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 さてさて、すっかり季節は冬。

窓の外を見ると岐阜駅周辺はすっかり雪に埋まっていた。

昨日頑張って雪かきしたのに!

なんてこった! しかも追い打ちをかけるように、月曜の朝から大雪で電車が止まっている。


「はぁ……大学どうしよ……」


このままでは昼まで行けない。

別に出席日数を気にしているわけではないが、私にとって大学は第二の家だ。

そこまで居心地良いのもどうかと思うが、行かないと何か落ち着かない。


「晶姉ちゃんー、ブルーレイ見よ」


むむっ、蓮君。晶お姉様は今そんな気分じゃ……

ってー! 君! その映画はグロいで有名なスプラッタな作品ですぞ!

そんな物を見るのか! 小学生一年生が!


「面白いよ?」


むむぅ、なんか心配になってきた。

もっと夢のある物を見なさい。私のブルーレイコレクションからアニメ貸してあげるから。


 自分の部屋に行き、ブルーレイコレクションがズラリと並ぶ棚の前へ。

さてさて、蓮君でも分かりそうなアニメ……攻殻○動隊シリーズはちょっと難しいかしら。

魔法少女的なこれも……三話あたりでグロいし……。

他には……むむっ、そうだ、これがあった!

不屈の名作、魔女の宅○便。これを見て箒に跨れば空を飛べると思ったのは私だけでは無い筈だ。


「蓮君、これなんかどうですかい?」


「ぁ、それ見たー」


なんだと! むむぅ、名作なだけに既に視聴済みか。

ジ○リシリーズは結構見てるかもしれない。

うーん、そうなると……。


「蓮君……恐竜、好き?」


「大好き!」


とてもいい返事だ! ならばコレを授けよう。

不屈の名作、ジュラシッ○パーク!

私も小学生の時に見て感動したものだ。地球上にこんなデカい生物が本当に居たのかと!

やっぱりデカい生物は男のロマン……私は女だが。


 ブルーレイをデッキにセットし、再生ボタンを押す。

しばらくして映像が映し出された。ちょっと昔の映画だが、クオリティは今の映画にも負けない!

私の中では映画ランキング上位の作品だ。


 ソファーに座り、映画を見ながら携帯で電車の運行状況をチェック。

むむぅ、今だに止まったままか。今日はもういいかな……。

と、その時いきなり里桜から着信が! むむ、どうした。

 蓮君が映画を見ているので、リビングから廊下に出て電話を取る私。


「おはー、どうしたー?」


『おはー。あんた、今日大学どうする? 電車も止まってるでしょ?』


うむぅ、ちょうどその事で悩んでたんだ。

電車がダメならタクシーって手もあるが……。


『あぁ、ダメダメ。車も出せないくらい積もってるから。私は今日諦めるわー』


ふむぅ。 で?


わざわざそんな事を言いに電話してきたのか、君は。


『いやぁ、そっちに春日さん居るっしょ? 涼が風邪曳いちゃって……親父殿が五月蝿いのよ。なんとかこっちに帰ってこれないかなぁって……』


むむ、涼ちゃんが風邪……。

それでパパさんが五月蝿いって……他にメイドさん居るだろ。この金持ちが。


『そんなに居ないわよ。っていうか一番涼が信頼してるの春日さんだから。他の使用人じゃ着替えすら嫌がるのよ』


我儘な子だ! だがそこがいい!

まあ用件は分かったでござる。春日さんに伝えておくけども……この雪じゃ移動できないぞ。


『そこを何とか……たのんます』


んな事言われても……。

まあ昼くらいになれば流石に電車は復旧するだろう。


『それでいいわ。なんだったらアンタも来る? ウチ来た事ないでしょ』


な、なにぃ! 里桜の豪邸にお邪魔するのか。なんか緊張するでござるよ。


『そんな期待されても困るけど……案外普通よ? あんたのマンションの方がよっぽど豪華よ』


ふむぅ。

まあ折角だし……この雪じゃ大学行ってる人も少なそうだしなぁ……。

あぁ、でも勉強しないと……。


『あんたいつから……そんな勤勉に……まあ、来るの? 来ないの?』


「まあ、行く」


『おっけー。じゃあ昼飯こっちで食べるよね。用意しとくからー』


そのまま電話は切れる。

ふむぅ、里桜の家か。普通とか言ってたけど絶対デカいだろ。

なんていったってリムジンを所有してるんだ。一般家庭レベルじゃ駐車する場所すら困るだろう。


 さて、じゃあ春日さんに伝えなければ。


朝食の支度をしている春日さん。

後ろから我が妻を愛でるように、お尻を撫でまわす私。


「うひゃ! ど、どうしたの晶ちゃん」


「いえいえ、良いお尻してるなぁって……あぁ、そんな事より……」


涼ちゃんが風邪を曳いてパパさんが大騒ぎしているという旨を伝える私。

すると春日さんはあからさまに焦りだした!

ど、どうしたの?!


「た、大変……! 早く帰らないと……蓮! 蓮ー! 帰る支度してー!」


え? え?! 帰っちゃうの? っていうか電車も車も使えなくてよ!


「大丈夫、私の車4WDだから! しかもスタッドレスタイヤ履いてるし。大丈夫でしょ!」




 そんなこんなで駐車場に赴く私達。

春日さんの車は見事に埋まっていた。どんな車かすら分からないくらいに。

しかも駐車場内部も膝まで雪が積もっている。脱出する事すら難しそうだ。


「な、なんじゃこりゃー! ど、どうしよう晶ちゃん! このままじゃ……パパさんが危ない!」


なんでパパさん?

風邪ひいてるのは涼ちゃんの方……。


「いや、パパさん……前に輸血するとか言って……自分の腕に注射器刺して血抜き始めて……」


何ぃ!! そんなんで輸血出来る訳ないだろう! 

っていうか輸血する程の大けがを負ったのか?!


「んー……涼ちゃんに……初めての女の子の日が来た時に……」


なにしてんだ、パパさん。

そこは赤飯炊くところだろう。あんたの血なんて不必要よ。


「まあ、何はともあれ……パパさん放っておくと何しでかすか……晶ちゃん! 雪かきするわよ!」


へ、へい! じゃあ大家さんに道具借りて来る!


 大家さんに事情を説明し、雪かきの道具を借りる私達。

むむ、そういえば他の住人達は車使わないのか? 駐車場の雪はまっさらだったが……。


「今日は祝日だし……仕事の人は居ないんじゃない?」


あぁ、そうか……。今日は祭日か。私の大学はそんなん関係ないからな……。


「そういう事なら……澤田さんにも声かけてみようか。あの人、雪かき得意だったし……」


むむ、あのチャラ男か。

まあ人手は多い方がいい。昨日の借りを返してもらうぞ! チャラ男!

肉まん買ってきてもらったけども!


 大家さんがチャラ男を呼びに行き、私は駐車場へと。

むむ、蓮君が楽しそうに雪で遊んでる。春日さんは必死に車に乗った雪を素手で取り除いていた。


「うぅ……冷たい……」


「春日さん、道具ありますから! 一気に終わらせましょう! 道路まで出ればこっちのもんです! たぶん!」


春日さんに道具を渡しつつ、車が出れるように雪かき開始。

とりあえず出口までの道のりを確保するのだ!


《十五分後》


はぁ……はぁ……終わらねえ。

終わる気がしねぇ。やっと車の雪を落してみたものの、今度は落とした雪が行く手を阻む。

むむぅ、春日さんの車……車高高いからまだマシかもしれんが……。


「うーっす」


その時、昨日のチャラ男が現れた!

このクソ寒い中、ハーフパンツにTシャツという格好で。

マジか、元気だなチャラ男。


「雪どかしゃいいんだろ? それ貸して」


チャラ男にスコップを貸す私。

ふむ、見せて貰おうか。チャラ男の性能とやらを!


《十五分後》


「こんなもんか」


マジか、ぱねえ。

新潟出身凄え、と素直に思った。

なんでこんなスムーズに……。


「地元じゃ、この数倍は降るからな。下手したら家埋まる」


成程。このくらいは朝飯前と言う事か!


「じゃあ大家さん、約束通り……」


むむっ! このチャラ男!

まさか大家さんと取引してたのか!

お金か?! 家賃か?! それとも体……


「あぁ、朝ごはんなら好きなだけ食べていってよ」


朝飯かい!

案外普通だな! チャラ男のくせに!


「ところで……そっちの人、誰?」


ボソボソっと小声で私に春日さんの事を尋ねて来るチャラ男。

まさか……好みのタイプか?

ところがどっこい! 春日さんはもうすでに私の妻だ!

貴様には勿体ない! 


 しかしその時……


「ありがとうございます! えっと……」


「澤田です。美しいお姉さん……」


何言ってんだ、チャラ男。

春日さんは渡さんぞ! と間に入る私。


「なんだよ、邪魔すんなよ」


「春日さん逃げて! この人はダメ! チャラいから!」


「なんて事言うんだ! 俺はこう見えて硬派だぞ!」


信用できんわ、というかさっさと大家さんの所で朝飯食ってこい!


シッシ、と追い払う私。

散々働かせておいてどうかとも思うが、春日さんを守る為ならば仕方ない。


「晶ちゃん……ごめんね、気使わせて……」


「え? いえいえ、全然そんな事……」


「じゃあ行こうか、チャラ男さんのお陰で思いのほか早く雪かき終わったし!」


うむ、行こうず! 里桜の家へ!


その時、私は思いもしなかった。


まさかあんな事になるなんて……



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