その8 セイジとカオリン
この章から戦闘シーン多めにしたい。何ページ先になるかはわからないけどね。
『微睡む白狼亭』の2階廊下の角部屋近く、カーラはむくれた表情でドアの前にいた。
カーラがセイジと出会ってからそろそろ3週間となる。最初の1週間半はよかった。セイジは仕事中は真面目に行う性質のようで、とても格好いいと思っていたのだ。では、残りの1週間半セイジが何をしていたかをざっくりと語ろう。
時々狩人ギルドの人たちと狩りに出て、帰ったら酒場に直行した。リーウィの町にいたとき、セイジが酒場に行かない日はほとんどなく昼間から狩人連中と飲むこともよくあった。
途中、冒険者ギルドの依頼があり4日ほど道具屋の店員とまた別の隣町に行っていたそうだ。カーラがそれとなく依頼中のセイジの態度を店員に聞いていたがやはり真面目に行っていたらしい。普段も仕事中のように真面目にしていたらいいのに、と……ここ最近のセイジへの好感度はだだ下がりだ。
いつもは朝早く鍛錬をしに庭にいるのだが今日は日が昇っても部屋から出てきていない。昨日も遅くまで酒場に行っていたようなので、寝過ごしたのかもしれない。朝食を出す時間が過ぎてしまうので、カーラは扉をノックした。
「セイジさん、入りますよ」
どうやら、ノックする習慣はあれど返事を聞いてからドアを開ける習慣はないらしい。カーラはドアを開けた。
「……、え?」
女性がいた。セイジがいるはずの部屋に女性がいたのだ。
カーラがドアを開けた格好のまま石のように固まっていることに気が付いたのか、女性が銃の手入れをする手を止め「カーラか、どうかしたのか?」とカーラに声をかけた。口をパクパクさせ言葉になっていないカーラの様子に首を傾げ、サラリと流れた長い枯れ葉色の髪の感触に気付いたことで彼女はカーラが硬直してしまっている原因に気が付いたようだ。彼女は左人差し指にはまっている指輪を外し……。
「……え? セ……セ……セイジさん!?」
彼女はセイジの姿となっていた。
1階の食堂にて、朝食をとるセイジの隣の席でカーラは先ほどセイジがはめていた指輪をコロコロさせながら眺める。ギルド証――セイジが右中指にはめている指輪――に酷似している。違うのは中央の紋章だけのようだ。
「セイジさん、この指輪はどういうものなんですか?」
「指輪に効果があるのではなく『異界種』自身が持っているものだ、前に話したが『異界種』は女神によって異世界に召喚される。ここからは話していないと思うが、その際に好きな姿をとることができるんだ」
「好きな姿ですか?」
「ああ、私のこの姿は生まれ育った世界のそれではない」
セイジは、元の体が女であったことは語らず話を続ける。カーラに対し最大5つまで同時に姿を得ることができること、特定の指輪を左人差し指にはめている間その決めた姿をとることができることを語った。これはゲームの仕様だ。宿屋、冒険者ギルドなどセーフティエリアと呼ばれる場所の時のみ、キャラクターを変えることができたのだ。キャラクターの変更をするためにログインし直すことが不評だったため追加されたらしい。
カーラは手元の指輪をいじりながら聞きつつ、にっこりと笑いながらひとつ言い放った。時々指にもはめてみていたようだがぶかぶかだった。
「よくはわかりませんが、わたしをビックリさせた罰として女のヒトの姿で買い物に付き合ってもらいますからね! でもあの時の姿のままお外に出ちゃだめですよ」
セイジの女性の時の姿なのだが、ビキニアーマーに似た露出の高い鎧だったのだ。
「カオリンさん、こっちです。これも似合うと思いますよ」
「はしゃぐのはいいが、よそ見しながら歩くと躓くぞ」
装飾品の多い出店にセイジの2キャラ目であるカオリンとカーラは来ていた。カーラの母親の服を着ているカオリンを引っ張りながらあれやこれやと指をさす。カーラの母親をセイジは見たことがない。故人かどうかを聞く気はカオリンにはなかった。
「カオリンさんはどういうのは好みですか?」
「好みか……シンプルなもの、あと武骨なものも良いと思うな」
中身は女性、いや今は見た目も女性だがカオリンは可愛いものよりも格好いいものを好んだ。基本的に光物は好きだが買って満足してしまい、ほとんどつけることがなかった。仕事が華美に着飾る必要のない職であったため、ただ家に飾るだけとなっていた。
「店主、これと……これももらおう」
カオリンはお守りとして売っていたガーネット色の石を紐で巻き付けた首飾りと、カーラが目を輝かせて見ていたブレスレットを購入した。そしてブレスレットはカーラにプレゼントしたのだった。
女性の姿になれるのに、普段セイジの姿を取り続けてるという…。