その35 帰還と出会い
うわぁ、話進まない。再会シーンの初っ端が一番難しかった。
レン達が『邪徒』討伐から戻り、冒険者ギルドと酒場の2手に分かれた。ギルド職員がどちらにいても良いようにだ。
狩人たちが酒場の扉を開くと、出迎えたのはギルド職員でも狩人でもなくカーラであった。カーラがここにいることを不思議に思ったが、討伐成功の報告の方が先だ。狩人の1人がギルド職員がいないか聞き、他の場所にも『邪徒』が現れたことを知ることになった。狩人たちはギルド職員もセイジも出向いているのなら問題ないだろうと判断し、そのまま打ち上げの準備に入ることにした。
レンと修はトゥールニャータを連れて冒険者ギルドの方に寄っていたため、数分後酒場へやって来た。入り口に残った狩人からセイジ達の話を聞き、レン達も打ち上げの準備に取り掛かろうとしたが、1つ、問題があったのだ。
「……ねぇさま?」
トゥールニャータが声を掛けた方へ顔を向けたレンと修は、体の自由が利かなくなる。レンの右手は自然と斧を出していた、それが当たり前であるかのように。『異界種』と『白竜』が出会えば、こうなるのは当然のことであった。
ざわめく空間、レンが『白竜』に向かい振りかぶろうとしたが、後ろから抱き着かれたことにより果たされることはなかった。
「レン、ダメです。しっかりしてください」
レンを止めたのはトゥールニャータだ。修も同じように武器を取り出していたのだが、そちらは狩人たちが止めていた。勝手に動いた自身の体に、レンも修も混乱していた。しかしトゥールニャータだけは、始めからこうなることが分かっていたかのように冷静だった。
場の空気を変えたのは、ドアを開く音であった。セイジ達が帰還したのだ。レンと修の体がぐらりとよろめき、武器を取り落とした。そのままへたりこむ2人に周囲はほっと一息つくことが出来た。
その場だけ、空気が重かった。席に座るのは6人、セイジ達『異界種』3人、『白竜』、ギルド職員、そしてトゥールニャータだ。狩人たちやカーラは打ち上げの準備を続けていた。
「……『異界種』が『白竜』や『竜種』に対して敵対行動をとるのは女神の所為って言われてもな、わけわかんねぇよ」
「僕らは『白竜』に敵対する気はありません。でも、女神が原因だと言われてもピンと来ないんです」
「う~ん、そうなるよね。まあ、敵対してこなければいっかなーってところだし」
レンも修もイマイチ『白竜』の話が信じられずにいた。当然だ。表の反対は裏のように2極化できる話ではない。そもそも、遠くはない未来の話で『女神』と『白竜』が争ったとしても、2人はその争いに参加したいとは思っていなかった。
「この話は面倒だからやめやめ! とりあえず俺らは敵対しないし、体が勝手に動くようなことがなくなるなら、別に『白竜』が体を作ってもいいよ。そんなことより、自己紹介とかきっちりやった方がいいと思う。コイツはトゥールニャータ、多分『異界種』だ」
「トゥールニャータ?」
レンが無理やり話を逸らすために言った名前に反応したものがいた。『白竜』、そしてなぜかセイジだ。トゥールニャータという名は『女神』の名であるため、この世界にいる『白竜』が知っているのはおかしくないのかもしれない。しかし、セイジはレン達と同じ世界から来ているのだ。席にいた5人の驚き交じりの視線を受け止めながら、セイジはトゥールニャータに声を掛ける。
「ミュランクラディオ、という名を知っているか?」
「……はい。あの、セイジ……さんと『白竜』と3人で少し話をしてもいいですか?」
トゥールニャータが困ったような顔で辺りを見渡すと、ギルド職員はさっさと行けと言わんばかりに手で払う動作をした。レンや修も大丈夫だと答え、セイジ達は席を離れた。ギルド職員が冒険者ギルドに今人がいないから丁度良いだろうと、席を立つときに教えてもらったため3人は酒場を出た。
夕方が近づく薄暗い部屋に、三角形を作るかのようにセイジ達は立っている。
「なぜ、セイジが知っているのか聞いても良いですか?」
「ああ。奴は異世界で酒場の店主をしている。お前の兄であっているな?」
セイジがゲームをしていた時に頻繁に通っていた酒場がある。そこの店主である初老の男性は、セイジによく妹であるトゥールニャータの話をしていたのだ。そのことを、セイジは2人に伝えた。
セイジが答えを聞き、しばしの沈黙が流れた。ミュランクラディオなる存在を知っている3人。セイジの話に『白竜』は突然笑い出し、トゥールニャータは困惑の表情を浮かべた。
「あの世界で、ミュランがいたの? しかも酒場って!」
「ああ、行きつけの店だ。有益な情報の3倍は妹の自慢話をするシスコンだった」
「あーわかるわかる! 本っ当にトゥールニャータの何が可愛いだの、愛らしいだの!」
トゥールニャータが顔を赤くして俯いてるのに気づいていないのか、セイジと『白竜』のミュランクラディオ妹自慢エピソードを次々と上げていく。『白竜』もトゥールニャータも、セイジがミュランクラディオを知っていることは疑いようのないことだと理解できていた。だからこそ、口にせずにはいられない言葉が1つある。『白竜』は、腹を抱えながらセイジに言ったのだ。
「ミュランクラディオは女神、姉だよ?」
次はシスコン話の続き、この世界とゲームの世界について。




