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(3)

 名古屋発祥の台湾らーめんを食した私と拓也。

そのまま名古屋駅から再び出ると、外は先程とは別世界のように冷え込んでいた。

しかし私達にとっては涼しいだけだ。台湾らーめんで体の芯から熱くなっていたから。


「うへぁー、気持ちいーっ、やっぱ冬は寒くないとテンション上がらないねぇ」


「晶さんはある意味冬を攻めてますよね……夏でも過ごせそうなファッションですし……」


まあ普通履かないよな。冬にホットパンツ。

しかもラーメン食べて暑いからカーディガンも脱いでしまった。

私にだけ真夏が到来したのではないかという格好だ!

 

「じゃあ行こうか。私がいつも言ってる店、あっちのビルに入ってるから」


「も、もしかしてミッドランド○クエアですか? ぼ、ぼく一回行ってみたかったんです!」


おおぅ、じゃあ行こうず。

色々見て回ろうではないか。なんかデートっぽくなってきたな。

 名古屋駅から徒歩ですぐ傍に目的のビルは建っている。

うぅ、なんか少し肌寒くなってきたな。

まあ仕方ない。カーディガン羽織ってやるか。


「晶さん大丈夫ですか? 僕のセーター貸しましょうか?」


「いや、大丈夫大丈夫……。その下って何着てるの?」


今拓也はダボダボのタートルネックのセーターを着ていた。

まあ恐らくTシャツだとは思うが。


「中は……高校の体操服を……」


うぉぉい! なんでそんなものを……! ある意味レアだけども!


「いや……実はこのセーターも姉のなんですけど……あまり服にお金かけたくないので……」


「じゃあ……そのスカートもお姉さんのなの?」


私好みのロングスカート! むむっ、拓也のお姉さんに会いたくなってきた。


「一応姉さんのです。押し入れに仕舞い込んであったのを引っ張り出してきました」


ふむぅ、そうなのか。当然だけどお姉さんは拓也の女装趣味の事なんて知らないよな。


「当たり前じゃないですか。バレたら僕……荷物纏めて晶さんの家でお世話になります……」


「あぁ、別にいいけど……いや、ダメだ。まだ高校生なんだから……下手したら私犯罪者じゃん」


部屋の中に高校生を連れ込んで淫らな行為を……とニュースで流れかねない。

そんな事になったら兄貴が何て言うか……。


「そういえば晶さんも……お兄さんが居るんでしたっけ。どんな人なんですか?」


「どんな人って言われてもなぁ……シスコンだけど優しいし……いや、シスコンだからか?」


最近は収まってきたが……昔は本当に酷かった。私が男の子に泣かされて帰ってきた時など、既に高校生だった兄は相手の家に殴りこもうとしていた。必死に母が止めるのを今でも覚えている。

 

「僕の姉は……必死に両親の変わりになろうとして……道を間違えたって感じでしょうか……」


え、どういう事?


「なんていうか……朝起きたら、まずする事が母校の校歌斉唱なんですよ。歌いながら歯磨たりしてて……」


変わったお姉さんだな。


「あと良く……白鳥の舞とか言いながら踊ってます」


か、変わったお姉さんだな……。


 そんなこんなでミッドランド○クエアに到着!

さぁて、早速下着行くか? それとも色々見ながら行くか?


「折角ですし……色々見てみましょう! 晶さん何か買わないんですか?」


「んー……そうだなぁ……」


今得に欲しい物ないし……ぁ、ボールペン……。


「ボールペンですか?」


「うん、大学で使ってるの切れちゃったんだよね。まあ別に100均の沢山入ってる奴でいいんだけど……」


「なら、一本良いの買いましょうよ。今日のお礼に僕がプレゼントします!」


いや、君さっきラーメン奢ってくれただろう。それで十分でござるよ。


「いやぁ、なんか形に残る物がいいじゃないですか。僕と晶さんの初デートの記念に……」


初デートの記念……なんかカップルっぽいな! い、いかん! 高校生に手を出したらポリスに捕まってしまう!


って、拓也君……なんか顔赤くないか?


「き、気のせいです! じゃあ雑貨屋行ってみます?」


うんむ。では参ろうぞ。

そのままとりあえず1Fのフロアを見て回る。

ジュエリーやら皮革雑貨を扱ってる店が多めだ。この辺りは縁が無いな。


「ぁ、ボールペンありましたよ……って、え?! 十万以上……」


「宝石付か。拓也君……太っ腹だな」


「ちょっ、すいません……僕にはまだ手が出せないッス……」


いやぁ、冗談だって……って、イカン! 店員と目が合った!

あぁ、店員さんが近づいてくる! た、退散だ!

 そのまま拓也君の手を取り、その場を去る。

危なかった……危うく借金王になるところだったぜ……。


「晶さん……手柔らかい……」


ふにふにと私の手をマッサージしてくる拓也君。

何をするんだね、くすぐったいではないか。


「いいなぁ、爪も綺麗だし……」


「爪? 拓也君だって綺麗な爪してるじゃない。ぁ、そうだ……」


良い事思いついたでござる。

とある店の前まで拓也君の手を引いて連れて行く私。


「え? こ、ここって……」


「うむ。ネイルの店だ。よし、いくぞ」


そのまま入ろうとする私。だが拓也君はブロンズ像のように動かない!

どうした! 怖気ずいたのか!


「い、いや、だって! 女性限定って書いてあるじゃないですか! い、いくらなんでも無理ですっ」


「大丈夫大丈夫。私に任せなさい」


そのままネイル専門店に入りつつ、私は召喚魔法を行使する。


「デビルマツダー、きたぞー」


すると奥から一人の店員が。


「ああん? 誰かと思えば……男装女じゃない」


もじゃもじゃのパンチパーマにゴツイ体。

一見男だが、勿論男だ。


「お久ぶりッス。ちょっとこの子の爪、手入れしてあげてくんない?」


いいつつ拓也君の肩を掴みながら前に出す私。

デビルマツダはマジマジと拓也君を観察……すると


「あんた……随分レベルの高い子連れて来るわね。久しぶりよ、こんな可愛い男の娘」


「でしょでしょ?」


拓也君を挟んで楽しそうに笑うデビルマツダと私。

肝心の拓也君は氷のように固まっていた。


「おーい、どうした? 生きてる?」


「い、いきてますとも! っていうか、な、なんで分かるんですか!? バレた事ないのに……っ」


ほほぅ、自分の女装スキルに自信あるんだな、拓也君。

まあ私も最初は分からんかったけど。


「甘くみられた物ね。私はここで数百という男の娘を見てきたのよ。分からない筈ないじゃない」


流石はデビルマツダ。あなどりがたし。


「ちょっと爪見せて」


怖ず怖ずと手を差し出す拓也君。

デビルマツダは優しく手を取り、そっと爪を撫でる。


「ふぁっ……」


ふふ、拓也君……なんか変な声が出たぞ?


「ふーん。顔は可愛いけどダメね。手入れがなっちゃいないわ!」


そのままデビルマツダは拓也君と私を奥のブースに連れて行き、テーブルを挟んで向かい合うように座る。


「はい、手だして。軽くヤスリ掛けるから」


「ぁ、はぃ……お願いします……」


リストレスト(手首の枕みたいな奴)に手を置きつつ、デビルマツダの絶妙テクが炸裂する。

爪にヤスリを掛ける小気味いい音が……あぁ、いかん、この音聞くと眠くなるんだよな……。


「ふぁ……」


思わず拓也君もアクビをしてしまう!

ふふふ、私も初めてやってもらった時……爆睡してたな。気が付いたらデコられまくっててビックリしたけど。


「気持ちいでしょ、拓也君。こうみえてもデビルマツダは……この道二十年のベテランだから」


「に、二十年?! え、デビルマツダさんって……」


「その先言ったらピカ○ュウ書くわよ。大人しくしてなさい」


はい……と素直に頷く拓也君。

しかし眠そうだ。寝てもいいのよ。私が見張ってるから。


「別に変な事しないわよ。アンタの時は女をムダにしてるのを見てムカついただけよ」


「デビルマツダも男をムダにしてるじゃないッスカ」


そのゴッツイ筋肉が泣いてるぞよ。


「いいのよ私は。でもアンタはダメよ」


り、理不尽だ!


「女は人生で三度死ぬのよ。あんたもう一回死んでるんだから。無駄にするのは許さないわ」


なんかそれ漫画で読んだ気がする……。

むむ、しかしそれよりも……


「デビルマツダ、お客さん少ないね。前はもっと居たのに……」


「時間考えなさいよ。休日の昼過ぎに来る暇人はアンタ達くらいよ。はい、右手は終わり。クリーム塗るわね」


爪の先端と表面にヤスリを掛け終えたようだ。

そのまま手全体にクリームを塗られながらマッサージされる拓也君。

おおぅ、気持ちよさそうだな。このゴッツイ手がまた……


「悪かったわね、ゴッツくて。はい、次左手だして」


引き続き左手の手入れをしてもらう拓也君。

なんか見てたら私もやってほしくなってきたな……。


「何モジモジしてんのよ。心配しなくてもアンタもやってあげるから。大人しくしときなさい」


おおぅ、デビルマツダ優しい。


「アンタは有料だからね」


うぅ、デビル……


 その後、十五分程で拓也君の爪の手入れは終わった!

なんかレベルアップした気がする!


「なんか付けてく? 貴方可愛いからサービスしてあげるわ。その代わりまた来なさい」


しっかり営業してんなー……。


「当たり前でしょ。ここから好きなの選んでなさい。その間に……ほら、晶、アンタは足からよ」


「えっ、いいッスヨ。手だけで」


「ダメよ。今日は雪降るかもしれないってのに……なんちゅう格好してんのよ」


え、えぇ……ダメ? っていうか雪!?

マジか。電車大丈夫かな。


「暖冬だった分、結構降るみたいよ。今日は早めに帰った方がいいわね」


「いや、それなら尚更……手だけで……」


「ダメっつってんだろ、さっさと座れコラ」


「は、はぃ……」


うぅ、なんで私だけ……その辺にミニスカ履いてる奴いるじゃない!

靴と靴下を脱いで椅子に座る私。そのままデビルマツダの膝の上に女王様のように脚を乗せて……


「その辺の奴なんて知らないわよ。アンタだからよ」


蒸しタオルで足を包まれ、丁寧に拭かれる。うむぅ、これも気持ちいでござる。ちょっとくすぐったいけど。そのままクリームを手に取って塗りたくるデビルマツダ。


「アンタを見てると心配になってくるのよ」


な、なんかデビルマツダが優しい……もしかして私に恋してたり……


ってー!


「いだだだだだ!!! デビルマツダ! 足つぼ痛い! 超痛い! 内臓出る!」


「出るわけ無いでしょ。アンタ地球人でしょ」


いや、実は私はチャルメラ星の……


「っていうかアンタ達ニラ臭いわね。ラーメンでも食べてきたんでしょ」


「ぁ、分かる? 台湾らーめん食ってき……いだだだだ!!」


ちょ、なんで!? 痛い! 痛いでござる!


「言葉使いに気を付けなさい。女の子なんだから」


「アンタは私のオカンか!」


っていうか私は……本当は男に生まれたかったんだ……!

言葉使いなんて……


「年寄の言う事は聞いておくものよ、もっとちゃんとしなさい」


「あぁ、流石……四十代前半は言う事が違う……いだだだだだ!!!」


そのまま私の足つぼ拷問は三十分程続いた。


 結局デビルマツダが満足するまで全身揉みほぐされ、爪も綺麗にしてもらった私。

なんだか体が軽いわ。


「また顔出しなさいよ。じゃあね、貴子ちゃん」


「ぁ、は、はい、ありがとうございましたーっ」


あの後、拓也はラメ入りのマニキュアを塗られて終始ご機嫌。

うっとりと自分の爪を眺めていた。


「良い人でしたね、晶さん」


「ん? あぁ……なんか私、目の敵にされてるような……」


「なんとなく気持ちは分かりますけど……デビルマツダさんの」


むむ、何男同士で通じ合ってるんだ。

しかし拓也君はすっかりデビルマツダのファンになってしまったようだ。

まあ、良い人っちゃ良い人だけども。

 

 さて、なんか雪降るとか言ってたから……さっさと下着買って帰るか。

そのまま2Fの下着ショップへ。

さてさて、まずは貴子ちゃんのサイズを測ろうか。

当然店員に任せるのはNGだが、そういう人の為に大抵メジャーが試着室に置いてある……筈。


「いらっしゃいませー」


「あ、すいません、この子のサイズ測りたいんで……」


「……? あぁ、どうぞー」


ん? 何か今……間があったような……。

まあいいか。気にしたら負けだ。


「貴子ちゃん、入った入った」


試着室の中に押し込んでメジャーを手にする私。

よし、脱げ。


「え? ぁ、はい……」


恥ずかしそうに服を脱ぎだす貴子ちゃん。

むむ、セーター脱いだら普通に男子高校生だな。肩幅広い。


「あ、あんまり見ないで……っ」


「はいはい、そういうのいいから。胸から測りますぜ」


さてさて、拓也君のバストはどのくらいかしら……えーっと……85cm……って、結構あるな。

アンダーもトップも無いからアレだけども……まあ大き目の持ってきてひたすら着けさせれば……。


「あの、晶さん……僕どのくらいなんですか?」


「え? んー……揉めるレベル」


「いや、もっと具体的に……」


そんな事言われても分からぬ!

男のバストサイズなんぞ測るの初めてだし……まあいいや、次はお尻だ!

下を脱げ!


「ぅ……は、はぃ……」


そのままスカートを脱ぎだす拓也君。

おおう、本当にブルマ履いてる……っていうか脚綺麗だな。

その辺の女よりよっぽど……


「晶さんには負けますけど……」


「そんな事ないぞよ。えーっと……」


お尻のサイズは……90cm……って、男って尻小さいと思ってたけど結構あるな!?

腰回りが女とは違うからか? むむぅ、良くわからん。


「晶さん? どうしたんですか?」


「いや、貴子ちゃんのナイスバディに驚いてる所……じゃあ適当に持ってくるから。デザインどんなのがいい? 可愛い系? セクシー系?」


「可愛い系で……」


了解、とそのまま試着室を出る私。

可愛い系か……ふむふむ、どれがいいかな……。

と、選んでると別のお客さんと肩がぶつかった。


「ぁ、すいませ……ん?」


あれ? 


「あぁ、いえ、こちらこそ」


ん? んぅ?! 

あれ? なんで貴子ちゃん外に……


「ちょ、貴子ちゃん、外出ちゃダメだって」


「はい?」


女性客は首を傾げつつ、何言ってんだコイツ……という目で私を見て来る。

あれ、そういえば拓也君にしては背が高いし……ちゃんとおっぱいもある……。


「あの……誰かと間違えてませんか?」


「え、あぁ、すみません……」


会釈しつつ謝る私。

女性客は「いえいえ~」と気さくに去っていく。


 世の中には三人くらい似てる人が居るっていうけど……拓也君にソックリだったな。

違うのは背丈くらいか……。

おっと、下着を選ばなくては。


 三着ほど上下揃った下着を試着室に持ち帰り、拓也君に見せる私。


「どう? 可愛いでしょ」


「は、はぃ……すごく……」


ゴクっと唾を飲む拓也君。ふふふ、どうだ私のセンスは。

男の子が気に入るようなフリル付! そしてレース! 止めにイチゴ柄!


「んー……じゃあ、コレ……」


拓也君が選んだのはフリル付。

ふふふ、可愛い奴め! これで君は男をメロメロにするのだ。


「じゃあブラ付けてあげるから。バンザイして」


「は、ハィ……」


試着室に置いてあった汗拭きシートで拭きつつ、バンザイした拓也君の胸にカップを当て、背中のホックを……

と、その時いきなり試着室のカーテンが開かれた!

さっきの女性客だ!


「あ、す、すいません!」


すぐにカーテンを閉める女性客。

うわぁ、靴並べてあるだろ、分かるだろ普通。

まったく、もっと気を付けてほしいものだ。


「……な、なんで……」


その時、拓也君は顔面蒼白で冷や汗をダラダラと垂らしていた。

な、なんだ、どうした?


「ど、どうしたの? 顔色悪いけど……」


拓也君は震えながら


「い、今の……僕の姉さんです……」


この世の終わりみたいな顔をする拓也君。


って、なんじゃと!?


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