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なんということでしょう。
紅葉さんがいきなり、あの雪かきの上手いチャラ男に変身してしまった!
なんてこった! なんてこった!
「も、紅葉さーん! 何処?! どこにいったの! 返事して!」
「信じたくない気持ちは分かるが、まずは落ち着いてみてはどうか」
妙にかたっ苦しい口調で話しかけてくるチャラ男。
なんだ貴様! 紅葉さんをどこにやった!
「俺が紅葉だ! どうだ、驚いたか。ちなみに年齢は大地と同い年の二十七歳、職業は会社員、趣味は……」
聞いてないわ!
一体全体どういうことだ! なんで貴様がここに居る!
「話すと長くなる。とりあえず、とっとと戻ろう。なあ、拓也君よ」
「はい! 紅葉先輩!」
せ、先輩? なんだ拓也、どうしたんだ拓也。
「紅葉さんに色々と……女装のテクニックを教えてもらって……凄いですよね! 声なんかもう全然違うし!」
ボイスなら私も負けて無くてよ!
そ、そうか、拓也が今朝ニヤニヤしてたのはコレの事か。
恐らく昨日の晩、カミングアウトされてハイテンションになったんだろうなぁ、拓也……。
ん? 待てよ……って事は、チャラ男ってボーイズラブの人……
「断じて違う。女装していたのには当然ながらワケがある。戻ったら洗いざらい全部話してやるよ」
言いながらウィッグを着け直すチャラ男。
そして「コホン」とわざとらしく咳払いし……
「では戻りましょうか、大地さん。それに……晶ちゃんに貴子ちゃん」
っぐぁぁぁぁ!
なんだコレ! なんだコレ! なんなんだコレ!
チャラ男を知っているだけあって……ギャップのダメージがとてつもない!
F○10の全てを越えし者ですら一撃で撃破できそうなダメージが……あかん、それはシステム的に無理なのに……。
☆
クマっ娘こと月夜ちゃんの家に戻る我々四人。
むむ、家の人居ないぞ。買い出しかしら。
「じゃあ……もっちゃん、そろそろ事情を説明してほしんだけど……」
私達は囲炉裏を囲むように座り、兄貴は事情聴取を始める。
もっちゃんことチャラ男。いや、紅葉さん? は再びウィッグを取りポキポキと首の骨を鳴らしながら……
「あー、どっから話すかなー……まあ、あれだ。最初は琴音が事故にあった時に……」
むむ、琴音さん?
あ、そういえばバスの中で琴音さんと話してたよな。あの時琴音さんなんて言ってたんだ?
「あ? あぁ、あの時は……いや、それは別にいいだろ」
良くないわ! なんなんだ一体!
「それよりもだ。そもそも俺は……大地に昔の記憶が無いって分かったのは琴音の見舞いに行った時だったんだ」
……ふ、ふーん。
で?!
お前の女装は何よ!
「まあ聞け。順を追って話すとだな、琴音が事故に遭ったって聞いた時、俺は近所に琴音が住んでる事自体にも驚いてたんだ。まあそれで見舞いに行った時、琴音から聞いたんだ。大地の記憶が無くなってるってな」
……いや、あの……話進んでないぞ。
「だから順を追ってるんだよ! まあ、俺の女装はただの趣味だ。それで実際に俺も大地に会いに行った事がある。会社まで」
「え?!」
凄い兄貴は驚いている。
そりゃそうだ。かつての幼馴染が自分を尋ねて会社まで来たんだから……
「その時大地にも話しかけたんだぜ、でもコイツは全く気付かないし……こりゃアカン、って事で色々と大地の記憶を取り戻そうと試行錯誤した」
それが今回の騒動ですかい。
「騒動って程じゃないだろ。まあ懸けの部分が多すぎたけどな……。大地の記憶が戻らないなら、それはそれで諦めるしかなかったけど……」
懸けって……もしかして山を登らせた事か?
「ああ。ちなみに村人全員、あと俺とお前等の母親もグルだ。全員大地の記憶を取り戻す為に……あの山に登らせるために仕組んだワケだ」
なんで山?
そこに上らせれば兄貴が記憶を取り戻すって思ったのは何でだ。
「まあ大地が記憶を亡くした場所だしな。あと……まあ、別にいいじゃねえか」
むむ、まだなんか隠してるな、チャラ男。
全部吐くのだ!
「琴音に聞けよ。あぁ、あと記憶を取り戻した事は琴音には言わない方がいいぞ。お前、子供の頃本当に琴音にベッタリだったからな。遊ぶ時はともかく……風呂やベットにまで……」
「ひぃぃぃぃ! 言わないで! もっちゃん! あぁ、なんか色々と……蘇ってきた……」
マジか、今は女性の前に出ると生まれたての小鹿のようになる兄貴が……昔はそんな積極的な男児だったのか。
「ちなみに拓也君の女装は一目見て気づいたぞ。まだまだ甘いな、拓也君」
「は、はい! 先輩!」
なんでお前等……そんな先輩後輩になってんだ。
ん? そういえばチャラ男よ、お見合いの時に桜っていう兄が居るって言ってなかったっけ。
「あぁ、兄じゃなく姉だけどな。今は結婚して子供三人居るよ」
な、なんだと。
「まあこんなとこか。何か質問は?」
兄貴はそっと挙手し発言権を求めて来る。
「もっちゃん……俺ともっちゃんが結婚の約束したっていうのは……」
「噓に決まってんだろ。なんだ、俺と結婚したいのか?」
ブンブン頭を降る兄貴。
しかし……女装したかつての幼馴染とあんな震えながら会話してたなんて……まあ、私も全然女装なんて気ずかなかったし……ちょっとフラグ無さすぎじゃない?!
「まあ、それは作者の力量不足って事で」
【注意:すんませんでした……】
※
と、いうわけで一連の騒動は終わった。
私と拓也は琴音さんへのお土産用に塩昆布と、そばなじみをお土産屋で購入。
そのまま数人の村人達に見送られながら、私達は帰路についた。
「ところでチャラ男」
「はい? どうしたの、晶ちゃん」
ってー! キャラ! 紅葉さんになってる! チャラ男に戻れ!
「ウフフ、面白い子ね、晶ちゃんってば」
く、くぅぅぅ……なんか悔しい!
なんでこんな……チャラ男に完全に騙されてたなんて!
「もっちゃん……その、色々とありがとう。俺のために……」
兄貴はバス停につくなり……恥ずかしそうに紅葉さんを見つめる。
ぁ、もしかしてBL? ボーイズラブ始まる?
「別に……大した事はしてませんよ。大地さんに記憶を取り戻してもらえれば……色々と楽しみ増えるじゃないですか。折角近くに幼馴染が三人揃ってるんですから。今度琴音ちゃんも誘って飲みにでも行きましょう」
ぁ、それ楽しそう。
私もいくぅ。
「ウフフ、晶ちゃんったら……」
そっと紅葉さんはウィッグを取り外し……って、それなんなん。
ウィッグが女装のスイッチになってるのか?
「お前はダメ。俺達三人で昔の話で盛り上がるんだ」
な、なんだとう!
仲間外れにするつもりか!
その時、冷たい風が強く私達を叱咤激励してくる。
震える拓也の肩を抱いてくっつく私。
「じゃあ拓也、私達は私達で……執事喫茶で盛り上がろう」
「……ちょっと待て。執事喫茶って……今度俺も連れていけ! いや、帰ったらすぐに連れていけ!」
な、なんだコイツ!
まさか女装していくつもりではあるまいな!
「その通りだ! あの店結構気になってたんだ、でも入るには勇気いるし……」
「もっちゃん、バス来たぞ」
兄貴の一言で再びウィッグを着け直すもっちゃん。
すると一瞬で態度はしおらしくなり、完全に女の紅葉さんになる。
「ね? 晶ちゃん、お願い……飲み会も連れてってあげるから……」
「ひぃ! わ、わかった……わかったから……!」
そうして私達の義龍村旅行記は終了する。
さあ、帰ったら里桜の家でクリスマスパーティーだ。




