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(2)

 『晶さん……お詫びも兼ねてデートしませんか?』


 『あぁ、いいけど……私は男装しないけど、拓也君は女装してね。お詫びなんだから言う事きけよ』


 

 季節は冬。

だが今年は暖冬の様で、昼近くになると春のように暖かい。っていうかむしろ暑い。

部屋の温度計はすでに二十度近くまでになっている。


「じゃあ駅前で待ち合わせね。私から声掛けるから」


電話の相手は先日知り合った拓也君。

あろうことか私の事を痴漢呼ばわりした悪い子だ!

今日はその仕返し(?)も兼ねて一緒にデートに行こうという事になった。

 

「つってもなぁ……」


実際男子高校生と何して遊べばいいんだ。ゲーセンか? それとも女の子らしく服でも選ぶか?

女の子らしく、と言っても私は女の子らしくない。

なにせ男装が趣味なのだ。今まで女性らしい事など最低限の事しかやっていない。


「まあいいか、適当にブラブラして……アイスでも奢ってやれば喜ぶに違いない」


若干男子高校生舐めてる気もしないでもないが、今日のプランは決まった。


ザ・適当



 そんなこんなで駅前に。

今の私はホットパンツにTシャツ、それにカーディガンを羽織っているだけだ。

とても二月の服装には思えないが、今日は特に暑く感じる。

まるで春が気まぐれにやってきたようだ。桜も咲いてしまうかもしれない。


 ところで、岐阜駅には北口と南口がある。

さて、私は単純に「駅前」と言ったが、拓也君はどちらに居るんだろうか。

私にとっての駅前は南口だが……。


「ぅ、もっかい電話掛けるか……」


携帯を出して拓也君にコール。すぐに電話に出た。


『はい、どうしました?』


「ぁ、ごめん、今北と南どっちに居る?」


『南ですよーっ、あれ、っていうか僕見つけちゃいました』


何っ! ドコダ!


『えーっと……ポニーテールでホットパンツ履いてますよね』


うむ、それは正しく私だろう。


『脚綺麗ですね。頬ずりしたいくらいです』


な、なに言うてん……! お姉さん困ってしまうわ!


『今結構近づいてます、おーい』


ん? 手振ってるのか?

どれだ……凄い美少女以外に手を振ってる奴居ないぞ。

っていうか、あの子可愛いな。拓也君と約束してなかったら眺めていたいレベルだ。


『晶さん、僕ですよ、おーい、おーいっ!』


「えっと……ごめん、見えないんだけど。もっと近づいてくれる?」


『えっ? もうすぐ傍……あぁ、っていうか声かけますね』


何っ、そんな近くに居るのか?

お、さっきの美少女が近づいてきた。

いかん、あんまりジロジロ見ると怪しまれるな。

ここは自然に……


「晶さん、なんでさっきから無視するんですか」


「ほえぁ?!」


間抜けな声を出しながら後ずさりする私。

な、こ、この美少女が……拓也君!?


 目の前にはどこぞのアイドルなど目では無いくらいの美少女が立っている。

ロングスカートに大き目のセーター。髪型は電車の時と同じ黒髪ストレート……。

左手には可愛いトートバックを持っている。


「えっ、ほ、ホントに拓也君?」


「そうですよ。っていうか晶さん可愛いですね……いいなぁ、ホットパンツ……僕履けないしなぁ……」


そうなのか? 履いたらいいじゃん。

っていうか可愛いって久しぶりに言われた。


「無理ですよ。僕だって男なんですから……女性みたいに綺麗に履けません……一発で男って分かりますよ」


ふむぅ、まあ確かに……男の尻はカクカクってなってるもんな。


「カクカクって……まあいいや。どうします? とりあえず喫茶店でも入りますか?」


そうだな。じゃあ駅前の喫茶店へ行こう。

 ふんわり系美少女と喫茶店に入る私。

なんだろう、今更になって……なんで男装してこなかったんだ、と後悔。

制服姿の拓也君も可愛かったけど……私服姿の拓也君はもっと可愛い!

なんだか憧れのクラスメートの私服を見た男子の気持ちが分かる気がする。


「喫茶店といえば……晶さん大通りにある木造の喫茶店知ってます? ちょっとおしゃれな」


「あー、あったような無かったような……そこがどうしたの?」


拓也君と席に座りつつ、店員さんにホットコーヒー二つ注文。


「そこの喫茶店結構いいんですよ、今度行きませんか?」


「まあ、気が向いたらね……お、カツサンド美味そう……」


メニューを見ながら呟く。もうお昼も近いしな。ここで食って行ってもいいな。


「それで……今日はどうしますか? 何処か行きたい所とかあります?」


「んー……そうだなぁ……」


マジでどうしよっかな。

うーむ……と悩んでいると店員さんがホットコーヒーを持ってきてくれた。


「お待たせしましたーっ ホットコーヒー二つですーっ」


「ぁ、どうもー……」


むむっ、中々可愛いお姉さんだな。私より少し年上くらいかしら。

ちょっと何処行けばいいか聞いてみるか。


「お姉さん、これから私達デートなんですけど……どっか面白い所あります?」


「あー……電車で名古屋が定番じゃないですか?」


ふむぅ、やっぱそうなるか。私も友達と遊ぶ時は大抵そっちのほう行くしな。

ぁ、そうだ。ちょっと拓也君をからかって遊ぼう。


「この子可愛いでしょ。彼氏募集中なんですよー。誰かいいの居ませんかね~」


「ちょ……! 晶さん……っ」


慌てる拓也君を見てニヤつく私。店員さんは「え、ほんとにー?」と意外そうな目で拓也君を見ていた。


「絶対彼氏いるでしょ。こんなに可愛いんだから」


「え、え? か、可愛いって……」


お、拓也君……照れてる。店員さんに褒められて照れてるわ!

可愛い奴め!


「ぁ、じゃあ彼氏が出来た時の為に……勝負下着買いに行くとか?」


下着かぁ。いいかも。私も新しいの欲しかったし……。


「し、下着?」


途端に顔を伏せてモジモジしだす拓也君。

むむ、どうした?


「ぁ、そろそろ仕事に戻らないと……じゃあ私はこれでーっ」


「はいーっ、ありがとうございましたーっ」


そのままお姉さんは仕事に戻っていく。

拓也君は顔を俯かせたままモジモジし続けていた。


「どったの? 拓也君。おしっこ?」


「ち、チガイマス……その……僕、女性物の下着って持ってなくて……」


何っ、そうなのか。てっきり標準装備かと思ってた。


「ぁ、じゃあホントに買いに行く? サイズとか私測ってあげるし」


「ホントですか!?」


おおぅ、凄い食いつきいいな。そんなに欲しかったのか、下着。

ネットとかで買えば良かったじゃないか。


「い、いえ……お金が無いし……そもそも姉と二人暮らしなので……もし間違って姉が箱を開けたりしたら……」


あぁ、大参事だな……。


「ん? じゃあ今何履いてるの?」


…………拓也君は答えない。


「笑いませんか……? 引きませんか?」


「私を信じろ。私だって男装趣味あるって知ってるっしょ」


うむ。大抵の事なら私は受け入れるさ!


「えっと……その……姉の……」


……ん?! ま、まさか……お姉さんの下着を!?


「ち、チガイマス! 姉の……学生時代のブルマーを……」


あ、ごめん……ちょっと引いたわ。


「ほらぁ! 引かないって言ったのに……!」


「ご、ごめんごめん。あぁ、そうか……お姉さんの下着じゃ小さいのか。それで収縮性のあるブルマを……」


「マジマジと解説しないでください……僕だって悩んだんです……もしスカートが捲れて……普通にボクサーパンツ見られたらどうしようって……」


いやぁ、今どきの子がブルマー履いてるほうがビックリだわ。

そしてマニアックな奴が喜びそうだ。


「まあ、なにはともあれ……じゃあ名古屋行こっか。私がいつも買ってる店でいい?」


「は、はい……お願いします……」


ふふふ、なんか楽しくなってきたな。

まさか男子の為に女性下着を選べる日が来るとは。

まあ、同じような趣味を持つ同士だ。私もお世話になるかもしれないし……今の内に借りを作っておこう。


 コーヒーを一気飲みしてレジに。

拓也君がサイフを出そうとする手を抑えつつ、コーヒー代を出す私。

ふふふ、今日はお姉さんに任せな! 兄貴の仕送りだけども。


 そのまま喫茶店を出て名古屋行きの切符を購入。

電車か……なんか思いだすな。


「晶さんって……痴漢とかされません?」


「へ? いや、された事ないけど……背高いからかな……」


高校でバスケをやっていたせいか、私は身長178cmある。

それに対して拓也君は160cmあるかないか。


「いいなぁ……僕も晶さんくらい身長欲しかったな……」


「いやいや、女装するなら背低いほうが絶対いいって」


「そ、そうですか? そう言われてみれば……」


うむぅ、そして私は男装するから……と無理やり自分を納得させる。

身長が高いと何かと男子から避けられてる気がする。

高校の時は良かったな……周り結構皆高かったし。

でも今の大学では私はダントツで高い。背の順で並んだら間違いなく最後尾だ。


 駅のホームで並んで待つ私達。

拓也君はチラッチラと私のお尻を眺めていた。

むむ、なんだね。ムラムラっとするのか?


「いや、いいなぁって思って……はぁ……女に生まれたかった……」


「何いきなり……そんなに私のお尻が気になるなら触ってみる?」


「そ、そういうセクハラ止めてください……! ただ単純に丸いお尻が羨ましいだけです……」


ふむぅ、そうなのか。

どれ。


「って、うわぁ! な、なに……どこ触ってるんですか!」


「いや、お尻……結構柔らかいじゃん。全然いけるって」


「な、なにがッスカ!」


そういえば先日……オッサンに痴漢された時も男ってバレてなかったよな。

確かにこの感触なら問題なく女の子でも通るだろう。


「や、やめてください……忘れたいんですから……」


「ごめんごめん、でも良かったじゃん。私なんて痴漢すらされた事ないんだから……それってつまり……私より女の子っぽいって事だよね……ぁ、なんかムカついてきた……」


「えっ、ご、ごめんなさい……」


いや、謝られても……。


 数分後、電車が到着して乗り込む私達。

むむ、立つしかないか。座る所ないでござる。


「でもこうしてみると……晶さん普通に美人ですよね。肌は白いしスラっとしてるし……」


「何、いきなり……拓也君に言われても嬉しくないんだけど……」


と、その時……私達の会話に反応する数人の男達。

ぁ、やばい。拓也君とか言うと怪しまれるな。

ここは……


「貴子ちゃんの方が可愛いよ?」


にっこり満面の笑みで言い放つ私。

女装している拓也君の事は、これから貴子ちゃんと呼ぼう。

命名してしまったわ。


「貴子……」


どこか嬉しそうに頬を緩める貴子ちゃん。

あぁ、この子本当に女の子に生まれたかったんだな。

私も学生の頃は本気で男に生まれたかったと思っていた。





 それから尾張一宮を越え、十分程で名古屋に到着。

ここぞと大量の人が降りる中、私と貴子ちゃんも人の波に流されつつ電車を降りて改札へ。

そのまま名古屋駅を出て……


「到着っ! さあ、まずは腹ごしらえだ!」


お腹空いたでござるよ。

さて、何食べようか。


「折角名古屋に来たんですから……それっぽいの食べたいですよね」


それっぽいのかぁ……名古屋と言えばミソカツか? それとも台湾ラーメンかカレーうどんか……。


「台湾らーめんが名古屋っぽいんですか? 台湾の料理じゃ……」


【注意:台湾らーめんの発祥は名古屋です。自慢毛に台湾のラーメンだとデートで説明すると恥かきます】


なんだか経験済みみたいな説明が……まあいいや。

じゃあ折角だし……


「台湾らーめん食べてみる? めっちゃ辛いけど」


「ぁ、僕辛いの好きですよ。晶さんがいいなら……台湾ラーメンにしましょうか」


うむ、では行こうか。

さて……台湾らーめんの美味しい店をスマホで探してみるか。

名古屋駅周辺で一番近いのは……ん? まさに駅の中に入ってるな。ここでいいか。


「貴子ちゃん、駅の中にあるみたいだし……行ってみようか」


「あ、はい」


再び駅の中に戻りラーメン屋を捜索。

すぐに見つける事が出来た……が。


「な、並んでるね……」


流石お昼時だな。結構混んでる。まあこの時間帯なら仕方ないか。

大人しく最後尾に並ぶ私達。

休日だけあってカップルが多いな。無双決めたい。


「晶さんってゲーム脳ですよね……結構するんですか?」


「んー……兄貴の影響でそこそこ……。最近はオンラインゲームかなぁ……」


「け、結構ハードゲーマーですね……」


ふむぅ、オンラインゲームしてるって言ったら皆こういう反応するよな。

別にそこまで敷居高く無くてよ! オンラインゲーム!


「僕はゲームとかあんまり……姉さんと一緒に遊んでたので……」


ほほぅ、どんな遊び? ブルマー履いたり?


「泣いてしまいますよ。普通に編み物したり……クッキー作ったり……」


「え、編み物できるの? クッキーって……店で買ってきた奴溶かして作るとか……」


「いや、それチョコですよね。晶さん作った事ないんですか?」


ねえよ。編み物とか異世界の産物だよ。


「晶さん……なんか男っぽいですね」


君は女っぽいな。




 そんな会話をしつつ……ついに店の中へと入る私達!

ふふぅ、待ってました! 席に着くと店員さんが汗だくで対応してきた。


「いらっしゃっせー! ご注文は!?」


はよ! と急かしてくる。

まあ私達は台湾らーめん食いに来たのよ!


「台湾らーめん二つで……」


「ありゃーっす!」


「ぁ、すいません、ライス……貴子ちゃんは?」


「ぁ、じゃあ僕も……」


「ライス二つもお願いします」


「ありゃーっす!! 台湾らーめん二つにライス二つ!! 以上でよろしいですか!」


よろしいわよ。

店員さんは忙しなく奥へ。

流石に忙しそうだな。飲食店大変そうだ。


「楽しみですね、そういえば……晶さんってバイトとかしてます?」


バイト……ぁー、したいと思ってたけど……なんか怖いんだよな。


「よかったら今度……僕のバイト先に来てくださいよ。サービスしますよ」


何っ、貴子ちゃんバイトしてるのか。

高校生のくせに!


「いや、ちゃんと許可取ってますから……。ウチ両親居ないし……」


「ぁ、そうなんだ……」


ぅ、なんか空気が重い……。

私も父親の顔しらんけども……。

これで母親居なかったらどうなってたんだろ、私……。


「ぁ、す、すいません! ぜ、全然アレですから! 僕は姉さんが居たし……いや、今も居ますけど……」


「いいお姉さんなんだねぇ。こんな立派に……貴子ちゃんを育てて……」


もしかして拓也が女装に目覚めたのも……そのお姉さんのせいだったり……。


「何が言いたいのか良くわかりますけど……ま、まあ無いわけじゃないですけど……」


やはりか。

その辺kwsk(くわしく)


「き、機会があれば……ぁ、らーめん来たみたいですよ」


マジか、早いな。


「おまったせっしたー! 以上でご注文の品……いっらっしゃせー! お揃いですか!?」


「ぁ、はい……大丈夫ッス……」


店員さん大変だな。

休日のお昼時とか地獄だろうな。


「まあ、忙しいと結構楽しいですよ。僕も飲食店ですけど……なんていうか、働いてる! って感じしますよね!」


「若いねー、君は……」


いや、私は働いた経験すら皆無だけども。

いかんな。本気で拓也君の所にお世話になろうかしら。

まあとりあえずラーメンを食そう。冷めたら悲劇的に不味くなる。


「いただきまーっす……」


貴子ちゃんと共にラーメンを啜る。

むむっ、そんなに辛くないな。どちらかというと酸味があるような……。

でもイケる。美味いでござるよ。


「んー、僕はもうちょっと辛くてもいいんですけど……ぁ、でもご飯と合いますね」


うむぅ、ご飯に合わないラーメンなどラーメンでは無い!


【注意:あくまで個人的主観です】



 ラーメンを啜り続ける私達。

何時の間にか無言で食べ続けていた。

自然と額には汗が。っていうか暑い!


「あー……汗掻いてきた……貴子ちゃん……セーター暑くない?」


「あ、あついです……」


やっぱりか。

私は比較的薄着だから平気だけども……。

服も買うか。もう春物は出てる筈だし。


「今日は晶さんにお詫びのつもりでデート誘ったのに……なんかお世話になりっぱなしで悪いので、ここは僕が払いますからねっ!」


「え? そう? まあ……じゃあゴチっす」


高校生に頭を下げてゴチになる私。

いかん、本気でバイトしよう。

兄貴の仕送りで「奢るから!」と堂々と言えぬ。

私はもう巣から飛び出て新しい土地に住んでいるのだ!


まあ……今住んでるマンションも兄貴が買ってくれたんだが。




 台湾らーめんを完食し、お会計を拓也君に任せて先に店から出る。

むむっ、行列は無くなってるな。掃けたか。


「美味しかったですねーっ、僕、こうやって外食するの久しぶりですよ」


「ぁ、そうなんだ……ご馳走様でした。じゃあ本日のメインイベントいきますか」



そう、メインイベント……拓也君の女性下着を買いに!



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