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 義龍村へ正式(仮)に入る為、試練を受ける私と兄貴。

ひたすら山道を登る。といってもちゃんと道はあるし、迷わないようにロープが道しるべのように張られていた。山には雪が積もっているが、足を取られる様な事もない。


「晶、大丈夫か?」


「あぁ、うん。全然大丈夫」


私は高校時代、バスケ部の夏の合宿でスキー場をダッシュさせられた事がある。

あの時に比べれば朝飯前だ、こんな山道。


「しかし試練か……桜の所の盃持ってこいだっけ? へんな試練だな……」


「儀式的なアレじゃない? たぶんその盃で……日本酒を……」


おおぅ、なんか美味しい料理と一緒にお酒飲めるんじゃない?!

凄い楽しみになってきた。今夜は暖かい鍋と日本酒で……


と、そんな事を考えていた時……前方に黒い塊が。

むむ、なんだアレ。


「兄ちゃん、あれ何?」


「さあ……熊か?」


一度立ち止まり様子を見る。

確かに熊が蹲っているようにも見えない事は無い。

しかし熊は冬眠中では? いや、最近は餌が無くて冬眠出来ない熊も居ると聞く。油断はできない。


「ど、どうしよう、引き返す?」


「ちょっと様子みよう……もしかしたら……ただのゴミって事も……」


黒い塊に果敢にも近づく兄貴。

ちょ! いくらあんたがレスリングの有段者と言っても……相手は熊よ!

熊にタックルしても押しつぶされるだけ……


『ウゥ……グルルルルル……』


ひぃ! 唸った! 今凄い唸った!

やっぱり熊だよ! 逃げよう、兄貴!


「だ、大丈夫ですか? 熊さん……」


ってー! 何熊に対して日本語話してんだ!

通じるわけないだろ!


「そ、そうか。じゃあ熊語で……だ、大丈夫クマ? どうしたんだクマ?」


いや、お前の頭が大丈夫か?!

語尾にクマってつけただけで熊が日本語理解できると思ってんのかにゃ?!


「ぁ、だ、大丈夫クマ……御心配おかけしましたクマ……」


……?

その時、ゆっくりと黒い塊は動きだし立ち上がる。

今……なんか喋った……


「が、ガオー! くまだぞー! 怖いぞー!」


あら可愛い。

私と兄貴は顔を見合わせ頷くと、可愛らしい声の熊の両腕を掴んで拘束。


「ちょ、な、なにクマ?! わ、私……クマだぞー!」


両側から腕を組むように拘束し、そのまま山昇りを続行。

おおぅ、思った通り……このクマふっかふかのモフモフで暖かい。

こんな物を用意しておいてくれるとは……なかなかいい人だな、村長。


「わ、わたしはホッカイロじゃないクマ! はなすクマ!」


「じゃあ話してもらおうか、君は何をしてたんだ」


「はなすってソッチの話すじゃないクマ! 離せっていったんだクマ!」


だが断る!

もふもふで気持ちいクマ!


ん? なんか視線を感じる……


『フフゥ、情けない熊め。村の裏切者に捕まるとは!』


その時、私達の耳に届く不気味な声。

むむ、何奴……!


『裏切者に仮登録なんぞ許さん! ワシが成敗してくれる!』


「じ、じいちゃん! こいつら倒してほしいクマ!」


じいちゃん?

このクマの中身のお爺様か。

しかし何処に居るんだ。姿が見えぬ。


『食らえ! 若き頃に鍛えた雪合戦スキルを味わうがいい!』


ポス……と兄貴の頭上に雪玉が。


「……晶、上だ」


「え? ぁ……」


なんということでしょう。

木の枝に老人が昇り、そこから雪玉を落してくる!

なんて爺さんだ! 若いな。


「食らえ! 雪の雨!」


手に抱えた雪を一気に落としてくる爺さん!

咄嗟に兄貴は熊をリフト! 傘のようにして雪を防いだ!


【注意:リフト、とはバック、または胴タックルから相手を持ち上げる奴です。反り投げの場合でもリフトリフトと連呼してました(私の居た高校では)】


「何と卑怯な! ワシの孫を使うとは!」


「ぎにゃぁぁぁあ! 着ぐるみに溶けた雪が浸み込んで来るクマ! じいちゃんのバカー!」


そのままクマを傘にしつつ、数メートル進む私達。

よっこらせ、とクマを降ろし爺さんを見ると、もう成す術がないのか枝の上で立ち尽くしていた。


「終わりか、爺さん。降りれるのか?」


「降りれるわ! お前、真田の坊主か。随分立派になったな」


むむ、このお爺様……兄貴の事知ってるのか。

そりゃそうか、兄貴はこの村出身だし。


「坊主、今度は迷うなよ」


「……? あぁ」


空返事する兄貴。

迷うなよって……あれか、兄貴は遭難したから……琴音さんと。


 そのままクマと共に山を登り続ける私達。

結構来たな。桜とやらは何処なんだ。


「おい、熊、道は合ってるのか?」


「わ、私……桜の場所なんて知らないクマ……ヘックシュ!」


ぁ、水が染みて冷たいんじゃ……その着ぐるみ脱いだ方がいいのでは?


「き、着ぐるみじゃないクマ、私は熊だクマ」


「……もしかして、その着ぐるみの下って……下着?」


ギク……と熊が一瞬震える。

溜息を吐きつつ、兄貴に向こう向いてろ、と言い背中のチャックを下ろす私。


「ひぃ! なにするクマ! すけべクマ!」


「私は女だっつーの。ほら、脱いだ脱いだ……」


そのままクマの中から出て来る女の子。

って、なんだこの子……凄い可愛い! え、中学生くらい?


「こ、高校生クマ! ヘックシュ!」


「兄ちゃん、コート脱いで。私のも……」


私のコートをスカートのようにし、兄貴のダウンを着せる。

これで少しはマシな筈だ。


「うぅ、敵に助けられるとか……一生の恥クマ……」


「敵って……兄ちゃんはここの出身なんでしょ? なんでこんな敵視されてるん?」


「俺が知るか。ところで桜の場所、ホントに知らないのか?」


頷くクマ娘。

むむ、名前は? なんて言うんだい。


「私は……興梠 月夜(こうろぎ つくよ)クマ。桜の場所はホントに知らないクマ。ところで何でお姉さんが居るクマ? 村長は男の人だけって言ったはずクマ」


いつまで語尾にクマってつけてんだ、この子。

まあ、私が村長に男って間違えられたから……


「なっ……村長酷いクマ! 女の子を男の子と間違えるなんて! お姉さんどう見ても男の子には見えないクマ!」


まあ、コート脱いだらモロに体のラインで分かるわな。

っていうか村長はひたすら登れっていってたけど……


「登っても桜なんてないクマ。村長のハッタリクマ」


なんてこった! 試練とか言うとって……


「でも……爺ちゃんは場所知ってるっぽいクマ。どこかにはある筈クマ」


むむ、訳が分からん。どういうこった。

その時、兄貴が急に立ち止まり山を見渡す。

どうしたんだい、兄貴。


「いや、ここ……なんか見覚えあるな……」


ふむ。やっぱり兄貴が遭難した山ってここなのか?


「兄ちゃん、ここで遭難したんだよね。見覚えあるって、やっぱりその時じゃ……」


「あぁ、まあ……」


頭をポリポリ掻きながら進む兄貴。

私も熊の子、月夜ちゃんと手を繋いで付いて行く。


っていうか寒い。コート渡しちゃったから……

あぁ、早く帰って鍋と日本酒をキュっと……


「…………」


すると兄貴が立ち止まり、何やら再びキョロキョロしている。

ふむぅ、また何か思いだしたのかしら。


「おい、くま娘」


「月夜クマ。なにクマ?」


兄貴は何か崖下を覗き込んでいる。

危ないでこざるよ。


「この下に道はあるのか?」


「はぁ? 何いってるクマ。山道逸れると危ないクマ。ただでさえ雪で道が分かりにくいのに……クマ」


いや、もうクマって付けなくても……


「もう少し進んでみるか……」


そのまま再び進み続ける兄貴。

もう結構登ってきたな。そろそろ帰りたいでござるよ。

なんかいつの間にか……時間は午後三時を回っている。

山を登り始めたのは確か昼過ぎ……一時くらいだっけ? もう二時間近くも登ってるのか。


「やっぱり……この下だ、道があるはずだ」


いきなり崖下へ足を踏み入れる兄貴。

ちょ、危ないでござるよ。


「晶達はもう帰っていいぞ、俺一人で……」


「そんなワケに行くか! 月夜ちゃんは戻って……」


「そんなワケに行かないクマ。私も興味あるクマ」


結局三人で崖下へ居り始める。

むむ、そこまで急な坂でも無いな……これなら……


「ふぉぁ! こ、転ぶクマ! もう転ぶ!」


ガシッ、と私と兄貴で月夜ちゃんの両腕を掴んでエスコート。

多少滑りながら坂を下りると、確かに道があった。


「ここだ……この先に……」


フラフラと何かに導かれるように歩きだす兄貴。

おおぅ、待つでござるよ。


「す、すごいクマ、こんな道初めてクマ」


月夜ちゃんも知らなかったのか。

何で桜が咲く場所を教えて無いんだ?

そんな名スポット、春になったら凄い……


と、開けた場所に出た。

そこで見た光景に私達は言葉を失う。


「ここだ……」


「でっか……」


「おぉぉ……クマ」


そこには、一際大きな木が。

桜かどうかは知らないが、その木の根元には祭壇のような物が。


「ぁ、兄ちゃん、あれじゃない? 盃……」


って、兄貴?

え、泣いてる?!


「ど、どうしたんだ兄ちゃん! 懐かしくて泣いてるのか?!」


「ぁ? あぁ……いや、思いだした……」


兄貴は桜と思わしき木に近づき、祭壇を眺める。

そのまましゃがみこんで動かない。


「兄ちゃん……大丈夫?」


「あぁ……大丈夫……」


ゆっくりと盃を取り、立ち上がる兄貴。

鼻をすすりながら涙を手で拭う。


「晶、ここ親父に連れてきてもらったんだ。あと……琴音さんと一緒に来た……」


……やっぱり。

遭難したのは琴音さんと兄貴か。

まあそれ以外ありえないと思ってたが。


「親父……」


「どうしたん……兄ちゃん」


盃をポケットに突っ込み、兄貴はどこか寂しそうな目で


「晶、桜がピンクな理由って……俺話したっけ」


なんだ、いきなり。

確かあれだろ、桜の下に死体が埋められてるから……


「いや、それ都市伝説だから。ここで親父に教えてもらったんだ。まあ……その理由っていうのも親父の冗談だったわけだけど……」


ふむ、なんだろう、興味ある。



「……桜の花がピンクな理由は……」





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