その40 ハードボイルド(笑)に生きよう
エピローグ。
それは、セイジが目を覚ましてから14日のある時、『白竜』の思い付きからそれは起こった。
「これからレンや修を希望通りの『魔種』や『竜種』にするんだけど、キミが初めて作成したヒトなんだよね。本当に『人種』になってるか確認してもいいかい?」
『白竜』の話では、どうやら『竜種』を作ったのはこの世界の創造主たる女神ミュランクラディオであって、『白竜』ではないそうだ。しかも、ミュランクラディオが作ったヒトと同じように作ったことが今までないということが判明した。
「どうやって確認をするんだ?」
そうセイジは答え、先ほど『白竜』から差し出された水を飲んだ。先ほどまで鍛錬という名の、武器の使い勝手の確認を行っていて喉が渇いていたのだ。
「うん、カーラちゃんに手伝ってもらったよ。『夜種』は『人種』を同族に変える力を持っているからね。ちなみに、『夜種:人狼』が同族を増やすには、生き血を与えること。だから、混ぜちゃった」
『白竜』の爆弾発言にセイジは固まった。相も変わらずセイジの表情は変わらないが驚いたのだろう。『白竜』はいたずらに成功した子供のように楽しそうな顔をしていた。
かくして、他に何もハプニングもなくセイジはリーウィの町に帰って来た。行く前と変わったのははレンと修だ。どうやら本当に『魔種:エルフ』と『竜種:竜人』になったようで、レンの耳はとがったものになっていて、修は肩から背中にかけて鱗に覆われており、背に小さな翼が生えていた。
『人種』に拘らないのは、『人種』もまた彼らにとって異世界人でしかないからであろう。
「銃のオッサンもだけど、結局俺ら1人も『人種』じゃないってことだな」
「あの、私の血ってセイジさんを助けるために必要という話だから協力したんですけど……」
「まー気にしない気にしない、一度『人種』が『夜種』になることろ見てみたかったんだよねー」
『白竜』がけろりとした顔で言い放ったため、カーラは机に突っ伏した。『白竜』に頼まれた時はセイジは大丈夫なのかと心配したのに、実際はただの『白竜』のお遊びであったというのだから仕方がない。信仰の対象を怒鳴るわけにもいかない、カーラは大きくため息をついたのだった。
セイジが戻ったことを口実にまた酒場は宴会会場のようににぎわっている。主役のセイジを囲む面々はレン、修、カーラ、『白竜』、ギルド職員、そして特に仲の良い狩人3人組だ。
「セイジさんは転生して何か変わった事とかありますか?」
「転生前と変わらない、と言いたいが知らない筈の知識があるな。おかげで見たことすらない武器の確認作業はなんとかなったから、その為やもしれん」
セイジの記憶事情は色々と複雑だ。転生前の時点で女神が用意した記憶、前世の前世にあたるプレイヤーだった時の記憶、前世に当たる獣記憶の3つを保有していた。それは転生しても残ったままであった。
セイジの予想では女神が用意したものと、この世界で過ごしたものの2つが体に残る記憶であった。知らないはずの知識まで持ってしまったセイジにとって、幸運か不運かはまだ判断つかないでいる。
「見た感じ全然変わってねぇがな」
酒が回ってきたのか、大声で笑いながら狩人の1人に背をバンバンと叩かれ、セイジの酒がコップから零れた。それを見た面々に笑いが伝染する。
帰って来た。と、セイジは感じた。
「ああ、そうだ。1つ言ってなかったことがあってな。元々私は女だったんだ、レンとは逆のパターンだ」
セイジが酒の勢いに任せて暴露した。意味はない。ただ言ったらどんな反応をするのか気になったのだ。
一瞬の静寂と、笑いの嵐。腹を抱え苦しそうにする面々を見て、セイジは冗談と認識されたと悟った。
「レンみたいな反応すりゃわかるが、セイジじゃなぁ」
「オッサンよりも修が言った方が説得力あるよなー」
散々な言われようだが、セイジは相も変わらず表情を変えずに酒を一口含んだ。レンもそうだが、元の性別に戻るという選択をセイジは取らなかったが、それで正解だったようだ。
つまり、セイジはこれからもプレイヤーだったころに思い描いたハードボイルド――実際はハードボイルドと呼べない代物――として生きていくのだろうと、少しだけ満足そうに再び酒を煽ったのだった。
次は台無し確実のあとがき、と次回のあらすじ。




