その39 転生と代償
さっくりと復活。
白を基調とした建物の中、壁に美しい彫刻が彫られたそこに2人の男女がいた。女の方は『白竜』だ。『白竜』は白い石材の椅子に座り足をプラプラと揺らしている。退屈なのだろう。
「ねー『深緋の大地』、まーだ?」
「『真白の空』、てめぇ押し付けといて暇そうにしてんじゃねぇよ」
と、呆れたように男は言った。男は『白竜』に非常に近しい存在だった。
「仕方ないじゃん、そもそもワタシは空をつかさどるもの、ミュランが作ってるようなヒトの体をまねることはギリギリできても複雑なことはできないって。だから大地をつかさどるものであるキミに頼んだんじゃん」
「そもそも、てめぇが魂粉々にしたから元がどうだったか一切わかんねぇんだよ。同胞が覚えてなきゃ絶望的だったぞ」
どうやら男は今、セイジの転生をさせようとしているようだ。不穏な言葉はあったが、男の表情は明るい。少なくとも、絶望的な状況ではないようだ。
セイジは魔法陣のような円形の模様の中心に横たわっている。顔色は悪くなく、場面が違っていればただ眠ってるだけのように見えたであろう。
「同胞というより、同一存在だよね」
「魂取り込んで、在り方が変わってる。もう同じ存在じゃねぇよ」
そう男は話し、セイジが持っていたお守りをちらりと見た。その石と男の瞳の色は、全く同じ柘榴石色であった。
「キミの体の一部がこんなところにあるとは思わなかったよね。まあ、そのおかげでセイジが今までどんな行動していたかとかわかったんだけどさー。あ、終わったみたいだね」
どうやら作業は終わったらしい。男は魔法陣から出て、魔法陣を起動させた。男と同じ柘榴石色に光る陣を『白竜』は身を乗り出して眺めた。しばらくすると光が止み、セイジの目が見開き……。
「ガ、グゥウァアアア!」
叫び声を上げ苦しみだし、気絶した。その様子を見た『白竜』はぽんと手をうった。
「あ、そっか。魂壊した時の痛みだね、これ。記憶全部残したから」
「相変わらず雑だな、てめぇは」
セイジが目を覚まし、まず目に入ったのは天窓のステンドグラスだった。大きな白い竜をかたどっているのだろう、ホワイトドラゴンズとは違う姿だったため最初は何の模様かセイジは気付かなかった。
セイジは自身がどこまで覚えているか確認し、妙なことに気付いた。セイジの前世に当たるであろう獣、それが死ぬときに願ったものが叶ったとしたら、ここにいるセイジは何者なのだろうかと。来世はない、ならばセイジとしてここにいることはおかしい。
「おーはよ、ぼーっとしてるみたいだけど大丈夫?」
セイジが声の方へ向くと『白竜』がいた。『白竜』はニコニコと笑みを浮かべセイジを見ている。
「『白竜』、ここは?」
「ワタシの神殿だね。元々はミュランのモノだけど、代理でワタシがいるからね。世代を重ねるうちにワタシがいる場所って扱いになってしまったよ」
ここが以前リーウィの北にあるという白竜神殿らしい。酒場の狩人や冒険者から時々話題に上がっていた場所がここなのかと、セイジは周辺を見渡した。
「さて、大丈夫そうだから話進めよっか。まず、魂の転生だけどまあ一応多分成功だね」
『白竜』の曖昧な発言にセイジが固まる。じっと見つめるセイジの視線に目をそらしながら『白竜』は話を続けた。
「や、だって正常な時を知らないからね。ほとんど壊れた状態から推測するのは無理だって。で、魂の転生のやり方がわからないから『赤狼』に丸投げして、願いを叶えた代償がここにある!」
そういい『白竜』が指さした先をセイジは見た。タグが、つまり武器がある。その量はセイジが持っていた量の2倍以上は確実にある。セイジが続きを促したことで、『白竜』の説明は再開された。
「せっかくだから体だけじゃなくて、武器も女神製じゃない方がいいかなーって思ってさ。武器作れる『赤狼』に任せたら、楽しくなって持ってた量以上に作っちゃってね。それの使い勝手の確認をキミに任せるってことで落ち着いたよ」
セイジはもう一度タグの山を見た。アイテムボックスを除いた狩人に歩く武器庫呼ばわりされるくらいの量を元々セイジは持っていた。その2倍以上、セイジは気が遠くなるのを感じた。
「あの子たちにはセイジの復活に一月くらいかかるって言っておいた。今はキミの知る尺度で一週間くらいだからあと20日くらいあるね。だから思う存分使い勝手調べてね」
語尾にハートマークが付きそうなほどの清々しい笑顔で『白竜』は無慈悲に言い放った。武器マニアとかならばご褒美なのだろうかと、アイテムボックスに入り切るのだろうか、とセイジは現実から目をそらした。
「あ、タグ作るの楽しいからまだまだ作るだろうから、頑張ってね」
『白竜』に止めを刺され、セイジは肩を落としたのだった。
前回と落差が激しい。




