(64)
実家にてお雑煮を頂く私。
兄貴だけ丼で食っている。私と母は普通にお椀。
正月と言えばお雑煮……そしておせち料理……そしてそして……
『だーかーらー! 俺はパンダじゃねえ! シロクマだっつってんだろ!』
『いいや! パンダだって黒い所塗ればシロクマだ! お前、パンダって漢字で書くと「おおくまねこ」だぞ! 熊と猫だぞ?! ほら!』
『何がホラだ! 意味分からんわ!』
そう、お笑い番組である。
朝から夜までテレビはバラエティーづくし。
兄貴も私もゲラゲラ笑いながらお雑煮を食い続けているが……
「あんたら、餅喉に詰まらなかすなや」
うふふ、心配し過ぎでござるよ、母上。
私はちゃんとカミカミして餅を……ふぐぅ!!
「ほらみい! 水! 水!」
「だ、大丈夫……」
なんとか飲み込みつつ、今度はおせち料理に手を伸ばす私。
母お手製のおせち料理……むむ、伊達巻を頂こうか。
「この伊達巻も手作りなん?」
「それは買ってきたヤツ。昔は自分で作ってたけど……もうめんどいなぁ」
ふむぅ。
まあ母も歳だ。何から何まで手作りなんて無理か。
むむっ! 黒豆! 黒豆は食べなければ!
自分の年齢分食べるんだっけ……?
「そういえばアンタら、初詣行かんのか?」
初詣……と、兄貴をジっと見る。
すると兄貴は目を逸らしつつ、既に完食したお雑煮のお代わりを求めてきた。
餅五個も食っといて……まだ食う気か。
「今神社行けば……可愛い着物の女の子仰山おるやろうに」
母は兄貴にナンパさせようとしている!
だ、だめだ! 迷惑条例違反ですわよ!
そのまま母は兄貴のお雑煮を作りに。
ちなみに餅はまた五個。どんだけ食う気だ。
「あー……初詣か……」
兄貴は溜息をつきながらエビチリを摘まむ。
行きたいなら誘ってやろうか? 琴音さんを!
「いや、で、でも……迷惑じゃないかな……」
「兄ちゃん……むしろ琴音さん待ってるかもしれないよ。っていうか聞くだけ聞いてみようよ。嫌だったら嫌って言うだろうし」
「そ、そんな……嫌って言われたら俺ショックで寝込んでしまう!」
何言ってんだコイツ。
ああもぅ……メンドクサイ。
というわけでLUNEで簡易メッセージ送ってしまえ。
「あぁ、昌! 待って、待って!」
「もう送っちゃったわ。観念しな」
「おぅふぅぅぅ!」
※
《一方、柊亭》
拓也の作ったお雑煮を食べつつ、バラエティー番組を見ながら爆笑する私。
シロクマとパンダの漫才コンビだ。羽根突きをしつつ、だんだんシロクマがパンダになっていく。
「あはははは、拓也きゅん! シロクマさんがパンダさんに!」
「ね、姉さん、そんなに面白い? なんか凄いシュールなんだけど」
何を言う。シロクマがパンダになっているんだぞっ。
爆笑する私を冷たい目で見てくる拓也。
あぁ、なんだかその目がまた……
「危ない! 姉さん危ないから! その考え!」
「お姉ちゃんの心を読まないでおくれ、拓也きゅん」
その時、家のインターホンが鳴った。
むむ、誰じゃ……って、明正か。
「はーい」
そのまま拓也は玄関へと明正を出迎えに。
ちゃんとデザートは買ってきたのだろうか。
と、ふと携帯を見るといつのまにか簡易メッセージが届いていた。
お、昌ちゃんからだ。
『あけましておめでとうございます|д゜)b 兄貴が初詣行きたい行きたい五月蠅いんですけど、どうですか?』
その瞬間、ガタっと机を揺らす私。
な、なんだと! 大地さんが……初詣に行きたいと?!
いく、絶対いく! 行こう!
「おーす、あけおめー。来たぞー琴音」
「あぁ、明正。来てもらって早速だけど、車出せ」
「お前……一般常識って言葉知ってるか?」
知らん!
初詣に行くぞ!
「ちょ、姉さん……来てもらってそんなすぐに……」
「だ、だって……大地さんが初詣行きたいって言ってるんだもん! 拓也きゅんも行くよね? 昌ちゃんも行くって言ってるし……」
「行きます」
うむ。いい返事だ。拓也きゅん。
「……大地さん?」
明正は机の上にアイスクリームを置きつつ、私の携帯をのぞき込んでくる。
なんて失礼な奴だ! 人のプライバシーを覗き見るな!
「大地さんって誰? 拓也君」
「あぁ、えっと……姉さんの幼馴染っていうか……」
うむ、義龍村からの縁だ。
君は出店でイカ焼きでも食べてなさい。
「扱いヒデェ……まあ元々行くつもりだったから別にいいけど……どこの神社行くんだ?」
「ちょっと待って、相談するから」
昌ちゃんと簡易メッセージでやり取り。
どうやら伊奈波神社になりそうだ。あそこなら色々と出店も出てるし……わたあめあるかな。
「伊奈波神社? お前、すげえ人だぞ。車なんて停めれるかどうか……」
「むぅ……ぁ、大地さんが車出してくれるって。お屠蘇飲んでないんだ」
大地さんの車はワンボックスだ。明正も居るが余裕で乗れる。
「うふふのふ。大地さんと初詣……よし、テンション上がってきたー! 拓也きゅん! お雑煮おかわり!」
「え、まだ食べるの?」
「あ、じゃあ俺もー」
そんなこんなで初詣に行くことを決めた私達。
大地さん達が用意して車で迎えに来てくれるまで……どのくらいだろうか。
昌ちゃん……振袖とか着てきてくれるかな……写真撮りたい……。
※
《真田亭にて》
「琴音さんから快諾を頂いたぞ、兄ちゃん。でも拓也はともかく……琴音さんの後輩? って誰だろ」
「こ、後輩? ど、どうしよう……もし美人だったら……」
おい。
このドスケベ! あんたは琴音さん一筋だろ!
「そうは言われても昌……兄ちゃん、今まで女性とお付き合いした事ないから……ドギマギが激しくて……」
「何を意味の分からん弱音をさらけ出しとるんだ。拓也に振袖着てこいって言ってもいいんだよ?」
「待って! それマジでヤバイ奴だから! 拓也君可愛すぎるから!」
「振袖?」
その時、母が兄のお雑煮を作って持ってきた!
ぁ、母よ。私達初詣行くけど行く?
「お断りや。人多すぎるやろ。私はゆっくり過ごしたいんや。それより昌、あんた振袖着たいならあるよ?」
え? いや、別に着たいわけでは……。
ぶっちゃけメンドイ……
「大地、昌を拘束せい」
「がってん承知の助」
おい、貴様ら!
ちょっと待て! 最近私、着せ替えられるの多くない?!
あぁ、ちょっと!
服を、服を脱がせるなぁ!
※
《三十分後》
まさか母が振袖の着付けが出来るとは知らんかった。
というか、初めて着たけど……似合ってる?
「可愛い可愛い。大地、写真」
「がってん承知の助」
ちなみに髪も下ろして可愛い髪飾りまで付けている。
むむぅ、髪切ろうかな……いい加減長いかもしれない。
「昌、髪下ろした方が可愛いなぁ……うふふのふ。兄ちゃんの自慢の妹よ!」
「兄ちゃん、ちょっと怖い」
いいつつカメラの前でポーズを決める私。
さてさて、では初詣に行ってくるぞ、母よ。
「いってらっしゃい、ぁ、リンゴ飴買ってきて」
「がってん承知の助」
兄貴はGJサインをしつつ、母へといい返事。
どうでもいいけど、がってん承知の助って……流行ってるの?




