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 本日はクリスマスで日曜日。

こんな日でも白熊大学は普通に授業がある。この大学に土日や祝日はあまり関係ない。もちろん基本的な休日は土日だが、獣医の大学ともなるとそんな事も言ってられないんだろう。


【注意:この小説はフィクションです】


 さてさて、そんなこんなで本日は里桜の家でクリスマスパーティー。

私は大学が終わり次第、里桜と共に車で会場に向かう事になっていたのだが……


「真田―、ちょっといいか。手伝ってくれ」


無慈悲な冬子先生の言葉に顔を顰める私。

時刻は午後四時。そろそろ大学を出て会場に向かわねばならぬと言うのに。


「冬子先生……私用事あるって知ってるっしょ。別のヤツ使ってくださいよ」


「五月蝿い、真田五月蝿い。金持ちのパーティーなんて遅れても問題ないだろ。ほら、そこの犬が入ったゲージ運んでくれ。私の車まで」


ゲージ……あぁ、これか。

なんか白いマルチーズが入ってる。こちらを見つめながら「クゥン?」と首を傾げてくる。

な、なんて犬だ! あれか、私から鼻血を取り出して出血多量にさせる気か!


「いいから早くしろ。パーティー遅れるぞ」


「うぅ、冬子先生……もっと私に優しくしてくれないと、拗ねてしまいますよ」


ゲージを持ち上げ、冬子先生の後について歩く。

目指すは冬子先生の車が停まっている駐車場。

むむ、そういえば……


「冬子先生、赤ちゃんは? お腹大丈夫? あんまり膨らんでないけど……」


「まだ二ヶ月だからな。ぁ、そうだ真田。お前の周りに妊娠経験のある友人とか居るか?」


ふむ、相談役が欲しいという事か。

というか、そういう類いの友人なら冬子先生の方が心当たり多いんじゃ……


「いや、私は元々こういう変な性格してるからな。友達少ないんだ。助けてくれ」


「なんだって。私は愛してるよ、冬子先生」


「そりゃどうも」


簡単に流され少し悲しいが、冬子先生のためだ、妊娠経験のある友人を思い出してみよう。


…………


いや、母親くらいしか思い当たらねえ……

私の周りには、妊娠経験どころか、結婚した友人すら……


ぁ、いや、居るじゃ無いか。私の部屋に度々遊びに来る我が妻が。


「冬子先生、琴音さんの退院祝い覚えてる? あの時、妙に美人な子連れが居たでしょ。あの人どう? 優しいし料理美味いし……」


「……あー、あの人か。そうだな……じゃあその人紹介してくれ」


良くてよ。

春日さんは子育てと夫の間に挟まれて苦しんでたが……だからこそ私はあの人を信頼している。


「じゃあ冬子先生も今日のクリスマスパーティー来ない? その時に……」


「いや、私はいいや。また今度紹介してくれ」


ぐっ……勧誘失敗……。

まあいい。今度冬子先生の家に春日さんを連れてって……その時に二人を引き合わせようではないか。

春日さんも快く相談に乗ってくれる筈だ。問題は……春日さんも冬子先生も仕事してるから……日取りをいつにするかだな。今日冬子先生来れるなら一番だったんだけど……。


 そのまま大学の駐車場へ到着。

冬子先生は軽自動車の後部座席を開け、私はシートの下へとゲージを固定するように入れる。


「ありがとな。まあパーティー楽しんで来い。あぁ、それと……琴音と拓也君の事、少し気使ってあげてくれ」


「……? どうしたんですか、いきなり……私はいつも拓也きゅんとはキャッキャウフフしてるが……」


違う違う、と首を振る冬子先生。

むむ、なんなのだ、あの姉弟に何かあるのか?


「クリスマスは……あの二人の両親が亡くなった日なんだ。だから……なんだ、頼むぞ」


……え?

ちょ、何その話……初めて聞いた!


「琴音も拓也君も口が裂けてもそんな事言わんだろ。パーティーの雰囲気ぶち壊す事になるって考えるだろうし」


「いや、そうだろうけど……」


「だから頼んだぞ。お前の大人の対応に期待する」


うぉい! んな事言われても……私は大人の対応なんぞ知らぬ!

バイトだって初めたばかりだし!


 そのまま運転席に座ってエンジンを掛ける冬子先生。

うぅ、なんか寸前でとんでもない情報を聞いてしまった……。


「じゃあな。パーティー楽しんで来い」


それだけ言い残して車で走り去る冬子先生。

残された私は、なんとも言えない気分に浸っていた。


「命日……命日か……」


クリスマスに死んでしまうとは……あの姉弟の両親も空気読まないな。

私の誕生日に死んだ父程ではないが。


「大人の対応ねぇ……何をどうすれば……」


と、その時私の携帯が鳴る。

このタイミングで掛けて来るのは里桜くらいだ。


「はいはーい、私だぞー」


『あんたドコほっつき歩いてるの! 時間との戦いなのよ! さっさと正面玄関来い!』


っぐ、叱られた。

まあ今私が居るのは駐車場だ。正面玄関なんて目と鼻の先……


「ぁ……荷物忘れた……」



 

 ※




 「まったく、何してんのよ、まったく」


リムジンの中で里桜からお叱りを受ける私。

私はごもっともです……と息を切らしながら項垂れていた。

荷物を取りに久しぶりに全力疾走したのだ……やべぇ、吐きそう。


『里桜たん、そのくらいに……』


運転する親父殿が内線で里桜を宥めてくれる。

里桜はため息を吐きつつ、私のほっぺを摘まんで来た。


「あんた、今日は私と一緒にドレスの刑よ。分かったわね」


「え、えぇ……私どちらかというとタキシードとかの方が……」


却下、と一発で拒否りながら、里桜はリムジンの中でメイク直し。


「里桜たん、今日も可愛いよ」


「五月蝿い。あんたもメイクくらい……普段からスッピンなんだから、今日くらいは女の子っぽくしなさい」


んな事言われても……男装メイクなら自信あるが。


「んな事したらぶっとばすわよ。あんたは私の友人、そうねぇ……どこぞの財閥のお嬢様って設定で……」


うぉい! 待てコラ! そんな大嘘設定付与してドレス着せるツモリか!

絶対無理でござる! 


「いいじゃない。シンデレラみたいで。あぁ、灰は被ってないけども……」


灰かぶり(シンデレラ)……

その意味知ってる人どのくらい居るんだろうか。私は子供のころは単純にシンデレラっていう御姫様の名前だと思っていたが。


「そういえば……あんたの兄貴は? どうやってくるの?」


「んー? あぁ、兄貴は拓也と琴音さんを車で拾ってから来るって……」


「あら、じゃあお酒は飲めないわねー」


むむ、そういえばそうだな。

兄貴は車の運転しなきゃダメだし……


『なんだったら泊まっていってもらっても構わないよー』


会話を常に運転席で聞いている親父殿。

ふむ、宿泊できるとは言っても……今日は……


「どうしたのよ、渋い顔して」


「いや……別に……」


里桜にまで言ってしまっていいんだろうか。

今日があの姉弟の両親の命日だって……。


「何よ、言いたい事があるならハッキリ言いなさい! ほら言え! すぐに言え!」


両頬を抓ってくる里桜たん!

いだだだだ! 分かった! 分かったから! 痛いでござる!


「いや、実は……その……」


私は冬子先生から聞いた情報を里桜へと話した。

今日は拓也と琴音さんの両親の命日だと言う事を。


「フーン」


ってー! 反応薄っ!

え、あれ!?


「気にしすぎよ。あんただって誕生日に親父が死んだんでしょ? それ誰かに心配されて嬉しい?」


いや別に……寧ろこっちが申し訳ない気分になるし……


「そういう事よ。冬子先生が言いたかったのは、羽目を外し過ぎるなって事でしょ。だからアンタは普通に……」


『うぅぅぅぅぅ……』


その時、親父殿の泣き声が車内に……なんだ、どうしたんだ。


『晶ちゃん……誕生日にお父さんが亡くなったって……うぅぅぅぅぅぅ』


いや、正確には私が生まれたのと同時に……だが。


『うわぁぁぁぁん! そ、そんな事が……そんな事があっていいのか! なんて……なんて事だぁぁぁ!』


「落ち着きなさい、親父殿。大丈夫よ。晶はちゃんとスクスクと育ってるんだから。胸以外」


五月蝿い、里桜五月蝿い。


「それに……そんなに悲しいなら親父殿が変わりをしてあげればいいじゃない。今日だけでも……」


いや、ちょっと待て! 何言って……


『いいぞ……今日は晶ちゃんは僕の娘だ! 里桜たんと涼ちゃんと晶ちゃん……三人の娘を連れて……僕は堂々と父として振る舞うぞぉ!』


まてコラァ! なんでそうなる! 


なんか嫌な予感しかしない!


「観念しなさい。親父殿がこうなったら止めれないんだから」


そうこうしてるうちに里桜の家へと到着。


ど、どうなってしまうんだ……



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