獣医の大学だけど……高校の時に何を習ったかなんて……覚えてねぇ……
しかし琴音さんは納得するだろうか。
勉強するしない以前に、この子は家出してきているのだ。初めからそのつもりで来たのならまだしも……親御さんも心配してるだろうし……。
「うーん……昌ちゃん、今日って執事喫茶やってる?」
「えっ、まあ一応開いてますよ。コックは敏郎さんだけですけど……央昌さんもヒマだからって、確か……」
しかしこんな正月に執事喫茶が流行る筈も無く……恐らく客など居ないだろう。
「じゃあ、そこに拓也きゅん呼び出して……月夜ちゃんに勉強教えてもらおう」
えっ、なんで拓也?
別に貴方が教えればいいじゃない。
「いやいや、現役の方がいいでしょ。拓也きゅん、学年十位以内には常に入ってるから」
な、なにぃ! 拓也って……そんなに頭良かったの?!




