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 11月23日 (木)


 琴音さんに子マントヒヒと言い放った男が私の兄だとバレていた!

何故だ、何処でバレたのだ。

 いや、そういえば……琴音さん、兄ちゃんと何処かで会った事があるみたいな事言ってたな。

同じ岐阜に住んでるんだし……偶然何処かで顔を見ただけだと思ってたが……。


 そんな事を考えつつ、私は今オマール海老がトッピングされたカレーを食している。

美味しいんだけど……なんか気になって仕方ない。


「琴音さん……兄ちゃんと会った事あるんですか?」


美味しそうにカレーを頬張る琴音さん。


「ん? ふぉうふぇえふぁ、ふぉんふぁふぉふぉいっふぇふぁっふぇ」


ぁ、いえ……口の中の物食べてからでいいですのよ。


「ん……そういえば、そんな事言ったっけ、私。んー……会った事あるっていうか……どうしようかなー……」


え、何が? どうしようかなって……


「晶ちゃんには……いつか話した方がいいと思ったんだけど……前に晶ちゃんにあげた写真の人って……もしかして……」


前……あぁ、父らしき人が写った写真だな。

ぶっちゃけ私は分からん。父の顔は知らんし、母親と兄貴に確認したわけじゃないし……。


 琴音さんは私の顔を観察するように数秒見つめ、すぐにまたカレーに夢中に。

むむ、なんなんだ。


「まあ、その事はおいおい……はい、あーん」


唐突にオマール海老を「あーん」された私。

口を開き、琴音さんのスプーンへ食いつく。

よし、ではお返しに私のオマール海老を……


「琴音さん、あーん……」


「あーん……」


むむ、琴音さん、あーんすると目瞑るのか。

なんか私の中で琴音さんって……レッサーパンダ的なイメージなんだよな……。

餌付けしてる気分だ。だがそこがいい。


「美味しい……このサラダにも小エビ乗ってるね~」


カレー三つにサラダ。

さて、唐突ですが里桜さんに問題です。


「なによ、いきなり……」


ロブスターとオマール海老の違いは何でしょう!

正解したら私のオマール海老を少し「あーん」してやろう!


「違いなんて無いわよ。英語とフランス語で読み方違うってだけでしょ」


え、そ……そうなの?


「いや……むしろアンタ、何処が違うと思ってたのよ」


いや……形状? ロブスターはデカいザリガニで、オマール海老はデカい伊勢海老……


「両方ともデカいザリガニよ。今度家で嫌って言う程食べさせてあげる……って、そうだ、思いだした」


ン? 何を思いだしたのだ、里桜たん。


「琴音さん、今度私の家でクリスマスにパーティーやるんだけど……来る?」


ピタっとカレーを食べる手が止まる琴音さん。

すっごい行きたそうに目を輝かせているが……


「え、う、うーん……ごめん、折角なんだけど……」


え、琴音さん行かない気か?!

クリスマスパーティーだぞ!

行こうず!


「い、いや……実は……クリスマスは……」


「いいじゃん、行こうよ、姉さん」


その時、拓也執事がやって来た!

後ろからお冷やをコップに注ぐ拓也。


「いや、でも……クリスマスは……」


「僕も行っていいですか? 里桜さん」


里桜は勿論! と親指を立てて了承する。

しかし琴音さんは何処か浮かない顔だ。

クリスマスに何かあるのか? 


 私が琴音さんに事情を聞こうとしたその時、執事喫茶の扉が勢いよく開かれた。

むむ、今日は貸し切りだ。なので入店してくる人は当然ながら琴音さんの知り合い。

さて、一体誰が来たのか……


「おう、久しぶりだな」


入店してきたのは冬子先生と花村教授。いや、もう教授じゃないか。

二人で仲良く入店とは……まるで夫婦の様ですな!


「っていうか入籍してきた」


へー、入籍してきたんだー。


って、何ぃ?! 入籍?!

ど、どういう事?! 私の冬子先生が……花村助手の物になっちゃったって事?!

私何も聞いてないでござるよ!


「だから今言ったんじゃん……なんか美味そうなもん食ってるな。カレーって食ってもいいのか? 渚」


ふふ、オマール海老トッピングのカレーですぞ。

って、食っていいだろ。何で確認してるんだ。


 花村教授は頷きつつ


「甘口ならいい筈……」


ん? 冬子先生辛いの好きだったっしょ。

なんで甘口限定?


 そのまま別の近いテーブルに座る冬子先生。

なんだろう、いつもと雰囲気違うな。久しぶりに会うからかもしれんが……


なんか静かだ。


「退院、おめでとう、柊さん」


琴音さんに挨拶する花村助手。

そういえば面識あるんだっけ。同じ中学の先輩後輩……って、そうだ!


「冬子先生! なんで黙ってたんですか! 花村教授が中学時代の先輩だったって……」


「五月蝿い、真田五月蝿い」


そのままお腹を摩りながら黙ってしまう冬子先生。

むむ、なんかおかしい。いつもの冬子先生じゃない。


いつもなら……


『うるせえ! 黙ってろ! 過ぎた事をほじくり変えすなアホンラダケ!』


とか言いそうなのに……。


 そんな冬子先生の様子に、同じように疑問を抱いたのか、里桜はそっと席を立ち冬子先生の顔を覗き込む。冬子先生は里桜から顔を反らし、何処か素っ気ない態度。


「まさか……冬子先生……」


「な、なんだよ……」


なんか冬子先生がソワソワしてる。

里桜は何か気づいた様だ。続いて琴音さんも


「え、嘘……わ、私の冬子さんが……」


とか言いながら顔を両手で覆う。


え? え?! 何? どうしたの?!

ちょ、何が起きたの?! 私だけ分からぬ! 誰か説明プリーズ!


「冬子……ほら、ちゃんと皆に言ってあげた方が……」


冬子先生を呼び捨てにして話しかける花村助手!

マジか、もうそんな仲に!

許せん! 冬子先生は私のなのに!


「誰がお前の物だ……あー、もう……その……なんだ」


歯切れが悪いな、ハッキリと言いなさい!

ほれ、さっさと!


「ぅー……渚ぁ……」


なんか甘えるような声で花村教授の手を握る冬子先生……ってー!

ちょ、待てコラぁ! 私だってそんな事された事ないのに!

ずるい! 花村助手ずるい!


「えっと……冬子、できちゃったみたいで……」


……できちゃった?

え、何が?


 私が首を傾げる中、里桜と琴音さんは同時に拍手喝采。


「ほ、ほんとに!? お、おめでとうございます! 冬子先生!」


「冬子さんついに……おぉー!」


え、え? なんでそんな盛り上がってるん?

分からん! 私の冬子先生に何があったんだ!


「真田、ちょっと来い」


冬子先生に呼ばれ、傍に歩みよる私。

そのまま手を引かれ、椅子に座る冬子先生と目線を合わせるようにしゃがむ。


「私の腹に耳当ててみろ」


え? え? 何……?

言われた通り、冬子先生のお腹に耳を当てる私。

そのまま抱きしめられるように冬子先生に包み込まれる。


「聞こえるか?」


「え、えっと……まさか……」


「子供の心音、聞こえるか?」


ぎゃぁあぁあぁ!

そのまま逃げるように後ずさりしつつ、震える私。


「ま、まさか……冬子先生……に、妊娠……」


「正解だ。ニブすぎんぞ、お前」


そのまま花村教授を睨みつける私。

ゆっくりと立ち上がり、昔アニメで見た暗殺術の構えを……


「落ち着きなさい、気持ちは分かるけど……っていうか、もう心音聞こえる程なんですか? 冬子先生……」


里桜に止められ、なんとか落ち着こうと深呼吸。

むむ、そうだ。心音なんて聞こえんかったぞ。冬子先生の腹の音は聞こえてきたが……


「いや、まだ三ヶ月過ぎたくらいだ。渚がどうしてもって言うから……」


「えー……甘えてきたのは冬子の方……」


き、貴様! 私だって甘えられた事ないのに!

許せん……花村助手は私の中で永遠の敵に……


「そんな邪見にしないでほしいな……真田君は僕と冬子のキューピットなんだし……」


ぅ……そう言われれば……。

確かに花村助手を冬子先生の病院に連れて行ったのは私だが……。


っく……ここは大人の対応で素直に祝うべきだ!

大人の対応……大人の対応……


素直に……


ひたすら素直に……




「冬子先生……おめでとうございます……そして花村教授……地獄に落ちろ」





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