その34 『白竜』と『邪徒』
レンや修はまだ帰ってこないので、セイジメイン。
「……だったら帰っちゃダメじゃないですか!」
セイジを起こしたカーラは怒っていた。セイジが何故椅子で眠っていたのか、理由を聞いたからだ。
『白竜』を冒険者ギルド……横の酒場である『銀乙女の酒場』に送った。酒場である理由は勿論ギルド職員が酒場の方にいたからだ。レン達が討伐から戻るまでは酒を飲むのは禁止と周りから言われていたセイジは、『白竜』の相手をせず一度帰ることにしたのだ。飲みたくて仕方ない酒が目の前にあるという状況が耐えられなかったのである。
カーラが怒っている理由は『白竜』の話相手にならずに帰ってきたという点だ。この世界の住人、特にこの国の人々にとって『白竜』は神のごとき存在だ。カーラにとって信仰の対象たるその『白竜』をないがしろにするのはあってはならない事なのだ。カーラは酒場に行くようにと渋るセイジの背を押すのだった。
「あ! セイジ、丁度いいところに来たな」
「ラゥガン、どうした?」
セイジが酒場に入ると、今すぐにでも出かけようとしているギルド職員と狩人たちがいた。慌ただしい様子にセイジの後ろにいるカーラも困惑しているようだ。
「『邪徒』が出た。もうこの町のかなり近くまで来てるそうだ。討伐隊のルート上じゃないから、こっちで迎え撃つ必要があるだろう」
レン達はリーウィの町から南西にある平原にいるはずだ。今回の討伐で半分よりもやや多い数の狩人が出向いている。そのため町に残す戦力の分もあり、撃退に行ける人数はそう多くは取れなかった。
「そうか、私も参加しよう。『邪徒』の知識を持つ者がいた方がいい」
「しっかし、なんでこう沸きまくるかねぇ」
「十中八九ワタシのせいかな。あっちの狙いは『白竜』討伐らしいかんね。ウァンクナーテっていう女神とは面識ないから、なんで狙われてるかわかんないんだけど」
ギルド職員がそうぼやいたのに答えるかのように、やや遠くから声が返って来た。セイジには聞き覚えがある声、『白竜』だ。
「……今までリーウィの町付近に発生している理由にはならないと思うが」
そのセイジの疑問の答えをギルド職員や狩人たち、それにカーラも理解できているらしい。セイジはリーウィの町と『白竜』について、何か関連性があるか考えてみた。セイジがあまり覚えてない情報といえば、常識や地理だろうか。そして、1つの答えを見つけた。
「発見された『邪徒』は西や南方面から来ていた。目的は北……リーウィの町は北にある白竜神殿への通り道、ということか?」
「そー、だーいせーいかーい」
ニコリと笑みを浮かべ『白竜』は答えた。そして、手をひらひらと動かしセイジを急がせるように言葉を繋げた。
「その狙いのワタシがここにいるから『邪徒』の動きも早いかもね。準備をすぐに終わらせた方がいいんじゃない?」
その言葉がきっかけとなり、ギルド職員や狩人たちはまた慌ただしく置いていた武器を担ぎなおした。セイジは元々ギルド証やタグホルダーをつけていないと落ち着かない性質のため、特に宿に戻り準備する必要もなかった。
酒場から出ていくギルド職員たちについていくセイジに、カーラは無意識のうちにセイジの服の裾を握りしめていた。先ほどの、セイジの髪の毛と同じ色の獣の光景が浮かんだ気がしたからだ。
「カーラ?」
「え? ……ええええと、なんでもないです! いってらっしゃい」
セイジが声をかけるまで、カーラは服を握りしめる手に気付いていなかったらしく大いに慌てた。なんとか、取り繕おうとしたが噛んでしまった。そんなカーラに対しセイジは微笑み返事を返した。
「ああ、行ってくる」
「で、セイジ。コイツぁどんな『邪徒』だ?」
セイジ達が連絡を受け向かった先にいた『邪徒』の数はたった2体。しかし、その体躯はやや大きく四足歩行の獣のような形をしている。
「通称『双子』、レン達が討伐に向かった『物理キラー』の同型だ」
その返事を聞き、ギルド職員は頭を抱えた。タイミングが悪い。『物理キラー』対策のセイジの飛び道具はレン達に渡し、ここにはない。
しかし、この『物理キラー』の『邪徒』、『遠距離キラー』を持つ上位種が相手ではない限りセイジが非常に狩りやすい相手であった。セイジは魔法が使える。そして、持っている武器の大半が魔法武器なのだ。
「私はアレを相手にし慣れている。周囲の警戒を頼む」
そう声をかけセイジはタグから武器を出し、詠唱し始める。両手に持っているのは『魔法銃:青燕』が2丁。『双子』に同時に攻撃を加えるためのチョイスだ。しかし、この銃は下級攻撃魔法しか撃てないため、威力が弱い。
セイジは詠唱をしながら『双子』の片割れに近づき、一蹴り入れた。『獲物』となりセイジが狙われるようにするためだ。セイジはわざと『双子』の間に挟まれるような場所を陣取り、攻撃を交わしていく。同士討ちを嫌ってか、『双子』は攻めあぐねているように見受けられる。
そのうち、セイジの声が2重に聞こえるようになった。『地の中陰:山彦』という魔法によるものだ。この魔法は登録した魔法をまるで山彦のように何度も復唱する。今回登録した魔法は『氷の中陰:魔撃』、魔法攻撃上昇効果を持つ補助魔法だ。
この魔法はプレイヤーのステータスを一切上げず、また重ね掛けが可能であることから補助魔法の中でも特に人気のある呪文の1つである。この魔法攻撃上昇効果というものは、攻撃をしたタイミングから1秒間ほど威力が上がるというもので、重ね掛けが可能となっている。そのため、1つの呪文を止めるまで繰り返す『地の中陰:山彦』と非常に相性が良い。
なぜ、魔法で威力を上げる必要があるかというと、セイジの素の攻撃力では貫通せず核の破壊が出来ないのだ。そのため、セイジは出来るだけ早く魔法の重ね掛けを終わらそうとした。
重なっていた2つの声が途切れた。セイジは『双子』の間に一直線が引けるよう位置取りをし続けている。あとは、セイジに対し正面を向けている『双子』に対し、ただ引き金を引くだけだ――。
――『双子』以外に『邪徒』はいないようで、索敵を担当していた狩人たちは、ほっと息を吐いた。
「こう、なんというか……やたら時間がかかったな。おつかれさん、セイジ」
「私は弱いからな。それを補うには準備がどうしても必要になる」
時間はかかるが相性は良い『双子』を無事倒し、セイジは一息ついたのだった。
低レベルで敵を倒す方法
①超火力の武器やアイテムを使う⇒修の盾
②時間をかける⇒補助掛けまくるセイジ




