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 クリスマスパーティー、と聞いて皆様は何を想像するだろうか。

私は第一にケンタッ○ーフライドチキン。これさえあればクリスマスパーティーと名乗っても問題は無い。

あとは適当に部屋を飾りつけ、子供達に贈るプレゼントさえあれば、それは立派なクリスマスパーティーだ。


 そう、そんなものを私は想像していた。

いくら里桜の家が金持ちとは言え、その拡張版程度だと考えていたのだが……。


「……なんだコレ……」


まだ貸し切り状態のパーティー会場を見て絶句する私。

結婚式の披露宴会場のように、無数のテーブルの上にはグラスが綺麗に並べられ、中央の長ーい机の上には既に料理が用意されている。

ちなみにどのくらい長いのかと言うと、三両編成の列車並みだ。三両編成の列車が何メートルなのか知らんけども。


 そして会場全体はクリスマス風に飾り付けられており、巨大なツリーまでも運び込まれていた。

更にそして、そのツリーの根本には大量のラッピングされた箱が……あれって子供達にあげるプレゼントか何かだろうか。


というか、この会場なんなんだ。里桜の家は市民会館か何かか?


「んなわけないでしょ。ここは普段、社員がレクリエーションに使っている所よ」


社員って何?! ここお前の家の個人宅じゃないの?!


「ほら、家政婦さんとかいるでしょ。それにタクシーみたいな商売もしてるし。完全会員制だけど」


マジか。

改めて堺家って金持ちなんだな……。


「ぁ、堺っていうのは母方の名字だから。本来は飛燕ね。飛燕家。間違えるんじゃないわよ」


そういえばそういう設定だったな。

むむ、というか天井が高いな。なんか一部ガラス張り? になってる。


「あぁ、あそこから星空も見れるのよ。心配しなくても強化ガラスよ。その辺の壁より頑丈だから。割れたりしないわ」


すげえ……前から知ってたけど、里桜の家って本当に凄いな。

一人でこの屋敷に放り出されたら確実に迷子になる。


「大丈夫よ。携帯で私に連絡すれば迎えにいくから。さてさて……晶。約束どおり、あんたには今日……お嬢様をしてもらうわ!」


「ぁ、その事で相談なんだが……拓也を私の身代わり……いや、代わりにしてみてはどうか」


「今サラっと身代わりって言ったわね。いいわ、話してごらんなさい」


私はゴニョゴニョと里桜へと説明。

以前、里桜には拓也はドレスなど恥ずかしくて着れない! と説明したが……


【注意:(41)話です】


「実は、あれは真っ赤な噓だ。拓也はドレスを着たいって言ってたから……是非、拓也きゅんを可愛いお嬢様風にして頂きたい!」


「あらそう。ならそうするわ。とりあえずアンタは強制ドレスだけどね。真澄さん! お願い!」


ガシっと背後から羽交い絞めにされる私。


ってー! 真澄さん?! ちょ、力強え! 逃げられん!


「拓也君はお望み通りドレス姿にしてあげるから……あんたもドレスよ。しかも親父殿の強い要望で……私達、飛燕家の三姉妹の一人にする事となったわ」


「三姉妹って……顔でバレバレだろ! 全く似て無いんだから!」


ジタバタしながら真澄さんに個室へと連れ込まれ、丸椅子へと座らされる。

な、なんだ、周りを鏡で囲みだしたぞ! 一体何が始まるんだ! もしかして異世界召喚……


「違う違う。お着換えの時間よ。真澄さん、コイツ……もう思いっきりやっちゃって。三姉妹の長女って事にするから」


「は……? はぁぁあぁ?! なんで私が長女よ! 涼ちゃんの妹がいい!」


「無茶言うなや。アンタの身長、178cmもあるのよ。その辺の男より高いんだから……そうねぇ……真澄さん、私のメイクもフルに使っていいから。晶をビフォーアフターみたいにしちゃって」


ビフォーアフターって……一昔前に流行ったテレビ番組の事だな……。

いや、でも! 皆にからかわれて笑われるに決まってる……!


第一話読め! オシャレした小学生の私がどうなったか思いだせ!


「いや、どうもなってないじゃない。大丈夫よ、真澄さんのテクを信じなさい。笑う所か……晶、引っ張りだこにされるかも……じゃあお願い、真澄さん」


「はい、お任せください、里桜お嬢様」


そのまま里桜は出ていってしまう。

うぅ……どうなってしまうんや……一体私は……どうなってしまうんや!


「はいはい、大人しくしましょうね。以前、メイドに成りすまして私を騙してた事、忘れてませんよ?」


ひ、ひぃ!

なんか黒いオーラが……いや、でも……あの時真澄さん、逆に謝ってくれたじゃない!


「あれは里桜様の手前、致し方なく……ですよ。本当は手が震えて止まらない程に恨んでます」


「ひ、ひぃぃぃ! ごめんなさい! 許してください!」


「勿論冗談です。里桜お嬢様も……友人として貴方の事を心配してるだけですよ」


し、心配? 何を?


「生まれ持った素質だけで綺麗な女性などそうそう居ません。でも貴方はノーメイクでそれでしょう? 正直嫉妬してしまいます。なのに貴方ときたら……無防備にも程がありますよ」


む、無防備?! いや、そんな事ないでござる!

私は結構、こう見えても色々と防犯設備には拘る方で……


「そういう意味ではありません。女性のお化粧は身を守る為の物でもあるんですよ」


え、ど、どういう意味……って、ふぉあ!

真澄さんが私の顔を……マッサージしてる!


あぁ、そんな……眉毛の所を親指でクリクリしないで! なんか気持ちい……


ふぁ! こめかみまで……ヤバイ、真澄さんの指が……気持ち……いぃ……


「ふふ……眠ってしまわれましたね……さてさて、時間もありませんし……超特急で変身させてしまいますか」



 ※



『晶、ほら……お母さんが服買ってあげるから……』


『いい……お金勿体ないもん』


『そんな事ないわよ。お母さん、結構お金持ちなのよ?』


『……お母さん……昨日何も食べて無かった……』


『…………晶、そんな事ないから。ほら、もっと女の子らしく……』


『いい。私、お兄ちゃんの服がいいから』



悲しそうな母の顔を今でも覚えている。

幼い頃から私は男に生まれたかったとか考えてて、兄の服ばかり着ていた。

唯一買ってもらった衣服と言えば、スカートにブラウス、それに下着類。


 家にはお金が無い、ただでさえ学校の備品などで家計は圧迫されている。

私はそう母に言い訳して、兄の服を着続けた。


本心では男になりたかったからだ。

でも母は……本当に私が家系を心配して遠慮していると思っていたのだろう。


だからあんな……悲しそうな顔をしたんだ。


あぁ、悪い事したな……。


素直に言ってやれば良かった。男の子の格好がしたいって……。


スニーカーに短パン、それにTシャツに野球帽。


それさえあれば、私は”少年”になれると思っていた。


それさえあれば……兄の服さえあれば……



「晶、晶……!」


……ほえ?


「ほえ? じゃなくて……目覚ましな。もうパーティー始まるわよ」


目の前にはドレス姿の里桜たんに涼ちゃん。

うお、二人ともかわゆい! 涼ちゃんは薄いピンクのフリルたっぷりのドレス……里桜は少し大人っぽい赤いドレス。ん? なんか……鏡に知らない人が写ってる。誰だ、この黒いドレスを着た女は……。


「ほら、私達三姉妹はステージで挨拶するんだから。立った立った」


え、えぇ?! ステージで挨拶?!

いや、そんなの無理でござるよ……。


里桜に手を引かれ立ち上がると、鏡に映った知らない女も立ち上がる。

って、ん? これ……鏡だよな。なんか……私と同じ動きしてない?


「何初めて鏡見たコネコみたいになってんのよ。それアンタよ」


「……は? え? えぇ?!」


鏡の中に移っている女性。

何やら髪の毛の色が違う。っていうか……これエクステ? 

なんかベージュ系の茶髪でミディアムにされてる……。


それに……私こんな目デカかったっけ?

なんか顔も小さく見えるっていうか……


「はぁ……アンタ、今まで化粧サボってたからそうなるのよ。堂々としてなさい。ちょっと内気な姉って設定にしておいてあげるから」


な、なんじゃと。

ホントに私……里桜と涼ちゃんの姉設定で行くのか?!


いや、っていうか、飛燕家の娘が何人いるとか……周知の事実なのでは?!


「ところがどっこい。うちにはこんな可愛い義理の妹が居るのよ。今さら義理の姉が一人増えた所で驚く人なんて居ないわ」


いいながら涼ちゃんの肩を抱く里桜。


ん? というか涼ちゃん……なんか大人しいな。

前に私の事、泥だらけの雪だるまって言った時の元気はどうした。


「……晶……お姉様……っ」


……ふぉあぁ!

今なんて言った! 今なんて言った!


「綺麗です……! お姉様! 里桜姉より全然綺麗!」


「聞き捨てならんなぁ、晶ぁ?」


いや、言ったの涼ちゃんだし!

私を真っ黒な笑顔で見るな! 里桜姉!


「私はアンタの妹よ。里桜っていつも通りに呼び捨てでいいから。まあ、涼の事はちゃん付けでもいいけど……」


その時、個室の扉が開け放たれ真澄さんが入ってくる。


あぁ! 私を大変身させた張本人! これどういう事よ!


「観念してください。お友達も全員御着きになられてますよ。あぁ、拓也君という方も……可愛くしておきましたので。でも……貴方程じゃ……ないですけど……」


真澄さんも何か黒い笑顔を向けて来る。

な、なんなんだ、一体!


「それだけアンタが綺麗って事よ。正直嫉妬通り越して恨むわ。普段ガサツなクセして……」


ガサツって……否定は出来んけども……。


「行きましょう、晶お姉様っ」


ふぉぁ! 涼ちゃんが私の手を引いてくれる!

なんだこれ! 夢か?! 凄い……凄いぞ! なんか鼻血が出そう!


「落ちつきなさい。いい? あんたは適当に……内気っぽく挨拶してくれればいいから。間違っても変態発言するんじゃないわよ、今みたいに」


変態発言って……


わ、わかったでござるよ。恥ずかしがってればいいんだな。実際、人前で挨拶するなんて緊張であがってしまうし。



 そのまま先程のドデカイ……パーティー会場の裏から入り、ステージの袖に……。


っていうかステージもあるのか。ここ本当に一個人の家か?!


「一個人じゃないわよ。さっきも言ったでしょ? 私達は皆合わせて家族なのよ」


……ふむ。

なんか羨ましいな……私も実家に帰ろうかな……。


それで、このドレス姿を母に見せてやったら……喜んでくれるかな……



『ではー! 我が三姉妹達よ! おいで!』


里桜のパパさんが拡声器で私達を呼んでいる。

涼ちゃんと里桜に手を引かれ、袖からステージへと出る私。


会場には既に大勢の人が集まっており、中にはカメラを持った人も……うぅ、なんか写真撮られてる……。


「……? 誰だ、あの黒いドレスの人」


「綺麗……あの人誰?」


「三姉妹って言ったよな……里桜さんの姉?」


「隠し子……?」


ザワザワと分かりやすいセリフを吐くモブ達。


も、もういい! 震えが止まらぬ! 逃げ出したいぃ……


「晶……親父殿の気持ち、受け取ってあげて」


そう耳元で囁く里桜。


そっと里桜の親父殿、パパさんの顔を見ると、笑顔なのにどこか悲しそうな目をしていた。


あぁ、この人……父が死んだのと同時に私が生まれてたって話聞いて……本当に悲しかったのか。


 正直、私はそこまで父の事を想っているわけでは無い。

顔も知らないんだ。私には母と兄が居るからそれで十分だった。


でも……そうだな……父が居たら……こんな感じなんだろうか。


天国の父よ、見てるか?


嫉妬するなよ……


間違っても、里桜の父を呪ったりするなよ……


「お待たせしました……お父様……」


私は二人の妹に手を引かれ、父の隣へと立たされる。


父からマイクを受け取り……私は娘として挨拶をする。



 天国の父よ、見てるか?


心配しなくても……私は貴方の娘だ


貴方と母が出会ってくれた御蔭で私が生まれたんだ



天国の父よ


ありがとう


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