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昼間に雪かきをしました。真田 晶です。
現在、春日さん母子と共にお鍋を囲んでいます。
なんかものすごくいい匂いがする! ちなみにまだ鍋の蓋は開け放たれていない。
「じゃあ晶ちゃん、質問です」
「え? な、なんすか……お鍋早く食べたい……」
なんの前フリも無く、春日さんから質問コーナーが勃発する。
なんだ、一体何が始まるのだ!
「今、晶ちゃんは大きなお城に住んでいます」
「住んでませんけども……ここマンションだし……」
いいから、と春日さんは質問を続ける。
お鍋の蓋の……なんかちっさい穴から湯気が出始めている!
まだ?! お鍋まだ?!
「そのお城の地下には何がありますか? A.宝物庫 B.拷問室 C.お墓」
むむ、なんだ、心理テストか?
昔流行ったな……まあ直感で言えばBの拷問室だが……。
いや、ここは平和的に宝物庫と答えておこう。
「じゃあAの宝物庫で……」
「ふむふむ。なんで?」
なんで? なんでって……宝は一杯あった方がいいじゃないですか……。
「うふふ、晶ちゃんったら……そんな目で私の事見てたの? やだぁ~」
「え?! ちょ、今の心理テストなんなんですか!」
「それは私の口からは言えないわ」
何で!
そんなこんなで?
お鍋が完成する! ふぉぉぉ、なんかいい匂いが……お腹空いた!
「はいはい、今日は塩ちゃんこ鍋でーす。一杯食べてねー」
おおぅ、煮えたぎる鍋の中に肉と野菜がふんだんに!
いただきます!
うふふ、妻子と一緒に鍋を囲む幸せ……。
最高ですな! お玉でまずは汁を取り、鶏肉の御団子と白菜、そしてマイタケ!
キノコ系好きでござる。
まずは鶏肉の御団子から頂く私。
ふぉぉぉ、味が染みて美味しい!
「ほんと? よかったー。それ私が作ったんだけどね」
蓮君のお皿に盛り付ける春日さん。
しかし蓮君は何処か不満そうな顔をしている。
むむっ、もしかして嫌いな物があるのか?
「お母さん……キノコ要らない……」
なんだと! ダメよ! キノコ食べないと大きくなれないわよ!
「だって美味しくないもん……」
なんて事言うんだ、このお子様は!
好き嫌いしてると女子に嫌われるぞ!
「そうそう、ほら蓮ー、晶お姉ちゃんに嫌われちゃうよー?」
「……ホント? 晶お姉ちゃん……僕の事嫌いになっちゃうの?」
なんかデジャブ。
子犬のような目で見つめて来る蓮君。
っく……こんな目で見られて……嫌いなんて言える訳……
「晶ちゃん……そこは嫌いって言ってくれないと……」
ぁ、やっぱデジャブ……。
まあ、嫌いでござる。
「うぅぅうぅぅぅっ」
途端に泣きそうな顔をしながらマイタケを齧る蓮君。
前から思ってたけど……私好かれてるよな。
しかし蓮君……私は君のお母さんと結婚してるから……
「いや、してない、してないよー? 晶ちゃん」
なんだと……!
春日さんは私の嫁では無かったのか!
鍋をつつく事一時間。
お腹ぽんぽんやー、とタヌキのようにお腹を摩る私。
ものの見事に鍋の中身は汁と多少の具だけに。
「じゃあ明日の朝はおじや作るね」
むむっ! それってもしや鍋の残り汁を使って……
マジか、それ凄い美味しそう。なんて出来る妻なんだ!
「ぁ、そういえば晶ちゃん……クリスマスって予定ある?」
クリスマス? あぁ、夜道を歩くカップルを血祭りにあげる特別な夜ですね。
「うん、ごめんね……なんか心の傷を抉ったみたいで……」
「いえいえ、それで……クリスマスパーティーするんですか?」
と、春日さんが鞄から出してきたのは何やら豪華な封筒。
なんだ、このキラッキラにデコられた封筒は……。
「涼ちゃんからの招待状。クリスマスパーティーやるからって……」
「にゃんと……私が行っていいんですか?」
勿論、と頷く春日さん。
ふむぅ、金持ちのクリスマスパーティーか。なんか凄そう。
お肉とか沢山……。
「ぁ、それと……琴音さんたちの分も預かってて……執事喫茶じゃ渡しにくいからって……。晶ちゃんから渡しておいて貰える?」
ん? なんで渡しにくいんだ。別に普通に……
「ほら、他のお客さんの居る前じゃ……涼ちゃん、ああ見えて気の小さい子だし……」
そ、そうなのか。私初めて会った時、泥まみれの雪だるまって言われたけどな。
まあいい。そういう事なら渡しておこうぞ!
「ありがとう、他に誰か呼ぶ? なんか忘れてる気がするけど……」
「ん……言われてみれば……誰か忘れてるような……」
むむ、誰だっけ……。
琴音さんに拓也に……私に春日さんに蓮君に……。
ぁっ、冬子先生とか?
「あぁ、冬子さんなら誘ったけど……遠慮しとくって。今年のクリスマスは夫婦で静かに過ごしたいからって……」
にゃんだとう! 許せん! 私の冬子先生が!
「まあまあ、晶ちゃんには私が居るじゃない」
「うぅ、我が妻よ!」
言いながら抱き付く私。
一緒になって蓮君も抱き付いてきた。二人で春日さんに甘えてみる。
「あらあら、大きな子供が……」
と、その時インターホンが鳴った。
むむ、誰じゃ?
「お兄さんじゃない? って、ぁ……」
「兄ちゃん……ん?!」
クリスマスパーティーの招待状を見つめる私と春日さん。
そうだ……あと誘うとすれば……兄ちゃんか!
すっかり忘れてた!
玄関まで兄貴を出迎える私達。
そっと扉の鍵を開けて、中へと迎える。
「ただいまー……って、春日さん来てたんですか」
「はい……ごめんなさい、お兄さん……忘れてて……」
「ごめんよ、兄ちゃん……忘れてて……」
いきなり謝られて固まる兄貴。
え? なにが?! とオロオロしだした。
「お兄さん! 私で良ければお背中流します! お風呂にします? シャワーにします? それとも私にします?!」
「え、ちょっ! 春日さん、それ選択肢一択しかないですよね!? 俺の事は気にしなくていいですから!」
「遠慮しないでください! さあ、さあ! 疲れた体を癒しましょう!」
そんなこんなで……半分暴走する春日さんを振り切って脱衣所に避難した兄貴。
春日さんは兄貴の為にご飯を作り始めた。
塩ちゃんこは食べちゃったからな……春日さん今度は何作るんだろ。
まあ私はもうお腹一杯だし……歯磨いて寝るか。
蓮君は既にオネムモードに入っている。むむっ、まだ歯磨いてないぞ! チミィ!
「磨く……」
凄い眠そうに洗面台へと向かう蓮君。
私も一緒に鏡の前に立ち、二人で歯を磨き始めた。
むむぅ、なんか弟が出来たみたい。可愛いなぁ……なんかちょっと琴音さんの気持ちが分かったような気がする。
「晶姉ちゃん……今日一緒に寝よ?」
ぎゃー! なんて可愛い事を!
良かろう! 一緒に布団に入ろうぞ!
あれやこれや……イタズラしつくしてやる!
歯を磨き終え、蓮君と手を繋いで和室へ。
むむ、すでに布団が敷いてある。なんかいやらしいな。
これからこんな小さな子と……私は一夜を共にするのか。
「おやすみ……」
蓮君と一緒の布団に入る。
暖かい。すぐに睡魔が襲ってくる。
あぁ、眠い……。
クリスマスパーティーか……楽しみだなぁ……




