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 突然だが、私には兄が居る。

果てしなくシスコンの兄。今さら言うまでも無いとは思うが。


今、この兄に危機が迫っていた。

そう、兄もそろそろいい歳。


「あんた、見合い写真ちゃんと見たんか」


今私は実家に帰ってきていた。

リビングでは軽く修羅場。母と兄が向かい合って話し合いをしている。


 話し合いの内容は勿論……


「いや……俺は見合いとか……するつもりは……」


「何言うとる! あんたもう今年で二十八歳やろうが! それなのに彼女の一人も居らんってどういう事や!」


ちなみに私は隣りの和室に避難していた。

仏壇の前には、いつか私が持ってきた父であろう男の写真。

ちゃんと父の部分だけを拡大して、写真立てに入れてあった。隣りに琴音さんも写ってたしな……。


「晶! あんたもこっち来なさい!」


うお! 母の怒りが私にも来た!

今の母には逆らわない方がいい。私はコソコソと母の隣りへと座る。


「晶、あんたどう思うん。大地はブサイクか? 彼女なんて出来そうにないんか?」


「え? ぇーっと……ど、どうかなぁ……まあ、イケメンでは無いけど……」


ギロ……と母の視線が……やばい、なんて答えるのが正解なんだ?!

大丈夫! その内お嫁さん見つかるよ! とか適当な事言えばいいんだろうか。

というか、母は何でそこまで怒っているんだろうか。別にいいじゃないか。最近結婚しない人も増えてきてるし……


 一方、兄貴は何やら言いたそうな顔をしつつ耐えていた。

そんな兄の前に、母は一枚のお見合い写真を置く。


「この人、あんたの嫁さんに丁度いいと思うてな。もう見合いの話も付けて来とる」


は、はぁ?!


「はぁ?! な、なに勝手にやっとるん! 俺は見合いなんて……」


「やかましいわ! お母さんの気持ちになってみい! 晶の大学費やらマンション代やら、出してくれとるのは感謝しとるわ! でもな、あんたこのまま妹に貢いで人生終わらせる気か? あんた一人で生きていけるような人間か?」


た、たしかに……兄貴は私の為に働いているような物だ。

マンション代は一括で兄貴が買ってくれた。それまでの貯金を全て叩いて。

そして更に大学の授業料まで払ってくれているのだ。


しかし私は母にまだ言っていない事がある。そう、バイトを始めたと言う事だ。

だがここで言っていい事なのか? 言ったら言ったで……更に兄貴が追いつめられるのでは……。


 兄貴は何やら反論できる材料を探しているようだ。

彼女候補か……今の所、私としては琴音さんを押したい。

だが琴音さんの中で兄貴はどのあたりの位置なんだろうか。果たして彼氏候補として上がっているのか。


いや、たぶん上がってない。

結局、この前の琴音さん退院祝いパーティーでも兄貴はガクブルしていただけだ。


 その時、兄貴はブルブル震えながら口を開く。

なんだ、なんて言うつもりだ?


「お、お袋はどうすんだ……親父も死んで……誰がお袋の面倒見るん……」


「ふざけとんのかボケェ! 親の心配して自分の人生潰す気か! 私の気になれ言うとるやろうが! 息子が親の事を心配して恋人も作らずひたすら働く?! そんなもん母親にとって生き地獄やろが!」


お、おおぅ、確かに……。

しかしそこまで言うとは……お母ちゃんちょっと焦り過ぎでは……。


「あ、あのな! 彼女出来とったら、とっくに出来とるわ! 仕方ないやろが! 出来んもんは出来んのじゃ!」


あぁ、兄貴もキレてきた。

さて、オカンはどう反論……


「あんた、今まで彼女作ろうとした事あるんか! 待っとるだけじゃ出来へんわ! あんたにしてみたら、親がしゃしゃり出て来るのも不満タラタラやろうけどな! あんたこのままじゃ……」


あ、オカンが涙を浮かばせている!

本気で心配している顔だ!

そっとティッシュを取り、母親へと手渡す私。


「ありがと……晶の友達も若すぎるしなぁ……紹介してって言っても……三十路前のオッサンじゃあな……」


今のセリフは兄貴の心にクリティカルヒットしたようだ!

背中に重い岩を乗せられたように俯く兄貴。


む、むぅ……どうする……というかお見合いって……相手どんな人なんだろ。


 そっとお見合い写真に手を伸ばし、開いて見る。

ん? なにこの美人。写真には琴音さんと同じ……いや、それ以上に美人な人が写っていた。

ま、マジか、この人何歳? っていうか本当に独身?


「歳は二十五歳らしいわ。勿論独身やで。今まで付き合った男は、悉くクズやったみたいやわ……」


クズって……オカン、ちょっと口が過ぎますわよ!


「借金して消える奴に、パチンコにのめり込んで、その子の貯金持ち去る奴に……結婚の前日に別の女と出来とる奴に……あと何やったっけな……」


いや、もういいっす……確かにクズでした……。


「その点、大地はちゃんとした企業の正社員やし、女っ気もないし……バッチシやろ?」


確かに条件には合っているが……しかし兄貴は会う気ないだろ。

いくらこの人が美人でも。


「……晶、写真見せてくれ」


「ん? あぁ、はい。結構美人だけど……」


写真をマジマジと見だす兄貴。

一瞬驚いた顔をしつつ……ぁ、ちょっと心揺らいでる?


その時、私の脇腹を肘でつついてくるオカン。押せと言う事か。


「兄ちゃん、会うだけ会ってみれば? 向こうだって兄ちゃん見て即結婚なんて言い出すわけないし……ほら、女の人と話す練習だと思ってさ」


「う、うーん……でもなぁ……その、俺なんか釣り合うのか? この人と……」


イケる! これはイケる!


「兄ちゃん、会ってもいないのに……そんな事言ってどうするの! たぶんその人……顔で男選ぶような人じゃないよ。今までクズみたいな男に引っかかってたんだし……それに兄ちゃんそこまでブサイクじゃないし、身長高いし性格いいし……しかも一流IT企業の正社員なんだよ? 兄ちゃん絶対優良物件だって!」


シスコンで趣味が筋トレとかだけども……イケる! たぶん!


「ん……んー……でも、でもなぁ……」


あぁ、もうハッキリしろや! なんかムカついてきた!

オカンの気持ちが少し分かった気がする!

こうなったら……


「兄ちゃん、拓也って知ってるよね。私、あの子と付き合ってるから。ゆくゆくは結婚してもいいと思ってる」


「はぁ?!」


「はぁ?!」


オカンと兄貴が同時に同じリアクション。

いや、嘘だけども。しかし拓也なら私は別に構わない。

拓也なら……


「お、お前! 拓也君と?! 相手高校生だぞ! 付き合ってるって……」


「こ、高校生?! 年下なんか?! あ、晶……あんたどういう事や!」


ぁ、オカンまで釣られてきた。当然だが。


「お母さん、私バイト始めたんよ。その子もそこで働いてて……でも安心して? 今は健全なお付き合いだから。兄ちゃんも知ってると思うけど、拓也は真面目で礼儀正しい子だし……それに……」


それに……


「凄い……可愛い子だし……」


ぁ、なんか自分で言ってて恥ずかしくなってきた。


「ちょ、ちょっと、シャメとかあるん? 見せて見せて」


むむ、まあ仕方ない……じゃあ執事姿の拓也を……。


「あらーっ、この子? 可愛い子やなぁ……若い頃のお父さんソックリやわ」


噓つけ! そんな訳ないだろ!

琴音さんから貰った写真に写ってた父と思わしき人物に……拓也の面影なんて一欠けらも無いわ!


「それにしても……晶、いつのまにバイト始めたん? 一言欲しかったわ……」


ぁ、母が悲しそうな顔をしている! いや、それについては悪いと思ってるけど……


「いや、いつまでも兄ちゃんに頼りっぱなしじゃ……と思って……ごめん、勝手に始めちゃって……」


「晶……頑張ってるんやなぁ……ええよええよ、母さんは応援しとるからな?」


私を抱きしめながら頬ずりしてくる母。

そして再び兄貴に向き直る。


「大地、晶がこう言ってくれてるんや、あんたもしっかりし」


「わ、わかったよ……会えばいいんだろ……」


こうして……兄貴の初お見合いが決定した。


しかし……そういえば、この写真の人……どっかで見た事あるんだよなぁ……



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