(67)
真っ白なモフモフ・サモエドに、プールへと頭から突っ込まされた拓也。
上半身はほぼ水に浸かり、私も拓也を引き上げる時に振袖を少し濡らしてしまった。
まあ私はともかく……拓也はすぐに着替えないと風邪を曳いてしまう!
そんな時、私達の目の前に現れたのは……あのクリスマスパーティーで出会った藤堂さんだった。
そんなこんなで藤堂さんの後に着いて歩き、とりあえず神社の事務所らしき場所まで来た。
ふぉぉぉ、巫女さんが沢山居る! なんでこんなに居るの?
「皆バイトなのー。この中では私が一番年上かしら……」
ヤヴァイ。なんか敵兵が勝手に自分で地雷を踏んだって感じだ。
「はぁ……三十代前半で独身のまま……正月で一人家で過ごすのもキツイのよ……」
ちょ、ちょっと! そんなヘヴィな話する前に拓也を着替えさせてあげて!
「ぁ、そうだったわ。というか紗弥さんも振袖濡れてるじゃない。乾かしてあげるから。貴方も着替えなさい」
いや、私は別に……大丈夫でござるよ。
「そんなわけには行かないわ。飛燕家の長女様なんだから! 私が怒られてしまうわ、社長に!」
え、えぇ?! 社長って……飛燕家ってそこまで入り込んでるのか!
ほぼ無理やり、座敷っぽい部屋に連れてこられ振袖を脱がされる私。どうでもいいけど拓也が……目の前に居るんですが。まあいいか……私は結構拓也には見せてるし……
「よ、良くないです! っていうか何で僕までこの部屋に連れてこられてるんですか!」
「あら、あなた男子だったの? 可愛い顔してるからてっきり……」
いや、さっきから私、ワリと「拓也、拓也」って連呼してるぞ。「」使ってないけど。
「それなら文句は作者に言って欲しいわ。じゃあ拓也君、はい、ジャージ」
「ど、どうも……」
え、そんだけ?! 拓也寒くない?
「そうねえ……はっぴならあるけど……」
いや、ハッピって薄すぎるだろ。それ一枚着た所で……
そのまま「じゃあ一応……」とはっぴも受け取る拓也。
私は私で下着姿に剥かれ、目の前に巫女さんの服が広げらる……ってー!
「ちょっと待たれよ! 藤堂さん! それバイトさんとか神社の関係者が着る物では?!」
「これしかないのよ。大丈夫、紗弥さん胸無いし、似合うでしょ」
なんか凄い胸に突き刺さった。胸だけに。
「というか、パーティーの時と随分雰囲気違うわね。やっぱりあの時は猫被ってたのね」
「ま、まあ……」
しまった……勢いでいつもの私のままだった。
というか、そんなホイホイ人格変えれんわ。チャラ男じゃあるまいし……。
「まあ心配しないで。私も今は素だから。ほらほら、飛燕家の方に恥かかせると私マジでヤバイんだから。着替えた着替えた」
「うぅ……はい……」
渋々巫女さんの服を着る私。
こんな簡単に神聖な服を着ていいのだろうか……。なんか怒られそう……。
「じゃあちょっと臨時巫女として見回りしてくれる? さっきから迷子が続出してるのよ。今日は妙に犬も多いし……」
あぁ、それなら早く……あの「わんこ心あります」とかいう出店撤去させた方が……。
まあ、あんな怪しい店行くの私達くらいだろうけど……。
「はい、完成。じゃあ、あの男の子と一緒に見回りしててくれる? 関係者には話通しておくから。何かあったら電話してね。これ私の番号ね」
「は、はい……了解ッス」
※
さて、いきなり予想外な展開になった。
まさか巫女さんとして働く日が来るとは……。
「昌さん……似合ってますよ」
「お、おおぅ、ありがとう」
……?
拓也……てっきり『昌さんだけずるぅい! そんな可愛い恰好して!』とか言うと思ったのに。
なんか予想通りのリアクション来ないな。
「じゃあ見回り行きますか。姉さん達にも事情を説明しないと……」
「あぁ、そうだな。というか時間とか聞いてないけど……いつまで見回れば……」
と、その時早速私達の元に一人の女性が現れた!
見るからに焦っている。もしかして……
「あの、すみません……! 娘が迷子に……」
あぁ、やっぱり!
ど、どうしよう、いきなり来た!
「えっと……服装とかは……」
「白いセータにスカートで、身長はこのくらいで……」
と、自分の腰辺りを示す母親。
ふむぅ、白いセーターにスカートね。髪型は?
「後ろで三つ編みに……あの、迷子センターとかに行ってないでしょうか……」
むむ、迷子センター?
そうだよな、当然あるよな。ちょっと早速だけど藤堂さんに確認してみるか。
先程渡されたメモに書かれた電話番号へとコールする私。
藤堂さんは速攻で電話を取ってくれる。むむ、対応早い人好きよ。
「あの、迷子センターに今子供って居ますか?」
『勿論居るよ、どんな子?』
むむ、まるでこちらの状況を把握しているかのような返答が帰ってきた。
出来る女は好きよ!
「えっと……白いセーターにスカートで、後ろで三つ編みにしてる女の子です」
『……女の子は預かってないね。親御さんに、担当者に探させるって伝えてくれる?』
了解ッス、と電話を仕舞い、言われた通り母親へと伝える私。
「そ、そうですか……申し訳ありません、お手数おかけします……」
「いえ、私達も急いで探すので……」
よし、拓也よ、早速だが捜索開始するぞ!
「分かりました。手分けした方がいいですよね。僕アッチに……」
「いや、拓也……ちょっと待て。あの占い師に言われた事を思いだすんだ」
そう、拓也はあの怪しい蓑虫にこう言われたのだ。
『その美少女から離れてはならぬ』と。
「そういえばそうでしたね……でもそんな事言ってたら……」
「まあ聞け。私も、わんこに気を付けろと言われたんだ。そして今日は犬が多い。もしかしたら、女の子と犬はセットで居るかもしれん」
犬だ、犬を連れている人が、もしかしたら保護してくれているかもしれぬ!
だから探せ! 犬を!
「わ、わかりました」
そんなこんなで迷子の女の子を捜索開始。
白いセーターに三つ編みの女の子か……これだけ人居ると探すのも一苦労だな……
「あれ、昌?」
むむ、誰じゃ? と振り返ると、そこに居たのは……兄貴!
なんだ、意外と速かったな。車停めれたのか。
「なんとか……それより困った事が……」
「……? どうしたの……」
と、よくよく兄貴を観察すると違和感に気が付く。
え、なんで犬抱っこしつつ女の子と手繋いでんの。
か、隠し子?!
「なんでお前までその反応なんだよ! 迷子なの! 犬もなんかセットで来て……」
ふむぅ、成程……と、兄貴と手を繋いでいる女の子を見る。
むむ? 白いセーターに……三つ編みの女児。
こ、この子だ……絶対この子だ! 間違いない!
「兄ちゃん! ナイスだ! 保護しててくれたんだな!」
「んぉ? う、うん。というか、なんで昌……巫女さんなの?」
それは……かくかくしかじか。
ホニャラララン、ホニャランポメラニアン……というわけじゃ。
「成程。そういう事か……じゃあついでにこの子犬もお願いしていい?」
言いながら柴犬の子犬を差し出してくる兄貴。
ふむ、可愛い子犬でござるな。引き受けたでござる。
と、兄貴が子犬を手放した瞬間……
「ワン!」
……ん?! 兄貴の背後からラブラドールが凄い勢いで走ってくる!
なんだ、この凄い見覚えのあるシチュエーションは!
「ちょ、兄ちゃん、まさか……!」
よく見ると女の子が、これまた凄い見覚えのあるヌイグルミを抱っこしてる!
しかも凄い大事そうに! やばい……女の子から奪い取るのは……ちょっと気が引ける。
いや、待てよ……
「兄ちゃん! この子抱っこして!」
再び兄貴へと柴犬の子犬を抱っこさせる!
するとラブラドールはピタっと止まり、トコトコと飼い主の方へと帰っていく。
「兄ちゃん……まさかあの出店に行ったの?! わんこ心とかいう……」
「あ、あぁ。もしかして昌達も……」
不味い。あんなのに釣られてワナにかかる間抜けが私達以外に居たとは。
しかしどうしよう……女の子からヌイグルミ奪えないし……奪ったら泣きそうだし……。
だからと言って、兄貴にいつまでも柴犬を抱っこさせるわけにも……。
「昌さん! 僕に妙案が!」
その時、拓也が持っているヌイグルミを兄貴へと渡し、代わりに拓也が柴犬を受け取った!
いや、状況あんまり変わってないんだけども。ど、どうすんの?
「僕があの出店にもう一回行って……ぬいぐるみを貰ってきます。昌さんは、その女の子をお母さんの所に連れて行ってあげてください」
いや、しかし……君は私から離れるなとも言われているんだぞ!
「大丈夫です……僕に何かあったら……姉さんには、こう伝えてください……拓也は最後まで……諦めなかったって……」
何分かりやすいフラグ立ててんだ!
「ここは僕に任せて行ってください!」
待て! それ以上フラグ立てんな!
「この任務が終わったら……僕、たこ焼き買うんだ……」
止めろ! たこ焼きなら今からでも買ってやるから!
「というわけで行ってきます! 僕は変な占い師になんて負けません!」
あぁ、拓也! 拓也ぁ!
そのまま颯爽と子犬を抱っこしたまま、あの怪しい出店へと走る拓也。
なんてこった……拓也が自ら犠牲になるなんて……。
「どうでもいいけど昌……その子早く連れてってあげた方が……」
「ぁ、うん」
※
《その頃……琴音、明正の二人は》
あの女の子をトイレに連れて行った後、大地さんは迷子センターに連れて行くと、再び私達と別れた。
「はぁぁ、大地さんと折角会えたのに……」
思い切り溜息をつきつつ、今は明正と一緒に一通りの少ない隅っこで待機している。
目の前を歩く人々。つい、その足に目が行ってしまう。
私もリハビリを続ければ……普通に歩けるように……
「琴音、大地君とは……何処まで行ってんだ?」
「……はぁ? 何よ、いきなり……」
「いいから……。教えろよ」
なんだ、こいつは。
いきなり大地さんとの関係を暴露しろというのか?
まあ……暴露する程の関係でも無いんだが……。
「別に……まだデートらしいデートも出来てないけど……大地さん、結構奥手だからなぁ……。まあ、私がこんなんだから仕方ない……」
「仕方なくなんて無えよ……俺だったらお前を……何処にでも連れてってやるよ」
……あ?
なんだ、いきなり……。
「何よ、あんた……もしかして私に気でもあるわけ? あのねえ、そういう冗談は……」
「冗談じゃねえ……」
正面に回り込んでくる明正。
そのまま、車椅子の私と目線を合わせ……
「……え?」
顔を寄せ、唇を合わせてくる。
……?
え、ちょっと……今何が……何が起きてる……?
「俺じゃあ……駄目なのかよ……」
「あ、明正……?」
泣きそうな後輩の顔。
今まで明正と過ごした日々が脳内で高速で再生される。
そういえば、コイツ……私が困ってると何故かいつも……
「琴音……好きだ」
ドストレートに告白してくる明正。
いや、ちょっと待て……。
いきなり、そんな事言われても……。
「ずっと……琴音の傍に居たい……」
泣きそうな顔で、訴えるように。
私の、生意気な後輩は想いを伝えてくる。
あぁ、私……卑怯だ。
頭が真っ白で……何も……考えられない……。
「明正、私は……」
と、その時……明正の後ろに、行き交う人々の中に一人の少年が立ち尽くしていた。
私の可愛い弟……拓也だ。
拓也はまるで「何してるの?」と目で訴えてくる。
「……拓也」
「……え?」
私が拓也の名前を口から出した事で、明正も気づいた。
明正に気づかれた拓也は、一目散に走り去ってしまう。
まるで、私の事を裏切り者だと……言わんばかりに……




