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 月夜ちゃんの家へと泊めて頂いた私達。

私と月夜ちゃんは一緒の布団に入り、気が付くと抱き枕にされていた。

現役女子高生に抱き枕にされるという至福の時間を味わった私。

今は興梠家の人達と共に朝食を摂っていた。


ふむ、毎食毎食村全体で炊き出しする訳じゃないんだ……。


「そりゃそうクマ。めんどくさいクマ。夕食は皆一緒に食べるけど……クマ」


ほほう、何故に夕食は皆で食べるんだい?


「皆で食べた方が美味しいからクマ」


いいながら囲炉裏で焼いた焼き魚を丸かじりする月夜ちゃん。

なんか食べ方もクマっぽいな、この子。


「こら月夜、お客様の前ではしたない……もっとお上品に食べなさい……」


「えー、お客様って言っても、この二人は元々村の人クマ。構わないクマ」


そうクマ! 私は違うけど、兄貴はここ出身だったのクマ!


「いけません、そんな考えじゃ……。お嫁に行けなくなったらどうするの。そのクマクマ言うのも止めなさいって言ってるのに……」


ふむぅ、確かにクマクマは止めた方がいいクマ。


「そんな事言われても……クマ。もうクセになってるし……クマ」


あかん、この子可愛い。

嫁の貰い手が無いなら私が貰ってあげてもいいのよ!


「私男の子が良いクマ」


ドストレートに言われて項垂れる私。


くぅ! 私が男に生まれていれば……こんな可愛い女子高生と結婚も……


「ないわー……クマ」


 そんなやり取りをしていると、兄貴が月夜ちゃんのお母様にご飯のおかわりを要求。

興梠家に息子が居ないせいか、お母さんはかなり嬉しそうにおかわりに応えた。


「いっぱい食べてね。大地君カッコよくなっちゃって……私の事思いだしてくれた?」


「……ぁ、はい……えっと、俺を女子風呂に連れ込んだ……」


何ぃ! 兄貴がこの村に居たのってまだ六歳とかその辺だよな?!

そんな少年を風呂に連れ込んだだとう!


「あら、大地君が付いてきたのよ? 琴音ちゃんと一緒に入るーって」


それを聞いた瞬間、私と兄貴は同時に飲んでいた味噌汁を吹きだした。

な、なんだって?


「だから、琴音ちゃんの事大好きだったもんねー、大地君。琴音ちゃんは正直ウザいって感じだったけど」


ま、マジか。昔の兄貴はそんなに積極的だったのか。

というか紅葉さんは? あの人と結婚の約束したんだよな……兄貴。


「ところで……お父さんが居ないクマ。どこ行ったクマ?」


「何言ってるの。今日はお父さんお仕事よ? 朝早く出て行ったんだから」


お父さん……むむ、そういえば……奥さんこの村出身だよな。

じゃあ月夜ちゃんの父は? 普通の人?


「私達も普通の人だけど……夫とは私が上京した時に出会ったの。田舎で暮らしたいとか言い出すから……じゃあ私の地元に行こうって話になって……」


ふむぅ。あれ、そういえば月夜ちゃんのお爺ちゃんも居ないな。

昨日枝の上から雪玉落としてきた爺ちゃんは何処に?


「爺ちゃんはいつも朝早いクマ。たぶんその辺りでラジオ体操してるクマ」


ラジオ体操とな。

確かに老人は朝早いしな……まあ健康的で大変よろしいとは思うが。


 それから楽しく会話しながら朝食を食べる私達。

結局兄貴は炊飯器の中の米を食いつくし、お母さんは大喜び。

朝食を食べ終わり後片づけを手伝いつつ、兄貴の昔の話で盛り上がる。

ムカデを手で掴んで女の子を追いかけ回したとか、森の中で怪我をしたタヌキを拾ってきたとか。

中でも私が興味をそそられたのは兄貴の好みの話だ。

どうやら兄貴は、月夜ちゃんのお母さんに懐いていたらしい。

女子高生だった頃のお母さんにベッタリだったそうだ。


どうやら兄貴の年上好きは子供の頃からのようだ。

もしかしたら琴音さんの事も気になってたりしたんだろうか。

少年時代の兄貴は……。



 ※



 さて、ここで本来の目的を思い出そう。

私達が遥々高山まで来た理由は、クマクマ言う可愛い女子高生に出会う為ではない。

この村にタイムカプセルを探しに来たのだ。その場所も兄貴は思いだしたようだが……。


「……その前に晶、ちょっといいか」


「ん? 何、兄ちゃん」


「いや、紅葉さん……もっちゃんの事だけど……」


ん?! そのニックネーム……たしか琴音さんも言ってた奴だ。

紅葉さん皆から……もっちゃんって言われてたのか。


で? そのもっちゃんがどうしたんだ。


「いや、実は……」


「おはようございまーっす」


その時、兄貴の話を遮る様に現れたのは拓也きゅんこと貴子ちゃん。

やけにハイテンションで、着ている服もなんだか……いつもの拓也っぽくない。

柄のスカートに柄のセーターって……柄と柄合わせて! どこの民族衣装だ!


「ぁ、この村の伝統的な服らしいです」


噓付け! そのスカートもセーターも、私の実家の近所にある『シマウマ』って服屋に絶対ありそうなデザインだし!


「まあまあ、それより晶さんは知ってたんですか?」


「ぁ? 何を……」


途端にニヤニヤしだす拓也。何やら笑いを堪えているようにも見える。

なんだこの子……一体何があったんだ。


「まあ……それはこれからのお楽しみって事で……ぁ、紅葉さーんっ、ここですよーっ」


遅れて紅葉さんも家から出てきた。

こちらも何やら民族衣装風の服装をしている。なんだ、流行ってるのか?


「おはようございます。大地さんに晶ちゃ……」


「もっちゃぁぁぁあぁぁん!」


その時、いきなり兄貴は紅葉さんに抱き付きだした!

な、なにしてんだ! なんで兄貴までそんなハイテンションになってんだ!


「あぁ、もっちゃん……こんなに可愛くなって! あのもっちゃんがこんな風に……」


「思いだしたんですね……大地さん……という事はタイムカプセルの場所も思いだしました?」


「おうよ! もっちゃん!」


何そのテンション。

一体何が起きたんだ。今まで紅葉さんと会話する時はオドオドしてたくせに……。


「じゃあ行きましょうか。タイムカプセルを埋めた……あの桜の木の下に」



 ※



 一体どういう事か説明してほしい。

昨日私達は二時間かけて登山し、桜まで辿り付いたというのに……。

記憶を取り戻した兄貴は「こっちが近道」とか言って桜の場所まで物のニ十分で到着してしまった。

昨日の苦労は一体……。


「うわぁー……おっきいですね」


拓也の感想に私も頷きながら、再び桜を見上げる。

この桜は今は村の人間達は近づく事は出来ない。

というより、近づきたくないのだ。私の父と拓也の両親が相次いで亡くなった事に不安を抱いた村人達。

この桜は、そんな村人達の不安を一挙に引き受けたのだ。


特に日本人はこういった迷信を意識しやすい。

迷信だと分かっていても、不安は何処かに残る。

それを何かのせいにしてしまえば、確かにいくらかは楽だ。


「さて……掘るか」


兄貴は借りてきたスコップで桜の下を掘りだした。

大丈夫? 人骨とか……出てこないよね。


例の話を知らない拓也と紅葉さんは楽しそうだ。

だが私と兄貴は心なしか罰当たりな事をしているのでは……と不安になってくる。

あぁ、この不安が悪い風を運んでくるのかもしれない。

要はプラシーボ効果だ。呪いの正体だと前にテレビでやってたな。


「晶さん晶さんっ、ここから村が一望できますよ!」


拓也に呼ばれて崖付近に行くと、確かに雪に埋もれた村が見えた。

むむっ、村長の家って合掌造りだったのか。上から見るとよくわかる。

昨日は大して気にも留めなかったからな。


「いい村ですね。僕達も……ここで生まれてたらなぁ……」


「私は今の実家の方が好きかな……ここまで雪降らないし駅は近いし……」


この村から高校に通っている月夜ちゃんとかは大変そうだ。

なにせ高山市からバスで三十分掛かったからな。どこの高校かは知らないが、少なくとも一度高山市へは出る事になるだろう。登校に三十分以上かかるなんて……。ちなみに私は自転車で十五分の高校だった。


「晶さん、帰ったらクリスマスパーティーですね、里桜さんの家で……」


「あぁ、そっか……そういえば琴音さんが御土産買ってこいって言ってたな。なんだっけ、昆布に蕎麦なじみ?」


「はい、塩昆布に蕎麦なじみです。お土産屋ちゃんとあるみたいですよ、あとで行きましょうね」


あるんかい。

村長め……私達が来た時、よそ者は入ってくるな的な事言ってたくせに。

お土産屋あるってどういうことだ。


「晶ーっ」


そこに兄貴からお呼びが掛かった。

むむっ、タイムカプセル出たか!


 兄貴の所に駆け寄る私と拓也。

いかにも古臭そうなお菓子の缶。約二十年も前の物だ。もうただのゴミにしかみえないが、この中には兄貴の思い出が……


「開けるぞ……」


そっと缶を開ける兄貴。

中には数通の手紙と玩具。恐らく兄貴が入れたであろう超有名アニメのトレーディングカードに……小さな犬の消しゴム。それを手に取り、兄貴は懐かしそうに眺めた。


「こんなもん入れたっけな……なぁ、もっちゃん」


「懐かしいですね、早く手紙読んでくださいよ」


もっちゃんこと紅葉さんに急かされ、兄貴は三通の手紙の中から自分宛ての手紙を見つけた。

当然二十年前の兄貴が書いた自分宛の手紙。


あぁ、タイムカプセルって黒歴史の宝庫だったりするんだよな……。

自分がなんて書いたかなんて覚えてないし……開いた瞬間目を塞ぎたくなる文章が……。


「えーっと……十年後の僕へ……」


ふむ。本当は十年後に開けるつもりだったのか。

だが残念……兄貴は既に三十路手前だ!


「十六歳の僕……宇宙飛行士にはなれましたか?」


ほほう、兄貴の夢は宇宙飛行士だったのか……。

心なしか胸が痛む。私さえ居なければ……兄貴は普通に大学に行って夢をかなえていたかもしれないと思うと……。


「お母さんのおなかにいる子供は……女の子か男の子か分からないけど、僕はちゃんと守っていますか……」


……いや、ちょっと待て

なんか目から汗が! 


「晶さん……泣きたい時は泣いていいんですよ」


ガっと拓也を後ろから抱きしめ、暖を取る私。

決して泣き顔を見られたくないわけではない。私は今寒いんだ!


「…………」


ん? どうした兄貴。

はよ続きを読むのだ。


「いや……もう大丈夫」


何が! 気になるでござるよ!

すると紅葉さんは兄貴の手紙を取り上げ、読み始めた。

その内容を見て、微笑ましい物を見たという顔で私に手紙を差し出してくる。


ふむ、二十年前の兄貴は一体どんな内容を……。


『おかあさんと、おとうさんと、ぼくと生まれてくるきょうだいと、よにんでしあわせにくらしていますか? あと、ことねちゃんとはどうなってますか? ぼくは、ことねちゃんのことが、だいすきです。きっと、しょうらいは、けっこんしているとおもいます。もしまだしていなかったら、ちゃんと、ことねちゃんに好きってつたえてください。 ついしん、ぼくは、さいきょうのおとこになりたい』


……最強の男になりたいだと!

それで兄貴……高校でレスリング部に入ったのか!


「いや、晶さんっ! それよりも重要なワードが入ってますよ!」


重要なワード……?

あぁ、琴音さんの事か。正直そんなこったろうと思ってたが……しかし紅葉さんの事が一言も書かれていないのは気になる。結婚の約束してたんでしょ?


 紅葉さんは自分宛の手紙を取ると、そっと広げて読み始めた。

肩を揺らして笑いながら、その手紙も私に差し出してくる。むむ、読んでいいの?


『おれ! さいきょうのおとこになる! あとゆきかきはとくいです』


……ん?!

なにこれ。意味が分からん。一体どういう……


「あー、疲れた。もういいだろ」


と、紅葉さんはいきなり髪を取り外し……ってー!


え?! それウィッグ?!


と、というかお前……



「……な、なんで……あんたここに……雪かきが得意なチャラ男!」



私と同じマンションの住人。

いつか雪かきを手伝ってくれたチャラ男がそこに居た。


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