その6 カーラ頑張る
カーラとセイジのお買い物、同年代ならデートになってたもしれないんだけど親子みたいにか見えないな。
ひとつ深呼吸をしてカーラは自身の頬を両手でパチンと叩く。
(よし、頑張ろう)
カーラは昨晩父と相談し、ある重要任務を行う必要があるのだ。
その重要任務は……、
(セイジさんにこの宿や町を気に入って貰わなくちゃ!)
最初、カーラがセイジに護衛になってくれるように頼んだのは、セイジを信用して……ではなくそうしなければ生きて帰れないとわかっていたからだ。
無事町まで帰って来られた今のカーラの評価は『良さそうな人』だ。
道中もカーラの歩幅に合わせて進んでくれたし、獣が襲って来たと思ったらまばたきをしたくらいの時間でもう倒している。その時の顔が悲しそうな、苦しそうな表情をしていたのでもしかしたら生き物を殺すことは嫌いなのかもしれない。
そんなちょっとだけ高評価なセイジに対して行う重要任務は、セイジがこの町に居着いて貰うようにする、である。
この町にやってくる冒険者は2通りだ。
ひとつは商人の護衛や仕事のため移動の途中だ。リーウィは街道の通り道にある町なので、彼らは長くても数日しか滞在しないし依頼も頼めない。
もつ1つは『ランク:赤』の新人が比較的安全に鍛えるためだ。白竜の加護で狂暴な獣が少ないこの地で冒険者の基礎を覚えるのが主な目的だ。
それなりの日数は滞在してくれるが『ランク:橙』になったら出ていってしまう。
今この町には後者の冒険者がいない。
セイジの人柄はよくわかってはいないが『前の冒険者よりははるかにマシ』であり、少なくとも新しい新人がやってくるまではいてもらいたいと思っている。
「セイジさん、この後時間は大丈夫ですか? 明日に備えてセイジさんの服を買った方がいいと思ったんですけど」
セイジの格好は変わっている。このスーツというものはセイジから聞く限り異世界でも変わっている服という評価を得ていたらしい。
セイジは他にも町を案内してもらいたいと乗り気のようだったのでカーラは安堵した。興味がないと言われてしまっては、この町を気に入って貰うのも難しいだろう。
セイジの食事が終わり、カーラたちは宿から出るのだった。
「朝から出店が開いているのだな」
「はい、今は朝市の時間なんです。朝と昼、夕方で違うものを売っているところもあるんですよ」
カーラはセイジに説明をしながらセイジの目線を追う。今、セイジは干し果物を売っている出店を見ていた。他の店よりも見ている時間が長かったので甘味が好きなのかもしれない。
「ここが目的地の冒険者・狩人用の衣服店です。革の防具も一緒に売っているんですよ」
カーラが案内した店は大通りの一角にあるやや大きめの建物だった。
カーラの宿には冒険者が良く泊まるので、この店に案内するのは幾度もあったので店主は心得たとばかりにセイジのサイズに合ったものを出してくれた。
「……アカウント作成時に用意した西部劇風もここでは合わないようだな」
「? セイジさんが持っている服ですか?」
「あー。スーツとは別に変わった服を持っていてな、異世界では部屋着にしかならないなと思っただけだ」
カーラが聞いたセイジの持っている服だが、スーツ、西部劇風ガンマン、甚平のどれも聞き覚えがないものであった。
セイジ用の革鎧も調整してもらうことになった。セイジとカーラは衣服店を後にし、町の案内が再開された。
道中セイジはあまり遠出をしなかったと話し、カーラはどんなものが必要かを説明していく。
「意外ですね、冒険者の人って旅慣れているものだと思っていました」
「リュエンドクライムと生まれ育った世界を頻繁に行き来していたからな、遠出をするときは日帰りできる範囲でしか行動しなかった」
ゲームでは最初の町から3日かかる距離に次への町があった。ギルド以外で確認ができないステータスなど妙なところで現実を意識した作りとなっている。見た目決定の自由度とは雲泥の差の不便さだ。
町以外で48時間以上ログアウトしているとダメージやアイテムロスト、もっと長い時間ログインしなければ死に戻りしていることもあるという仕様があったためセイジのプレイスタイルには合わなかった。
これもまたセイジが弱い理由の1つだろう。
「セイジさん、ここからは農業区ですね。この町の人口が増えるにあたって出来た場所なんですよ」
「今までのところは、商業区といったか。農業区は私を始めとした冒険者には関わりのない場所になりそうだな」
「そうですね。冒険者の人はここには入らないことになってますので、セイジさんも気をつけてくださいね」
農業区の畑でできた作物は一度商業区に運ばれて出店などに出しているんですよ、とカーラは補足した。
その後、宿へ帰る道中に冒険者が良く利用するであろう店を紹介してもらったのだった。
宿に戻る前に冒険者ギルドへ2人は寄った。しかしギルドには人ひとりおらず、ご用のかたは隣『銀乙女の酒場』へという看板があるのだった。セイジは少し酒場に寄りたそうにしていたが買った荷物の確認もあり宿に戻ることになった。
次の文章とがっちゃんこしたから、書き直し部分多いや。