(46)
岐阜県高山市。
私が住んでいる西濃も比較的山に近いが、ここはその比では無い。
少し目線を上げれば山々が連なっている。しかも空気が澄んでいて、かなり山が近くに感じられる。
実際近いんだろうが、その圧倒的な存在感に思わず目を奪われてしまう。
「晶、どうした?」
兄貴に呼ばれて我に戻り、拓也……もとい貴子ちゃんの手を引いて再び歩きだす。
ここに昔、私を除いた真田一家が住んでいたのだ。なんだか仲間外れされているようで悔しい。
兄貴について一軒のラーメン屋へと。
大きく高山らーめん、とポスターが貼られていた。
「兄ちゃん、高山らーめんって……醤油?」
「さあ……」
さあ……って、あんたここ出身だろ。何故に知らんのだ!
「そんな事言われても……ぁ、すみませーん」
テーブルに着くなり店員さんを呼ぶ兄貴。
そのまま四人とも高山らーめんを注文し、私はトラベルバックの中からタブレットを取り出す。
ふむ。ちゃんとWiFi来てるな。
「じゃあこれから義龍村に向かうわけだけども……紅葉さんは知ってるんですよね? 行き方」
「うん。バスで三十分、そこから徒歩で少し歩くかな……」
タブレットでMAPを表示し、バスから降りた所からどのくらい歩くのかをチェック。
結構あるな。山道を行くのか?
「そこまで険しくは無いよ。車も通れる道だし……」
ほぅ、じゃあいっその事タクシーで行ったほうがいいんじゃ……
「うーん、逆に時間かかってお金取られちゃうかも。車が通れない道を行った方が早い筈だし」
紅葉さん近道知ってるのか。
でも大丈夫か? 最近全然帰ってないんだから遭難とか……。
「大丈夫大丈夫。そこまで分かりにくい所じゃないから」
なるへそ。と、その時何やらソワソワしてる拓哉。
なんだ、どうした?
「あ、あの……ちょっと御手洗いに……」
「ぁ、じゃあ私も」
と、拓也と同時に席を立った時、兄貴の目がギラついた!
な、なんだね! 文句あるか!
「晶……お兄ちゃんは信じてるからな……」
何をだ。もしかしていらん心配してるんじゃないんだろうな。
私と拓也は健全なお付き合いなのよ!
【注意:実際はお友達です。(42)話で、晶ちゃんは噓付きました。】
そういえばまだ拓也に言って無かったな。兄貴と母に噓付いた事……ボロが出る前に説明すべきか。
妙な事を心配している兄貴を放って拓也の手を取って御手洗いに。
むむ、男女別れて無いな、この店。まあいいか……
「よ、よくないですよ、なんで晶さんも一緒に入ってるんですか……!」
「良いではないか。ぁ、和式かぁ……大学も自宅も洋式だから懐かしい……」
「あ、晶さん、お先にどうぞっ……ぼ、僕は出ていくんで……」
そんな拓也の肩を掴み、振り向かせて壁ドンする私。
「え?! ちょ……」
「拓也、言うの忘れたけど……私と拓也きゅんはお付き合いしてるって事になってるから」
「……え、えっぇぇ?! な、なんでそんなことに!」
いや、ゴメン……マジで。
「実は、かくかくしかじか……そういうわけだ」
「な、なるほど。なんとなく分かりました……」
でも……私は……
「私は、別に拓也が彼氏でも全然構わない。実際お付き合いしてもいいと思ってる」
「あぅぅ、なんでそういう事をトイレで言っちゃうんですか……っていうか晶さん男らしすぎ……」
仕方ないだろう! 拓也きゅんが女の子っぽいだけだ!
というか、なんかマジで琴音さんソックリだな。ちょっとドキドキしてきた。
「じ、事情は分かりましたから……あれ? でも紅葉さんは僕の事、女だと思ってるんですよね?」
「うむ、非常にややこしい事になってるが……まあ大丈夫だろ?」
「が、ガンバリマス……そして漏れそうです、晶さん……」
ふむ、分かった。じゃあ拓也きゅんは立ってするのか座ってするのか、非常に興味深いが……
「で、でてってくださいっ!」
そのまま拓也に追い出され、席に戻るとらーめんが既に来ていた。
おお、なんか凄い良い匂いする。
「お、晶出てきたか。じゃあ俺もちょっと……」
トイレですか。お行儀悪いぞ、兄貴。
「お前に言われたか無いわ。今たく……貴子ちゃん入ってる?」
「あぁ、うん。イタズラしちゃダメよ」
するわけないだろ、と兄貴もトイレへ。
紅葉さんと二人きりになるが……むむ、紅葉さん皆揃うのを待ってるのか。
冷めるでござるよ、食べようではないか。
「あの……晶ちゃん、ちょっといい?」
ん? なんでござる?
「私の事、どう思ってる?」
「……どう……とは?」
なんだ、いきなり。
どう思ってるって、兄貴の嫁候補だろう!
「私の事……尻軽女だって思ってる?」
ん?!
や、やばい。確かに私はそう思ってる。
どうする、正直に言ってしまうか? 下手に噓付いても見破られそうだし……。
「紅葉さん……兄貴と結婚の約束したんですよね。小さい頃に」
「……うん」
「……正直、なんで今回、兄貴にその話したのかって思ってます。それさえ無ければ……私は紅葉さんの事……素直に応援できたのに……」
箸を割ってラーメンを啜りだす私。
紅葉さんは何か考え込むように俯いている。
「……私、卑怯かな……」
「いえ、私は全然構いませんよ。紅葉さんが兄貴と結婚しても。でも、なんで小さい頃の話なんて今更持ち出したんですか。過去に紅葉さんが何人と関係持ってようが関係……無くは無いですが、普通に兄貴とお付き合い始めれば良かったじゃないですか」
「……そう、だよね。でも私……負けたくないの……」
ん? 負けたくない?
「あの貴子ちゃんって子……男の子だよね?」
ブフー! とラーメンを吹きだす私!
ぎゃー! 鼻から麺が出る!
「な、な、し、知ってたんですか?!」
「だって……ソックリだもん」
ソックリ? まさか、あんた拓也と会った事が……!
「琴音ちゃんとソックリだから……一目で分かったよ……。あの子、拓也君でしょ?」




