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 雪が積もる夜の商店街。

僕は一人、帰路についていた。歩道に積もる雪を踏みしめながら、だんだんと靴の中に冷たい感触が染みてくる。何故に一人で帰っているのかと言えば、昌さんと目を合わせられない……からだ。


気づかれなかったとはいえ、僕は今日……告白してしまったのだから。


気づかれなかったけど……


「はぁ……昌さん……夏目漱石くらい知っておいて欲しい……」


夏目漱石が「I love you」 を「月が綺麗ですね」と訳したのは都市伝説っぽい……とは言われているが、それなりに有名な筈だ。最近ドラマでもあったし……。


しかしものの見事にスルーされ、気落ちせずにはいられない。

僕なりに頑張ったのに……。


いや、でもこんなのは自慰行為だと分かっている。

一人で盛り上がって一人で落ち込んで……何やってるんだ、僕は。


「普通に男として……パーティーに参加したほうが良かったのかな……」


綺麗なドレスを着せてもらって、化粧まで本格的にしてもらって……

恐らく僕の人生の中で完璧な女装だった。

本当は今夜、昌さんに告白するつもりなんて無かったが……。


「昌さんがカッコよすぎるから……」


まさか男装して助けに来てくれるとは思わなかった。

あれは反則すぎる。かなり唐突だったし……。

だからそのままの雰囲気で告白してしまった。


「もうダメだ、死にたい……」


気恥ずかしさと後悔の念で悶えていると、商店街のクリスマスのイルミネーションが目に入る。

歩道の並木に飾られた綺麗なイルミネ。

今更だが、本日はクリスマス。

そしてもう聖夜は終わりなのだ。

もうすぐ……新しい年がやってくる。


「……なんかいい匂いがする……」


イルミネに見惚れていると、商店街の方から香ばしい匂いが漂ってきた。

そういえばパーティーではほとんど何も食べれなかった。


 僕はその匂いに誘われるように商店街のアーケードへと入り、とある店の前に。

なんだろう、たこ焼き屋? いや、いろいろあるな。


「らっしゃいー、兄ちゃん何にする?」


僕が店の前で迷っていると、店のおじさんが話しかけてきた。

何にしようか……いろいろあるな。


「えっと……おすすめで……」


「なんだなんだ、クリスマスだってのに元気ねえな、兄ちゃん」


おじさんは手際よくたこ焼きをワンパック詰め、クリスマス仕様の包装紙でラッピングしてくれる。

あぁ、でもすぐに食べたいからラッピングは勿体ない。

でも今更イランとか言えないし……。


「はい、今日は二百円」


「え? ぁ、はい」


看板には四百円と書いてあるが……どこにも半額などと表記されていない。


「元気だせよ。女なんか星の数程居るんだからよ」


「ど、どうも……」


あぁ、僕失恋したと思われているのか。

いや、ある意味失恋かもしれない。


昌さんは……僕の事なんて眼中に無いのかも……




 ※




 商店街の一角のベンチに座り、たこ焼きを広げる。

ホッカホカの美味しそうなソースの香りが食欲を掻き立ててくる。

ちなみに僕はマヨネーズをたっぷりかける派だ。マヨラー程ではないが。


「……寂しい……」


クリスマスの夜に一人ベンチでたこ焼きを頬張る高校生、それが僕だ。

もしかして両親が墓参りサボったからって何か怨念を飛ばしているのだろうか。


「あふっ……」


たこ焼きを一つ、一口で頬張る。

かなり熱い。でも美味しい。中のたこ焼きがプリプリで……


「ん? おりょ、拓也君じゃないか。何しとるじゃ?」


「……ん?」


たこ焼きを食べる僕に話しかけてくる誰か。


この声……それにこの、じじい言葉は……


「七種さん……?」


「おうおう、一人でこんなところでたこ焼き食べおって。仕方ないから儂も付き合ってやろう」


いいながら僕の隣に座ってる女性。七種 知美(さえぐさ ともみ)

僕と同じ高校、同じクラスの女子だ。老人のような言葉をしゃべり、何を隠そう僕の女装癖のきっかけを作った人物でもある。


【注意:(34)話に出てきた子です!】


僕はそっと七種さんへとたこ焼きをお裾分けしようと、パックごと手渡そうとするが……


「あーん」


「……ァ、ハイ……」


なんか七種さん口開けて待ってるし!

あーんしろと言うのか! いや、まあするけど……


「はい……あーん」


「ん……あふっ! あふぃ……はふはっふ……」


とても美味しそうに食べる七種さん。

ところで君は何してるの?


「儂か? 儂はあれじゃ……子供達がもうすぐここを通るんでな。見に来たんじゃ」


「子供……ぁ……」


それってもしかして、さっきまで僕が居た飛燕家のパーティーの聖歌隊だろうか。

そういえば商店街を練り歩くみたいな事を……


「七種さん……子供好きなんだね」


「んー? まあ弟分とか妹分とか居るからの」


弟分……妹分?

まて、確かあのパーティーって金持ちばかりじゃ……

も、もしかして七種さんって……お嬢様?!


「拓也君、あーん」


「ぁ、はい」


そっと七種さんの口へと再びたこ焼きを放り込む。

たこ焼きが冷めてきたのか、はたまた七種さんが慣れたのか……今度は普通にモグモグと噛みしめている。


「ところで拓也君は何しとるんじゃ? 拓也くん家ってこの辺りじゃないじゃろ?」


「あ、うん……まあ……」


どうしよう……金持ちのパーティーに参加してたとか言っていいんだろうか。

いや、でも……なんで七種さんは飛燕家のパーティーに居なかったんだろう。弟分、妹分が聖歌隊に居るのなら、当然参加してそうなもんだが……。


「七種さんって……お嬢様?」


「はぁ? 何を言い出すんじゃ。儂がお嬢様に見えるけ?」


いや、まあ……見た目は凄いお嬢様だ。

お人形さんみたいに可愛いし……。

でも金持ちの娘じゃないのか……じゃあ聖歌隊に弟分、妹分が居るっていうのは……。


「お、あれじゃないけ?」


「え?」


その時、アーケードの入り口から可愛らしい恰好をした子供達が、歌いながらゆっくりと歩いてくるのが分かった。周りにはゴツい……護衛みたいな人達が。な、なんかシュールだ。


「うほぉー! 可愛い! よし! 写真撮りまくるのじゃ!」


言いながらデジカメを構え、子供達の方へと駆け寄る七種さん。

まるで運動会で興奮する親御さんのようだ。護衛のゴツいおじさん達も、いきなり現れた女子高生に警戒している。


「いいよーいいよーっ、皆ーっ、こっちむいてー!」


かなり七種さんはハイテンションだ。

子供達は商店街の中をゆっくりと歌いながら歩いてくる。


この歌は……「あめのみつかいの」だろうか。

確か地元の子供会で僕も歌ったっけ……。


「こーらー、気持ちは分るけどあんまりハシャがないの」


ん? この声は……春日さん?

七種さんを注意しているのか? なんか親し気だな。


「で、でも春日教師! 儂は嬉しいんじゃぁ……もっと撮らせておくれ!」


「それならパーティーに来ればよかったじゃないの……」


春日さんに注意されつつも、七種さんは子供達を撮りまくる。

なんかホントに保護者って感じだな……。

 そのまま僕の目の前を子供達は通り過ぎていく。

ソプラノの可愛い歌声が体中に浸透するように……思わず聞き入ってしまう。


あぁ、凄い……よっぽど練習したんだろうな……


子供達がアーケードを抜けると、しばらくして七種さんも戻ってきた。

やりきった顔で、額の汗を拭っている。


「フフゥ、儂は満足じゃ。 ……? 拓也君、ホントにどうしたんじゃ。なんか元気ないの」


「え? ぁ、いや……」


僕そんなに元気ないように見えるんだろうか。

たこ焼き屋のおじさんにも見破られてたし……。


「いや、別に……」


「なんじゃなんじゃ、気になるじゃろ。儂で良かったら相談に乗るぞ?」


再び隣へと座ってくる七種さん。

どうしよう……言ってしまおうか。口に出してしまえば……楽になるかもしれない。


「ま、まあ……実は、フラれちゃって……っていうか、告白したことすら気づかれなかったんだけど……」


「はぁ? なんじゃそりゃ」


呆れた顔の七種さん。

うぅ、やっぱりこういう反応か。

まあいいさ……残りのたこ焼きやけ食いしてくれる!


「お互い……鈍感な相手には苦労するの」


「ぁ、うん……って、えぇ?! 七種さんも……その……好きな人とか居るの?」


「なんじゃ、儂に好きな男子居たらおかしいかえ?」


いや、そういうわけでは……。

でも何というか……七種さんの好きな人って誰だろうと気になってしまう。

何気に僕の女装癖を知っている数少ない人だし……。


「まあ、儂なら落ちるまで攻めるぞ。どんな手を使ってでも……どれだけ時間がかかっても……」


まっすぐにこちらを見て答える七種さん。

おぉ、なんかカッコイイ。

僕も……負けていられない。


「うん……まあ……もうちょっと頑張ってみようかな……」


「うんむ。じゃあ儂は帰る。拓也君も気をつけてな」


ぁ、送っていこうか……と言う前に、七種さんはアーケードの外へ突っ走っていってしまった。

あ、足早いな……。


「僕も……帰るか……」


と、その時電話が。

むむ、誰……て、昌さん……


ど、どうしよう……なんか出にくい……でもここで出なかったら明日から本格的に顔を合わせずらい……。


渋々、電話に出る僕……


「もしもし……」


『拓也? 今どこ?』


う、どうしよう。

嘘ついてしまおうか。


「え、えっと……実はもう帰ってて……」


『はぁ? ホントに? 嘘付いてたら爪楊枝食わせるぞ』


こわっ!

昌さんこわっ!


爪楊枝って……あぁ、ちょうどここにたこ焼きを食べた爪楊枝あるし……


「え、えっと昌さん……」


『いいから、今どこ?』


どうしよう……今七種さんに言われたばかりじゃないか。

落ちるまで攻めるって……昌さんが……僕の事を振り向いてくれるまで……


でも……


一瞬、姉さんの顔が頭に思い浮かぶ。

あぁ、これは言い訳だ。

僕は姉さんを良い言い訳にしようとしている。


「昌さん……実は今……目の前を聖歌隊の子供達が通っていきました……」


『ん? 商店街? おっけー』


そのまま電話は切れる。


って、あれ? 商店街と言っても広いのだが……詳細を聞かれる前に切られてしまった。

なんだろう、元々一人で帰るつもりだったのに……なんか途端に心細く……


「拓也、見つけた」


と、その時いきなり後ろから僕に抱き着いてくる誰か……いや、確実に昌さんだ。


「あ、昌さん?! い、いつのまに……」


「んー? 拓也が可愛い女子高生にたこ焼きを食べさせてる辺りから」


なんだって?!

や、ヤヴァイ! み、見られた……


「あ、あの、昌さん……」


「ほら、帰るぞ。明日は執事喫茶でクリスマスキャンペーンやるんだから。また忙しくなるぞ」


あぁ、そうだった。

央昌さんが気を利かせて日付をずらしてくれたんだ。

まあ、クリスマス本番に執事喫茶にくるお嬢様はあまり居ないだろうけど……。


そっと、当たり前のように手を繋いでくる昌さん。


僕は昌さんにとって何なんだろう。

もしかして女友達……とか?


それはそれで嬉しいのだが、釈然としない。

今の今まで女装しておいて……今更男として見て欲しいなんて……


「あ、昌さん……」


「ん? どうしたー?」


昌さんの手は温かい。

ずっと繋いでいたい。

このまま……少女マンガみたいだけど、このまま時が止まってしまえば……


「ぼ、僕……その……」


「大丈夫、私は分ってるから」


え?

な、なにを?


ま、まさか……昌さん……僕の気持ち分かって……


「トイレ……行きたいんでしょ? ほら、待っててやるから」


いつのまにか僕は商店街の公衆トイレの前に連れられていた。



って、違う! 


昌さんのバカぁー!


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