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 琴音さんの体は順調に回復しつつある。

あれから二ヶ月。多少強引な展開だが気にしない。


「ぁ、拓也きゅんー、おはーっ」


私と拓也は、それぞれ夏休みに入ると毎日のように琴音さんの所へと通った。

現在は八月、夏休み待っ最中。


 琴音さんはギブスも段々と取れ、今は上半身を起こして食事も出来る。

事故にあった当初は一人で食事など出来なかったが、今はもう普通にパクパク食っている。


「姉さん、顔の傷……だいぶ良くなってきたね」


そう、琴音さんの顔には大きな傷があったそうだ。

ガラスの破片が刺さり、一カ月程前までは顔に包帯を巻いていた。

しかし今はそれほど目立たなくなっている。


「まあ、そんなに深く無かったのかな……ぁ、拓也きゅん、もうすぐリハビリ始まるんだって。まずは車椅子に自分で座れるようになるまでは……」


と、琴音さんはベットの横に置かれた車椅子を見る。

琴音さんは両足の膝、膝蓋骨を骨折していた。

手術後、固定していたが、今度はその硬くなった関節を曲げる為にリハビリが必要になってくるらしい。


「じゃあ……車椅子に乗れるようになったら散歩出来るね。そしたらヴェル様も連れて来るよ」


ヴェル様……あの琴音さんの恩犬の事だ。

琴音さんに犬の名前を何にする? と聞いた所、ヴェル薔薇の大ファンである琴音さんはヴェル様と名付けた。


正直、もっと他にあるだろう、とも思ったが……琴音さんがそういうなら仕方ない。


「早く会いたいな……リハビリ頑張らないとね」


うむぅ、どれ、ではマッサージをしてやろう。

ずっとベットに寝たままの琴音さん。私はそっと布団を捲り、足裏マッサージ。


「おおぅ、晶ちゃん……なんだか、晶ちゃんにマッサージされるのが楽しみになりつつ……」


「それは良かったです……」


ぎゅ、ぎゅっとツボを押していく。心なしか、琴音さんの顔が苦笑いに変わっている。

むむ、力強すぎるかしら……


「大丈夫大丈夫……ぜ、ぜぜん……平気……」


いや、別に無理するところじゃないから! 痛かったら痛いって言ってくれ!


「ところで姉さん……何か欲しい物とかある? 僕買ってくるから……」


「んー? 欲しい物かぁ……じゃあ拓也きゅんの使用済み下着……」


ギュっと琴音さんが痛がる足裏を思いきり押す私。


「いだだだだだ! ご、ごめん……冗談、冗談だから!」


「そういうのいいから。何が欲しいの? 本? ゲーム? 知恵の輪? セガ○ターン?」


ほほぅ、私最後のヤツがいいな。マニアックな名作が多いのだ。セガ○ターン。


「んー……じゃあ本でいいよ。拓也きゅんのオススメでお願い」


「はいはい。じゃあ晶さん、僕ちょっと売店で買い物してきますね。何か欲しい物あります?」


むむ? じゃあ……アイスクリームが欲しい、と注文する私。

すると琴音さんも食べたいようで「私も~」と注文。


「はいはい。じゃあちょっと行ってきます」


そのまま拓也は購買へと向かい、部屋には私と琴音さんだけに。


「ねえ、晶ちゃん……ちょっとだけ……膝曲げてみていい?」


「え? 大丈夫ですか?」


「うん……先生にも、出来るなら少しずつ曲げてみてって言われてるし……」


ふむぅ、じゃあお手伝いしますぞ。

言いながら琴音さんの膝の下に手を入れ、そっと持ち上げる……が


「痛い! ものすごく痛い!」


ほほぅ? 


「あー……大丈夫。いいよ、構わずグイっと行って」


いや、そんな急にやって大丈夫? と思いつつクイっと……。


「いだだだだだ! やばい、折れる、折れる!」


にゃんだって! も、もう止めとこうず!


「うぅ、ごめんね。こんなんじゃ……車椅子なんて乗れない……」


ふむぅ、まあ大丈夫っすよ。

先生の言う事ちゃんと聞いてれば……


「ぁ、先生と言えば……冬子さんも来たよ。一週間くらい前に……」


なにっ、あの人最近見ないな……大学には来ないし、冬子先生の家にも用事ないから行ってないし……。


「花村先輩と婚約おめでとーって言ったら……なんか急に晶ちゃんに会いたくなったから帰るって……」


ひぃ! な、なんだって! でも一週間前の話だよな?

私のバイト先である執事喫茶にも来てないし……だ、大丈夫だよな。


「早く冬子さんのウェディングドレス見たいなー……ぁ、でも……そもそも結婚式やるのかな……」


ふむぅ、あの性格だからなぁ。

もしかしたら恥ずかしがって……『んなもん必要ねえ!』とか言うかもしれない。

そこは花村教授に頑張って欲しいな。冬子先生のドレス姿……私も見てみたい。


 むむ、そういえば……


「琴音さんは? 彼氏とか作らないんですか?」


「え、私? いやぁ……私は当分いいかな……」


ふむぅ、兄貴で良ければ紹介しますぞ。一応IT企業の正社員ですたい。


「晶ちゃんのお兄さん? んー、まぁ……考えとく……」


ふふふのふ。もし琴音さんが兄貴の彼女になって、結婚する事になったら……


ぁ、琴音さんがお姉さんになるかもしれんのか。


琴音さん……ちょっと変だからな……どうしよう……。


「晶ちゃん……ちょっとだけ心の声が漏れてるよ……」


え? ど、どこの部分が?!


「私がお姉さんになったら、ちょっと変だしどうしようって」


ほぼ全部じゃないっすか……。




 そんなこんなで拓也がアイスクリームを買ってきた。

ふむぅ、バニラばかりだな。まあ私は好きだからいいが。

 拓也は琴音さんの分のアイスを開け、スプーンですくって口に運んであげている。

琴音さんは幸せそうだ。大好きな弟に食べさせてもらって……。


「ねえ、拓也……琴音さんの事好き……?」


「え? な、なんですかいきなり……」


「いいから……答えて」


「そ、そりゃ……嫌いじゃないです……」


少し恥ずかしそうに言い放つ拓也


そんな拓也を嬉しそうに見る琴音さん


「な、なに……姉さん、その顔……」


「んー? 拓也きゅん、可愛いなぁって……」


拓也は恥ずかしくなったのか、アイスを独り占めしだした


「も、もう姉さんにはあげない……」


「あぁ! 拓也きゅんの意地悪……!」


窓から吹く静かな風がカーテンを揺らしている


夏の匂いが部屋へと流れ込む


「拓也きゅん……もう一口……」


「はいはい……」



 

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