鎧目覚める
俺の名前はガイ。
魔王を倒し、カタルト王国の軍団長を務めた輝かしい経歴を持っている。
最期は孫たちに囲まれながら眠りについた
はずだった。
目が覚めると自分が森の中にいることを悟った。
もしかしたらここは天国かもしれない、そう思った矢先、俺の前からオーガという魔物が迫ってくる。
オーガは人間よりもでかい図体をもち、ものすごい怪力を持っている。
普通の人間ならば手も足も出ない。
まあ、俺の敵ではないがな。
俺は応戦しようと動こうとするが体は全く動かない。
『な、なんで動かないんだよ。ん?あれ?』
ようやく自分の体の異変に気づく。
自分の体をよく見てみるとなんだか鎧みたいな見た目をしている。
『ちょ、え、寝てる間に何があったんだよ。』
オーガはどんどんこっちに近づいてくる。
なんとかしないければ殺されるかもしれない。
『よっしゃ、動けないならば力づくで動けばいいだけのこと。かかってこいや』
自分でも何を言っているのかわからないくらい取り乱しているのがわかった。
オーガは自分の横を通り過ぎるとどこかへ去っていった。
『た、たすかったぜ・・・』
どうやら生き物だと認識しなかったらしい。
脅威が去ったのであらためて自分の体を観察する。
関節などの可動域以外は黒い装甲で覆われている。
可動域は赤黒い筋繊維のようなもので、装甲どうしを繋ぎ止めている。
赤黒い筋繊維でできたスーツの可動域以外に装甲が張り付いている感じだ。
よほど長い年月をこの森の中で過ごしたのか、木の根が足に絡まってるし、苔が全身に付着している。
『俺の目はいったいどこにあるのだろうか。』
鎧の頭部を中心にし、360度まわりを見渡すことができる。
死角はないが、動けないのでどうしようもない。
『このやろう、俺の怪力を舐めるなよ。』
全身に力を込めて、なんとか動こうと努力するが、鎧の体はすこしカタカタと震えるだけであった。
『ハハハ・・俺鎧になってやがるぜ。笑えねえ冗談だ・・・・。』
体の中は空洞である。
見た目も鎧っぽいことから、自分が鎧になったことは間違いない。
しかしどうやって人は俺を装着するのであろうか。
普通の全身鎧ならば関節などの可動域を境として鎧のパーツが別れているものである。
しかし俺の場合、全部くっついているため入る隙間もない。
『俺を鎧に改造したやつはバカだったんだろうなぁ・・・』
自分の状態をある程度理解し、居場所について考察してみる。
『ここどこだよ・・・』
森の中。
それ以外に言い表せない。
さっきから魔物が森の中を歩き回っているが、俺のことは気にも止めないので俺も気にしないことにした。
魔物にとっても俺はもう森の一部と化しているのだろう。
『はぁ・・目が覚めたはいいがこのまま森のオブジェのまま過ごすのか・・・』
ここで俺はあることに気づく。
俺は先ほどからぶつぶつと独り言を言っているのだが、どうやら魔物たちには聞こえず、俺にしか聞こえていないらしい。
『おい、そこのゴブリン。こっちを見やがれ。ぶったおすぞ。』
森の魔物たちは皆、俺のことをスルーしていく。
この際、魔物でも人でも、俺が生きていることに気づいてほしかった。
『一人ぼっちはさみしいもんな・・・』
涙が出そうになるが、目もなければ顔もないため、そんなものは流れない。
『オブジェコース確定か・・・。』
「いやぁぁぁこっちにこないでぇぇ!」
声のする方を見てみると、一人の女が魔物に追いかけられていた。