ムツキの冒険(仮)始まりの終わり。
昔、とある集落に一人の少女がいた。
名はムツキ。限りなく白に近い紫の長髪に、漆黒の瞳。背は低く、十六でも子供に見られるほどの容姿。顔も端正で、集落の男達からは恋迫られていた。
しかし、誰とも付き合おうなどとは思わなかった。否、思えなかったのである。
ムツキはその珍しい髪のため、幼い頃から巫女としても崇められ、神楽、祈祷などをやらされていた。
――自分といれば、殺される。集落の掟で、巫女と恋仲になればその者を殺す。というものがあったのだ。
さらには、行動の制限などもあった。
家に帰れば、監視役の者。神社に行けば、付き人。最早、何もかもを縛られているようのものだった。
ムツキは憎んでいた。紫の髪だったことを。ここへと生まれた、自分自身のことを。
そんなある日、集落へと大人数の男達がやって来た。
鎧を着ていたため、何かの兵士だろう。すると一人の男が、
「今から男共を招集する! ここへと集まれ! 集まらぬならここを焼く!」
脅しとも取れるその言葉に、村人達は恐怖に戦いた。
それはムツキも同じだ。何せ、この髪の色。奴らに目をつけられてはお仕舞い。と、震えていたのだ。
次々と集められる男達。ムツキはただただ、小屋に隠れながら祈ることしかできなかった。
「――よし、行くぞ!」
若い男達を連れ、兵士は集落を去っていく。
村人達は、色々な思いを抱えていた。
息子を連れ去られ、悲しみに明け暮れる母親。「ようやく行った」と大声を上げ、安堵する年寄り。
ムツキが感じていたのは、不の感情ばかり。それはまた、彼女に向かっていた。
「なんで神は来てくださらなかった! お前は呼び出す者だろ!」
「何が巫女だ! ふざけんな!」
「そうだ……こいつを生け贄にしよう! そうすればきっと……この戦争も終わるはずだ!」
ムツキは、神社の中心にある本殿で――葬られることとなった。
逃げようとしても無駄であった。外には石や包丁。さらには槍まで持つものまでいたのだから、ムツキにとっては地獄だったであろう。
その中には自分の父母、弟に妹――完全に味方など、いなかった。
炎が本殿へと放たれ、徐々に広がっていく。
ムツキは、嘆く。
なぜ、自分は巫女という存在だったのか。
なぜ、皆は自分を嫌うのか。
なぜ、皆はこんなことをするのか。
なぜ――自分だけが、死ななきゃいけないのか。
その絶望に涙する中、彼女の耳に、誰かが囁いた。
「――生まれ変われ、ムツキよ。我と同体となれ」
声の主は、すぐに分かった――竜神。この神社に住む神であり、唯一ムツキの支えとなっていた者。
――ありがとう。最初に浮かんだのは、感謝の言葉であった。ムツキは手と手を組み合わせ、それだけを心に思い浮かべる。
「さあ、行こう――」
その瞬間、ムツキの体は光となって消えた。
新たに竜神となって、現世へと舞い戻るために。
*
という夢を見た。