(59)
前回のあらすじ!
と言うわけで、私は拓也を上月家の坊ちゃんから奪い返す為に更衣室へと走る。
「うぅ、真澄さん御免なさい……!」
神メイクを施してくれた飛燕家のメイドさんに全力で謝りつつ、メイクを落としドレスを脱ぎ捨て……って、これどうやって脱ぐんだ?!
背中か! 背中のチャックを下ろせば……って、届かぬ! 不味い、早くしないと……。
「何をしてるんですか?」
その時、後方からかかる声。
ビクっと背筋を震わせながら振り返ると、そこには私を大変身させてくれたメイドさん、真澄さんが。
「……メイク落としてドレスを脱ごうと? なんでそんな事……私のメイクが気に入りませんでしたか?」
「い、いや……その、違くて……」
不味い……真澄さんがしょんぼりしている!
ええい! 全て話すしかない!
私は真澄さんへと拓也がピンチなんだ! と説明。
そして私には密かに男装癖があり、ぶっちゃけ男に生まれたかったという事も……。
「……成程。でも……それだったら、貴方が変わりに上月家のご当主とダンスすれば……」
「……ぁ」
しまった、その手があったか!
ぎゃぁぁあー! 失念してた! そうだ、それなら真澄さんの神メイクを落とさなくても良かったのに!
「フフ、でも分かりました。なんだか楽しそうですね。男装メイクは経験ありませんが、知り合いがその手のバーで働いているので見たことはあります。任せてください」
「え、いや、あの……そんな本格的じゃなく、雰囲気的に……微妙に顔が深く見える程度で……」
「了解です。拓也君をあの若造から救いだしましょう。というか……もう昌さんは飛燕家のご長女なんですから……なんでも私に命令してくれればいいんですよ?」
いや、なんか凄い裏を感じる……。
っていうか話早いな。もう真澄さんまでに話伝わってるのか。
「では服は……タキシードでよろしいですか? 髪は切るわけには……いきませんよね」
「ぁ、えっと……適当に後ろで結うだけで……」
真澄さんは「ふむ……」と少し考えると、メイク道具を持って私を椅子に座らせる。
「ではイメージ的には……王子でありながら、庶民の酒場に頻繁に出入りする俺様系男子で行きましょう。しかしタキシードは着崩すと痛いだけなので、ビシっと決めつつ……堂々と振舞ってください」
王子って……なんかいきなりファンタジーな設定だな。
まあよかろう! その手のライトノベルは読破してきた! 大抵ラストで死ぬキャラ設定だな!
「そうです、そして最後に……姫の膝枕の上で……こう呟くのです」
あぁ、だんだんイメージが湧いてきた!
『幸せに……なれよ』
パタン……と落ちる手。
泣き叫ぶ姫……その後、姫は政治の才能を発揮し国を大きく……
「そんな感じのイメージです。ではチャッチャと済ませますか」
あぁ! もっと妄想したいのに!
でも真澄さんとは趣味があいそうだ。今度一緒にお茶でも……
そんなこんなでメイクが出来上がっていく。
ヤヴァイ、男装メイクは私の方が先輩なのに……私がするよりイケメンに見える!
これなら誰でも私の事をイケメン俺様王子と思うはずだ!
それから胸をサラシで潰しつつ、タキシードに身を包む。
元々身長が高い私は問題なく着こなせる。姿見で自分の恰好を確認すると、そこにはどこぞの王国の王子が……!
「では……問題は声ですが……」
「あぁ、それなら大丈夫……」
私は密かにトレーニングしてきた男声で返答。
その瞬間、真澄さんの顔が乙女に!
「な、なんてこと……も、萌えですね!」
「誰に向かって口利いてるんだ。メイドの分際で俺様に萌えだと? お仕置きが必要だな……」
調子こいて真澄さんに言い放つ私。
しかし真澄さんはウットリと私の顔を見つめている。
こ、これは……行ける! この顔とタキシードがあれば、私は無敵になれる!
「す、素晴らしい出来です。ぁ、ちょっと写メいいですか」
「構わんぞ」
真澄さんの肩を抱いて一緒にシャメを撮影。
なんか楽しくなってきた!
「では健闘を祈ります。その手で拓也お嬢様をお守りするのです」
「おう、行ってくる」
ビシっと決めつつパーティー会場へと戻る私……
『はーい、ではこれでビンゴ大会終了ー! みんな、プレゼントは行きわたったかなー?』
その時、里桜のアナウンスが!
やばい、もう時間がない! 拓也……拓也は何処だ!
※
そんなこんなで現在。
私は今、拓也を抱き寄せ上月家のお坊ちゃんと対峙していた。
「真田……? 知らんな。お前、飛燕家とはどういう関係だ」
上月家のお坊ちゃんは私へと抗議の目線を突き刺しながら問いただしてくる。
飛燕家との関係? フフ、そんなの……
(ヤヴァイ、いきなりピンチだ……な、なんて答えよう……飛燕家と男装した私の関係って……なんだ?! 里桜と同じ大学ですーって言っとくか? いや、ダメだ! 何か、何か武器は無いのか!)
考えむ私に首を傾げてくる上月家のお坊ちゃん。
「どうした。まさかとは思うが……お前、ただのチンピラか?」
ギャー! そ、そうだ。男装した私には何の設定も無い!
俺様系男子も何の設定が無ければ、ただの痛い男だ!
「……フン、まあいい。家柄なんぞ関係ない。それより、彼女が貴様の所有物とはどういう事だ。彼女と貴様はどういう関係だ」
お、おおぅ、家柄を盾にせんとは中々イケメンじゃないか。
見直したぞ! だからって貴子ちゃんは渡さぬが!
さて、私と貴子ちゃんの関係か。
そんなもの、一目瞭然だろう!
「貴子は俺の奴隷だ。誰にも渡す気はない、さっさと失せろ、お坊ちゃま」
ってー! ぎゃぁぁあ!
なんか調子こいて凄い事言っちゃったぞ!
貴子ちゃんは奴隷なんかじゃない! 私の可愛い、志を同じくする同士……そう、親友だ!
「奴隷? 貴様……」
うっ、凄い睨んでる、睨まれてる!
そりゃそうだよな。今のご時世……可愛い女の子を奴隷呼ばわりしようもんなら通報されてもおかしくない。ましてや上月家のお坊ちゃまは拓也を大層気に入ってるみたいだし……。
「いいだろう、お前、俺と勝負しろ」
……ん?
勝負? え、何の?
「簡単なルールだ。逢沢!」
上月家のお坊ちゃまは、強面の側近、逢沢さんの名前を叫ぶ。
すると何処からか突然現れる逢沢さん! うぅ、この人が敵に回るのは流石に想定してたけど……ど、どうしよう。この強面に睨みつけられると流石に腰が引ける……。
「なんですかい、坊ちゃん……って、ん?」
逢沢さんはサングラスを下にずらすと、マジマジと私の顔を見てくる。
そして一瞬困惑するも、拓也と私を交互に見て……
「あー……ハイハイ。成程……ック……プククク……」
ってー! 何笑ってるん! もしかしてもうバレた?!
この人めっちゃ楽しんでるわ!
「逢沢、例の勝負をこの男とする。準備をしろ」
「ぁー……この”男”と? 坊ちゃん、流石にそれは大人気ないですわ。少し落ち着いてくださいな」
ん? 例の勝負って何よ。
話が見えん、私に何をさせる気だ。
「おいお前、服を脱げ。どちらが腹筋割れてるか勝負だ!」
「……ぁ?」
思わずマヌケな声を……
ってー! おい! ふざけんな坊ちゃん! なんだその勝負は!
腹筋なんぞ……一ミリも割れてないわ!
「どうした、早くしろ。服を脱げ!」
坊ちゃんは早くも白スーツを脱ぎにかかっている!
っていうか、今ここはクリスマスパーティー中よ! 何勝手にストリップしてんだ!
「ぁー……坊ちゃん、落ち着いてください言うとるやん。こんなモヤシと腹筋争った所で勝負になりませんし、お嬢さんもドン引きしてますやん」
確かに拓也はドン引きしている。
何かに怯えるように……いや、確実に坊ちゃんに怯えてるんだろうけど、私の胴に必死に抱き着いてくる。
「そうか……なら何で勝負すればいいんだ! 逢沢!」
ボキャブラリー少なすぎるだろ!
腹筋勝負しか出来ないのかチミは!
「そうですなぁ……」
チラっと私の顔を確認しつつ、逢沢さんは良い事を思いついたと手を叩いた。
「なら、こういうのどうです? 今からちょうどダンス始まりますし……っていうか、私らのせいで中断させてしまってますし……お詫びの意味も込めて、余興を提供してみては」
「ふむ、つまり……ダンス対決か」
何ぃ! ダンスなんて……高校の時にフォークダンスしたくらいしか経験がない!
しかもあの時は……私は背高いから男子の列に回されて女の子と踊ってたし……。
「それでいいですかい? 兄さん」
私にも同意を求めてくる逢沢さん。
そっと私は頷きつつ、拓也へと小声で話しかける。
「ど、どうしよう、拓也きゅん……」
「僕に言われても……っていうか昌さん、いつもよりカッコイイです……」
美少女モードの拓也にカッコイイと言われてテンション上がる私。
なんだか……やる気が出てきたぞ!
ダンスなんて一ミリも知らんが。
「では……まずは坊ちゃんからお手本……もとい、言い出しっぺですから。踊ってもらいましょか。審査は会場の皆さまの拍手という事で」
「いいだろう。じゃあ相手は……」
むむっ、坊ちゃんはダンスの相手に拓也をご指名したがっている!
しかしそうは行かぬ。拓也にダンスさせればウィッグ吹き飛んでしまうかもしれんし。
「そのお嬢様はアカンでしょ。妹君でよろしいのでは?」
妹? それって……上月あやめっていう……ビンゴ大会一位に輝いた……
「そうだな……あやめ! 来い!」
その時、超人気ゲーム機を早くも開封し、コントローラーを弄り回す美少女が現れた!
金髪に真っ白なフリルドレス……なんだ、この子、天使か?!
「……何? にいやん」
「お兄様と呼びなさい。話は聞いていたな。さあ、踊るぞ」
いや、あやめちゃん……たぶん一瞬たりとも話聞いてなかったと思うんだけど……。
もう今すぐ家に帰って、早くゲームしたいって顔だ! ウフフ、可愛いなぁ……。
「にいやん、私は今とても早く家に帰りたいので、踊るのは構いませんが内心超めんどいです」
「よし、ではいくぞ、あやめ」
なんだこの兄妹。
兄の方は人の話全く聞いてないし、妹の方はコントローラーで連打の練習をしている!
「あやめさん、すまへんなぁ。お兄さんに少し付き合ってくれんかなぁ」
「…………」
あやめちゃんは逢沢さんに言われると、そっとコントローラーを手放し……兄と手を繋いで共に会場の中央へ。なんか凄い注目集めてるな。こんな中で踊るだと……む、無理だ!
その時、逢沢さんが私の肩をトントン、と叩いてくる。
むむ、なんじゃ?
「昌さん……私に秘策があります。強力な助っ人呼んできますから、待っててください」
そのまま逢沢さんは何処かに……強力な助っ人って誰だ。
ダンスが超上手い人が居るのか?
何はともあれ上月兄妹のダンスが始まる。
ステージ上の音楽を担当する方々も、何処か愉快そうに演奏を始めた。
しかし……身長差凄いあるな。
兄の方は私より少し低いくらい……更に妹は兄の胸より少し下くらいまでしか身長ない。
あそこまで差があってダンスが出来るんだろうか。フォークダンスならまだしも……
目の前でゆっくりとした動きでダンスを始める二人。
音楽に合わせ、ステップを踏み……兄は妹の体を支えるように……
って、すごい綺麗だ。
まるで白鳥同士が戯れているかのような……
会場の方々も二人のダンスを見て、どこか夢見心地……
そう、夢でも見ているかのようだ。
まるで……この一瞬で会場がファンタジーの世界に飲まれてしまったかのような気さえする。
この調子でいくと、会場内に魔物が現れて……ここぞと主人公がお姫様を助けて……
「お待たせしました、昌さん」
その時、逢沢さんが戻ってきた。
ん? もしかして……その後ろの人が助っ人ですか。
「なんか面白い事になってるねー? まあ私にドーンっと任せなさいー」
現れた助っ人……それは、飛燕家の家庭教師を務める春日さん。
「ウフフ、でも昌ちゃんカッコイイ。よーし、頑張るぞー?」
……えっ
春日さん踊れるの?




